第二話 私の日常
本日二話目です。
「ふぁ~っ」
他人には見せられない、大きなあくび。でも、部屋の中には私しか居ないのだから気にしません。
私は北本 遊。絶賛受験シーズン中の中三女子。もっとも、推薦入学が決まっていて、受験とは無縁のノンビリ生活。
自分で言うのもなんだけど、私は頭が良いのです。学年首席をキープしているので、志望校には問題なく合格しました。
それなのに・・・それなのにうちの家族ときたら!
私は顔を洗うために洗面所に向かう。顔を洗いタオルで拭いて、眼鏡をかけると鏡に映る自分を見ました。
二つに分けた三編みを、さらに三重の輪っかにした髪。化粧などしたことの無い顔。かけなくても生活出来るのだけど、癖のようになってしまった眼鏡。
学校に一人くらい居そうな、典型的な根暗キャラ。それが私。
両親や妹は、「化粧をしろ」だの、「眼鏡は外せ」だの言うけど、私は私。家族が何と言っても変わりません。
面倒だからというのが、本当の理由だったりします。
そんな私の密かな自慢がこの髪。三編みを解くと膝下まで届く黒髪は、自画自賛だけど結構綺麗なのです。
「お姉ちゃん、おはよう」
リビングに入ると、妹の由紀と両親がいました。由紀はショートカットの黒髪で、いかにも快活そう。実際、趣味はテニスで、他のスポーツも万能。私もスポーツはそこそこ出来ますが、この子には敵いません。
「あら、おはよう」
「お、早いな」
お母さんは専業主婦で、お父さんは小説家。お父さんは結構売れっ子で、お母さんは専業主婦と言ったけどお父さん専用のイラストレーター。
かなりの人気イラストレーターで、結婚してお父さんの専属になったそうです。
「遊、お前、勉強ばかりしてたらダメだぞ?」
「そうよ。夢中になれる事を見付けないとね」
両親は、趣味の延長でついた仕事を通じて知り合いました。なので、小さい頃から「夢中になれる事を見つけろ!」と言われ続けています。
妹は早々にテニスに夢中になり、中学一年にして全国ベストエイトの腕前。それに対して私は、色々試してみたけど、夢中になれた試しがないのです。
どれもそつ無くこなし、結構なレベルにはなれます。でも、それだけ。「出来る」と「夢中になれる」は違うのです。
真面目に勉強してて怒られる家というのは、そうそう無いでしょうね。
私は適当に返事をして部屋に戻ります。着替えをし、ポーチに財布等を入れてまたリビングへ。
「出掛けてくる!」
それだけ言うと、すぐに飛び出します。家にいても両親には趣味を見つけろと煩く言われ、妹はアニメを見せに来ます。
由紀は重度のオタクで、漫画・アニメ・ラノベ・携帯小説を見まくっていて、巻き込もうとする。
幸い腐ってはいない。彼女が池袋に近付かないようにと、毎日願っている今日この頃。
さて、どうしましょう。出て来たは良いけれど、目的なんてありません。服も別に興味ないし、アクセサリーも同様。本屋も参考書位しか見ないから行く気がしません。
こうやって考えると、本当に私ってつまらない。家族が「趣味を見つけろ」と言うのもわかります。
学校がある日はただ学校へ。無い日は、ただこうしてブラブラと。なにもしない1日が、ただ過ぎていく。
それが私の日常。そう。それが私の日常でした。今日までは。