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第百九十八話 本編の前に

 映画館につくと、長蛇の列が出来ていました。これでも早めに出てきたのですが、それでも遅かったようです。


「コミケ以外でこの長さの列に並ぶのは、ちょっと気が引けるわね」


「その点、私達は並ばずに済むからお姉ちゃん達に感謝ね」


 由紀の言う通り、私達はこの列に並びません。人類社会が産み出した強力な武器、コネクションを利用させていただきます。

 人の多い正面を避け、あらかじめ聞いていた従業員用の通用口へと回ります。


「すいません、こちらの入り口は関係者以外立ち入り禁止です。表の列にお並び下さい」


「これで良いですか?」


 関係者専用通路に近付く私達を止めようとした警備員さんに関係者用パスを提示します。その効果は覿面で、警備員さんの態度がコロッと変わりました。


「失礼しました、お通り下さい」


 今回使用した関係者用パスは、実はユウリの特権で得た物ではないのです。


「暑いし体力使うし大変だけど、その恩恵は十分かしらね」


「友子はまだ良いわよ。私は殺陣までやるのよ」


 今回の特権は、私と友子がとある仕事を引き受けた報酬の一部として受け取った物なのです。その仕事を受けるに至った経緯も直接的にはユウリは関係しておらず、この件を調べられたとしても私とユウリの関係は一切出てくる事はありません。


 関係者用通路から出て一般の人もいる通路へと出ると、人で溢れていました。人混みを掻き分け、指定された席へと辿り着きます。


「あっ、飲み物とポップコーン忘れたわ」


「あの人混みの中を買いに行くのは嫌だわ。我慢しましょう」


「ポップコーンの無い映画なんて、ユウリちゃんの出てない悪なりみたいなものだわ。由紀ちゃん、行くわよ!」


 訳のわからない例えを残し、友子は由紀を連れて人の海へと漕ぎ出して行きました。残された私は、二人が遭難せずに無事帰る事を祈るのみです。

 少しして無事に三人分のポップコーンと飲み物を確保して帰ってきました。


「よくまあ、あの中を買ってきたわね」


「それくらい出来ないと、年二回のイベントは乗りきれないわよ」


 友子の返しに凄く納得しました。あの驚異はもう味わいたくありません。


「お姉ちゃんたち、始まるわよ」


 場内が暗くなり、案内のアナウンスが流れます。それが終わるとスクリーンが白く光り、映像が映し出されました。


「オオエドの町に悪が蔓延り罪の無い町民の涙が流れる時、正義の刃が悪を討つ!」


 アナウンスが流れ、奇妙キテレツな鎧を着こんだ鎧武者が刀で普通の侍を切り伏せます。


「悪を懲らしめ正義を守る、スペース鎧武者、ここに見参!」


 剣技を披露し、刀を鞘に納めた鎧武者の映像が消えると、スクリーン一杯に字幕が映し出されました。


 北本先生の最新作、今秋発売。武蔵裏和にて発売記念イベント開催決定


「武蔵裏和で僕と握手、約束だ!」


 字幕が消え、再び映し出された鎧武者が力強く腕を出して予告は終了しました。


「・・・もう帰りたい」


「お姉ちゃん、映画はこれからだよ!」


 今の予告で、私の精神力は使い果たしました。唯一の救いは、あの鎧武者の中身が私(北本遊)だと知られていない事です。


 もしもこの場であれが私だと知られたら、私は二人を置き去りにしても逃げ帰ります。

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