第二百二十一話 私の気持ち
「今回は色々あったけど、どうだった?」
「マスコミには追いかけられたけど、元々の目的が目的だったから」
目論見より早くに正体がバレてしまいましたが、世間の耳目を集めるという目的は十分に達成できたようです。その結果マスコミに追いかけられたのは不可避な事態であり、ある意味それが目的だったので文句はありません。
「遊ちゃんマスコミ嫌いだから・・・」
心配そうに顔を見るお母さん。しつこいマスコミにうんざりし、私が声優辞めるとか思ってるのかもしれません。
「ユウリの正体がバレた訳じゃないわ。今の生活は壊れないから辞める気はないわよ」
「なら、いいのだけど」
ほっとするお母さんの顔を見ながら考えます。もしユウリが遊だとバレたら、その時私は声優を辞めるのでしょうか。
声優を辞めて、何も興味を持たない、何もしないあの頃に戻る?蓮田さんとの掛け合いや、朝霞さんとふざけながら司会する事がない生活に戻る?
「遊、遊?どうしたの?」
「ごめんなさい。ちょっと考え事をしていたの。私は声優を辞められるのかって」
無言で見守るお母さん。私は感じた事をそのまま声に出しました。
「例え今の生活が壊れても、私は声優を辞められそうにないわ」
これが私の天職。辞める事は多分、出来ないでしょう。
私の心からの本心を聞いたお母さんは、微笑んでとんでもない事を言ってくれました。
「それは良かったわ。後は素敵な旦那様を見つけるだけね、私みたいに」
突然の恋愛話に、意表を突かれた私の顔が真っ赤になってしまいます。そこに更なる追い討ちが追加されました。
「一時期噂になったKUKI君だっけ、彼は遊的にはどうなの?」
「あれはただの噂よ、お母さんだって知ってるでしょう?」
努めて冷静に反論しようとしていますが、完全に冷静にとはいきません。自分でも声が上ずっているとわかります。
「瓢箪から駒っていう事もあるのよ。遊はまだ若いわ。試しに付き合うという選択肢もあるのよ」
恋ばな大好きな女子高生のごとく、怒濤の攻めを見せるお母さん。仮にも芸能人の端くれである私がお試しで付き合うとか、色々な意味で駄目だと思うのですが。
「ならんぞ、遊はお嫁になんか出さないぞ!」
バンッ、と音を立てて扉を開き、お父さんが乱入してきました。
「あなた、遊の花嫁衣装、見たくないと?」
「見たい、見たいがそれとこれとは別だ!」
二人は目の前の本人そっちのけで言い合います。いくら親でも、本人の意向という物を無視しないでほしいのです。
「えっと、お父さん、お母さん?」
「「遊は黙ってて!」」
「はい」
二人の勢いに反論出来ませんでした。話の内容、私の将来よね?
そこに開いたままの扉から閻魔様がご登場です。怒りを顕にした、妹様でございます。
「お父さん、お母さん、今何時だと思っているのかしら?」
結局、怒り心頭の由紀によるお説教は夜明けまで続くのでした。




