第二十話 由紀の追及
「ただいま」
リビングを覗くと、由紀がアニメを見ていました。巻き込まれないうちに逃げるのが最良ですが、家族とのコミュニケーションを放棄するつもりはありません。
由紀のアニメ好きには辟易していますが、由紀を嫌いな訳ではないのです。
「お帰りなさい。ご飯食べた?」
「まだだけど・・・もう食べたの?」
「うん。お姉ちゃんの分もあるよ」
私はキッチンに行き、おかずを暖めてリビングに運びます。黙々と食べていると、由紀は私の顔をまじまじと見ていました。
「顔に何か付いてる?」
「化粧品」
あ、化粧落としていませんでした。焦りを隠し、何事もないかのように答えます。ここで狼狽えたりしたら、由紀の追及が厳しくなります。
「それがどうかしたの?」
「あれほど言ってもお化粧しなかったお姉ちゃんが・・・彼氏でも出来た?」
斜め上の方向に突き抜けた質問に、危うく吹き出す所でした。すんでの所で踏ん張った私は、称賛されるべきだと思います。
強く否定したいところですが、声優になった事がバレるよりも彼氏が出来たと思われる方がまだマシです。かと言って全く否定しないのも不自然なので、軽く否定して逃げるに留めましょう。
「そんなわけないでしょ。疲れたし、もう寝るわ」
食べ終わった食器を持ち、流しに向かいます。私の答えに納得していない由紀は、私をじっと見ています。納得していないようですが、よもや私が声優デビューしているとは夢にも思わないでしょう。
「何か怪しいのよねぇ」
由紀を無視して、食器を食洗機に放り込みます。変な方向に勘違いしてるから真相はバレないと思いますが、これはこれで面倒な事になりそうです。
どちらの方が嫌かと言えば、声優業がバレる事の方が嫌に決まっています。なので由紀には誤解したままでいてもらいます。
一旦部屋に戻り、部屋着に着替えて下着を持ってお風呂場に。お湯の中でぼんやりと考えます。明日・・・どうなるのでしょう。
化粧をした顔を由紀に見られてしまいましたが、ユウリとは髪型も声色も変えてあるのでバレないでしょう。
両親はバレても元から話すつもりなので問題ありません。遅いか早いかの違いでしかありません。
怖いのは由紀が居る時に両親が気付く事ですが、由紀の前で口にしない事を祈るしかありません。
親友の友子には、話さざるを得ないでしょう。彼女は同じ高校に進むでしょうし、仕事で早退や遅刻をすれば察してしまうと思います。
なので、早めにばらして正体が知られないよう協力してもらうつもりです。
由紀の同類なので声優だとばらすのは少々怖いのですが、避けて通る事も出来ません。こればかりは運を天に任せるとします。
あれこれと考えていたら、長湯になってしまいました。思考を打ち切ってあがるとしましょう。
風呂から出て自分の部屋へ戻ります。疲れているけれど、髪の手入れは怠れません。長い髪は維持も大変なのです。
時間をかけて髪の湿気を取り除き、ドライヤーで乾かしました。痛まぬようにタオルで保護すると、ベッドにダイブします。矢張り疲れていたようで、寝転ぶとすぐに眠ってしまいました。




