第二十二話 新人声優
ページは進み、いよいよ私の記事。再度トイレに逃げる事も叶わず、やったとしても由紀はまた待っているでしょう。
「あれ?この人見たことない!」
写真に驚き、食い入るように特集記事を読む由紀。姉としてはその記事は読み飛ばして欲しいのですが、そうはいきません。
「へぇ、ロザリンド役代わったのね。綺麗な人だね、お姉ちゃん。これは放送が楽しみだわ」
「由紀、声優は声が売りなのだから声を聞くまでは期待も何も無いのではないの?」
これがドラマでしたら、俳優の容姿は大きな影響を持つでしょう。でも、アニメでは声優の姿は映りません。
「どんな声だろう、楽しみだなぁ」
期待を隠さずに記事を読み返す由紀。その人の声ならば、今夜聞けます。
写真では私だとは判らなかったようです。声も変えてありますし、これならばテレビでもバレないで済みそうです。
その後は大した事もなく、由紀の解説を聞いて雑誌を閉じました。由紀の関心は新人声優に移って、私の事を半ば忘れているようです。
「あら、珍しい構図ね」
仕事を一段落させたお母さんとお父さんが、連れ添ってリビングに入ってきました。娘が高校生になろうかというのにまだまだラブラブで、時折目のやり場に困ります。
「お姉ちゃんも声優に興味もってくれたみたいなの!」
すごく嬉しそうな由紀がお母さんに報告しました。両親は微笑んで私たちを見ています。
「そうか、お父さんも嬉しいな」
考えてみたら、両親も声優さんと接点がありました。お父さんが書いている小説がいくつかアニメ化しているので、イベント等で声優さんと会うことがあるらしいのです。
と考えると、妹がアニメ好きなのは両親の影響?
食事ができたみたいなので、キッチンに行きます。できた料理を運び、揃って食事。
両親は、よくテレビを見ます。特にクイズ系や教養系は小説の参考になるらしく、録画までしています。
つまり、これから始まるクイズ番組を家族揃って見る事になるわけです。私がユウリであることは三人とも知らないけれど、かなり恥ずかしい。
恥ずかしいから、見たくない。でも、見ないわけにはいかない。相反する感情に悶々としている間にも、刻々と時間は過ぎていきました。
そして、運命の八時になりました。タイトルコールと共に、番組が始まります。
「お姉ちゃん、この司会してる人がこの間言った朝霞さんだよ」
由紀が嬉しそうに説明してくれました。説明されなくとも、よく知っていますとも。何度も直にお会いしましたから。
出演者の紹介が進み、いよいよ私の番が来ました。自分をテレビで見るって、何だか変です。お化粧をしているし、髪型も違うので自分だという感覚が薄いような気がします。
初めてテレビで見たユウリは綺麗で、私じゃないみたいでした。鏡で見た感じとはまた違って、不思議な感じがします。
「あら、可愛い子ね」
「新人みたいだな」
「この人、雑誌に出てた!」
由紀が雑誌を取りだし、例のページを両親に見せました。その雑誌、どこに持っていたのでしょうか?
「本当だ、番宣で出たんだな」
由紀程には興味のない両親は、あまり興味を示しませんでした。私としては助かりましたが、由紀は不満そうです。
番組が進み、中盤戦。私は優勝したためか、映ったシーンはあまりカットされていませんでした。
「新人の子、凄いわね」
「見た目若いのに、優勝争いしてるな」
「優勝するかもね」
もつれこんだ優勝争いに、三人は夢中になっています。私だけは結末を知っている事もあり、冷静に見ていました。
CMになった時、由紀が私の冷めた雰囲気に気付きました。
「お姉ちゃん、面白くないの?いつもは熱心に見てるのに」
この優勝争いの結末を知っているというのもありますし、自分が絡んだ優勝争いを熱心に見られる筈もありません。しかし、前者は兎も角後者の理由は口が裂けても言えません。
「この収録、見学に行ったから結末を知ってるのよ」
苦笑いしながら答えます。それを聞いた由紀の行動は素早いものでした。
「えー!じゃあ、生で朝霞さんとユウリさんを見たの!」
ソファーから立った由紀は、私の襟を掴むと前後に揺さぶり出しました。
もう少し冷静になって欲しいけれど、無理な相談なのでしょうね。




