第二百六話 混ぜたら危険でした
「それなら、凝った物も大丈夫ねぇ」
お母さんの瞳がキラン!と光りました。ヤバい予感しかしませんが、もう後に退く事は不可能です。
「お母さん、時間をそんなに稼げないから。シンプルにお願いね!」
一昔前の紅白のトリみたいな衣装を出されても困ります。しかし、お母さんならやりかねないのでしっかりと釘を刺しておきました。
「仕方ないわね。遊ちゃん、その人の所に連れていってちょうだい」
「電話して都合を聞いてみるわ。ちょっと待ってね」
携帯を取り出して気が付きました。私、深谷さんの連絡先を知らないのです。
タウンページで調べてもみましたが、深谷さんのお店は載っていません。趣味でやってるので、宣伝をする必要がないのでしょう。
万策尽きたので、桶川さんに聞く事にしました。幸い桶川さんは仕事が一段落ついた時だったようで、すぐに電話に出てくれました。
・・・お仕事を重役の皆さんに押し付けてサボっていたという可能性は、高いですが考えないようにしましょう。
「あ、桶川さん。お母さんの協力は取り付けました」
「こっちもオッケーよ。出来れば早くに町子の店にお母さん連れて来てほしいんだけど、大丈夫かしら?」
「大丈夫です。これから向かいます」
深谷さんもオッケーなうえ、これから来て欲しいとの事でした。収録まで時間の余裕があまりないので、早くに段取りが進むのはかなり助かります。
「先方も大丈夫だって。早めに来てほしいって言われたわ」
「それならば、すぐにでも行きましょう」
外に出ると、お父さんが車を用意して待っていました。さすが、夫婦の呼吸はピッタリと合っています。
今、私は少し後悔しています。お母さんを巻き込まなくても良かったのではないでしょうか。
収録スタッフくらいなら主人公が私である事を明かしても良かったのではないでしょうか。
それ以前に、私がナビィとクラウンの2役であると発表していても良かったのではないでしょうか。
そんな思いに囚われてしまいます。その原因は、目の前の光景です。
「この発想は無かったわ。凄い!」
「あなたは服飾職人で、私は空想上の衣装を考案するからよ」
お母さんが物凄い勢いでラフを書き、それを見た深谷さんが感嘆しています。
「ふふふ、ユウリちゃんにこの服をと思うと・・・」
「この辺は私じゃ作れないから諦めていたのよね」
突飛なキャラクターや衣装をイラストにするお母さんと、超一流の腕を持つ服飾職人の深谷さん。この二人が組んだ時、どんな衣装が作成されるのか・・・
これが傍観する立場なら、わくわくしながら見ていれたと思います。しかし、その衣装を着るのは私だから洒落になりません。
「お母さん、ほどほどに、ね?」
顔をひきつらせながら言った言葉は、完全に無視されました。無言で首を振るお父さん。諦めろ、という事でしょうか。




