第二百十九話 とある体験談
その人は車で東京から名古屋に仕事で行き、更に大阪まで行ったそうです。
名古屋での仕事を終えてカーナビに相手の住所を打ち込み、間違えていないか確認。名古屋から大阪にむけて出発しました。
道路が空いていたので、経費節約のために高速道路は使わなかったそうです。基本国道を淡々と走るだけの、つまらない道中。
一瞬気が遠くなりふと気づくと、周囲は山が並び道路は細くなっていました。慌てて車を停めカーナビを確認すると、ルート指示は山の中へと続いています。
その人は子供の頃から通った道を覚える癖がありどんな道を通ったか地図で確認していたそうで、その時も東京から名古屋までの道程をハッキリと覚えていました。
しかし、名古屋を出てからどんな道を通ったのか。国道をいつ外れたのか、ここはどの辺りなのか全く分からなかったそうです。
その人は以前見た怪談体験談を思い出しました。
あるカップルが予約したレストランに行こうと車を走らせていたら、気が付くと山の中にいました。慌てて車を停めると、目の前は切り立った崖で落ちる寸前。
寸での所で命を拾った彼の耳許で知らない女性の声で囁きが。
・・・惜しい。もう少しだったのに
その話を思いだしすぐにカーナビをセットし直したその人は、かなりの時間がかかったけど無事に大阪に着けたそうです。
「という話をその人から直接聞いたわ」
「それじゃ、私達も、もしかして・・・」
「ユウリさん、それ、シャレになりませんよ」
桶川さんと運転手さんは、一目で分かる程に体を震わせ怯えていました。私も、まさかそれを自分で体験するとは思わなかったので震えがきています。
「私、幽霊とかダメなんですよ!」
「私も出来れば遠慮したいわね」
真っ青な顔で主張する二人。私は比較的こんな話には強いと自認していますが、流石に命に関わるレベルの霊現象は勘弁して欲しいです。
「まあ、幽霊が大丈夫なんていう奇特な人は少ないでしょうね。私は人並み以上には平気だけど、流石にこのレベルは・・・」
幽霊に怯えた運転手さんがとばし、田畑や山しか見えなかった風景が町並みに変わっていきます。
「街が見えてきたわ」
「漸く安心できます」
遠目にどこかの町並みが見えてきました。遠目にお城が見えます。カーナビによると小田原城でした。
「今回のお土産は蒲鉾と提灯で決まりね。」
「あんな目にあったのに平常運転のユウリちゃんが心底羨ましいわ」
小田原の駅前で降ろしてもらい、土産物を物色しました。色々買い込んで新幹線に乗った所で漸く一安心です。
結局、今回も小旅行となりました。逃れる術は無いのかしらね。
実話です。もう少し気付くのが遅かったら、私は何処に連れていかれたのでしょう?




