第二百三話 気の合う二人
「あら、何の動画かしら?」
「秘密です!」
正体を知ってる桶川さんには見られても支障がないと思うのは甘い考えです。桶川さんにこんなものを見せると、絶対に余計な仕事が増えるのです。
二人とワイワイやりながら作るのは楽しかったのですが、遊びでやるのと仕事でやるのは訳が違います。
「そう言われると気になるわね。友子ちゃん、発売前のユウリちゃんグッズで手を打たない?」
友子は即座に反応しましたが、先程の事があるからか私の方をじっと見ています。雨の中、捨てられて拾われるのを待っている仔犬のような目で見つめる友子に私の精神が負けました。
「負けたわ。友子、いいわよ」
潤む友子の瞳に抗えませんでした。甘すぎる事は自覚していますが、直そうとして直るものでもありません。
そんな私達を無視して再生される動画を見る桶川さん。嫌な予感しかしないのは私だけでしょうか?
「これって、あなたたちが作ったの?」
「作詞作曲は遊です。私と由紀ちゃんは手直しを手伝っただけです」
友子の回答を聞いた桶川さんが、黒い笑みを浮かべています。どうやら、私の嫌な予感は的中してしまいそうです。
「遊びで作ったものですから。世に出せるような曲は作れませんよ」
無駄かもしれませんが、釘はキッチリと刺しておきました。効果がどれだけ低くとも、やらないよりはやった方がマシですから。
「それはそれとして。ユウリちゃん、この曲音だけコピーしても・・・」
「ダメです!」
そんなの許したら、絶対に商品化するに決まっています。その単発だけで終われば良いのですが、絶対にそれだけでは終わらないでしょう。
その後、セリフを入れた方が面白いとか、いっそ主人公とデュエットにしたらとか二人で盛り上がっていた。言うのは良いのですが、そのアレンジは誰がやるのでしょう。
かなりの時間をその話に費やし、気がつけばユウリのお仕事の時間が迫っていました。結局、友子を連れてきた目的であるイベントの話は全くしていません。
「桶川さん、そろそろ私は仕事に行く時間になりますけど?」
「え、もうそんな時間?」
腕時計を見て慌てる桶川さん。この人は仕事もせずに何をやっていたのでしょう。
「岡部さん、もっと頻繁にいらっしゃい」
「学校公認で休めるようになったのでそうします」
公認と言っても、仕事(内臓)をやるための公認であって、桶川さんとダベるための公認ではありません。それを認識しているのでしょうか。
もっとも、あの校長と教頭ならばそれでも黙認しそうですけど。
「あの子面白いわね。グッズの企画とかやらせてみたいわ」
「友子が同意するなら反対しないですけど、程々にして下さいね」
歯止めをかけておかないと、どこまで暴走するかわかりません。これは胃痛の種が増えたようです。
「はいはい。それと、これお願いね」
渡された紙を見ると、遊びで作った歌の改良バージョンが書いてありました。桶川さんはこれをどうしろと言いたいのでしょう。




