第二百十二話 新作イベント
この世界は平行世界です。なので誤字ではありません。
「裏和って、県庁があるのに知名度低いわよね」
「でも、一部には有名よ。駅名に東西南北が揃っているのは日本では裏和だけだから」
それだけではありません。裏和とつく駅は大量にあるのです。
裏和・北裏和・南裏和・東裏和・西裏和・武蔵裏和・中裏和・裏和美園。
もう少し捻ったネーミングをしてほしいと思うのは私だけじゃないはずです。
「まあ、群馬も県庁がある前橋はマイナーだからな。そういう場所もあるさ」
「えっ、前橋は有名じゃないですか?」
お父さんの言葉に友子が疑問を挟みます。私には前橋と言われて有名な物を思い浮かぶ事が出来ません。精々前橋競輪くらいです。
「双子の高校生の青春野球漫画のモデルになった高校があるじゃないの」
「友子、そんなごく一部の人しか知らないネタでは有名とは言えないわよ?」
せめて某幼稚園児とか、某神社のように作品名を聞いてその土地が連想出来る程度であってほしいです。
「おっ、ここだな。二人とも、着いたから降りる準備をしてくれよ」
雑談をしているうちにイベントが行われる場所に到着したようです。私と友子は荷物(と言ってもポーチくらい)を準備しました。
駅前に作られた特設ステージの前には、沢山の人が集まっていました。ステージ脇に設置された大型スピーカーからナレーションが流れると、皆一斉にステージに注目します。
「平和なオオエドに悪が蔓延り、罪なき民が泣いたとき。正義の武者が舞い降りる!」
ステージ背後のパネルの上からピンクの物体が飛び降りました。ショッキングピンクのその物体は、着地すると同時に太刀を抜き見事な剣舞を披露しました。
「悪を滅ぼし正義を守るスペース侍、ここに見参!」
決めポーズをとると観客から拍手と声援が沸き起こりました。それに被せるように司会者さんのアナウンスが流れます。私にはその司会者さんの声に聞き覚えがありました。
「鎧武者さん、見事な剣舞をありがとうございました。皆様、もう一度盛大な拍手をお願いします」
拍手しながら司会進行の女性が現れました。その女性は想像した通りの蓮田さんです。ベテラン声優の蓮田さんが何故こんな仕事をやっているのか、小一時間問い詰めたい所です。こういう仕事は、駆け出しの芸能人がやるというのがお約束です。
「北本先生の最新刊、スペース侍の無双伝説。面白いですよね」
笑顔で言う蓮田さんに「まだ見てないよ」とか「今日発売だからこれから見るから」との声が飛びました。発売当日のイベントなんだから当たり前です。
蓮田さん、どうやって発売前のスペース侍を読んだのでしょうか?




