第百九十七話 休みの朝
はた迷惑な事件から数週間が経ち、ようやく影響も消えてマスコミは新たな話題をお茶の間に提供しています。
私は相変わらず学生と声優の二足のワラジをはいていて活動し、オラクル・ワールドの収録も順調で充実した毎日を送っています。
「しかし不思議よね」
「全然解らないわ。遊、あなたも知らないのよね?」
もう何度もされた質問を繰り返す友子。その横で腕を組み首を捻る由紀。私達は北本家の私の部屋で謎の主人公Xを暴くという会合を行っております。
謎の主人公Xの考察をするのは自由ですが、休みで寛いでいる私の部屋に押し掛けてきて多数決という数の暴力を使い協力させるのは止めてほしいです。
「知らないわよ。共演者にもまだ謎なのよ」
オラクル・ワールドの主役を張る謎の声優Xは、その正体をまだ知られていません。収録もピンマイクを上手く活用する事により、共演者にすら隠し通しています。
一般のマスコミは扱わないものの、アニメ系の雑誌や掲示板等ではその正体について激しく議論されていて、製作者サイドの思惑は見事に当たっています。
製作者サイドの唯一の誤算は、監督が主人公の正体を関係者にも一切明かさなかった事。現在謎の主人公Xの正体を知るのは私と監督、桶川さんの三名のみなのです。
「全く情報が漏れないなんて・・・悔しいわ」
「普通は製作サイドの関係者から少しは情報が漏れるのに、これに関しては一切漏れていないのよねぇ」
関係者が情報を漏らそうにも、関係者達も正体をしらないので漏らしようがありません。情報規制としては最上級なのではないでしょうか。
「ほら、早くいかないと映画が始まるわよ。グッズとかも買うのなら早めに行った方が良いでしょ」
今日はこの会合がメインという訳ではなく、今日封切りになる新作映画の「劇場版悪役令嬢になんかなりません」を見に行くのです。
気になる内容は「激闘!モフモフ騎士団VSウサミミ諜報員」と「捕らわれのウサミミ諜報員~捕縛したのは王子様・恋の鎖は脱出不可能~」の豪華二本立てとなっております。
「そうね、急がないと。是非とも限定版ラビーシャちゃん成りきりセットを購入して遊に着てもらわなくちゃ」
「楽しみだわ。でも、お姉ちゃんは出てないのよね」
これから見に行く映画は、蓮田さん演じるラビーシャちゃんが主役なので私が演じるロザリンドちゃんの出番がないのです。
それと友子、それは蓮田さんに着せるか自分で着て下さい。私は絶対に着ないしウサミミも着けません。




