第百九十五話 ラスト・デイ
もしもユウリの姿でマスコミに発見された場合、ここがユウリの家だと露見する恐れがあります。遊の姿で出て私マスコミに追いかけられるのは嫌ですが、ユウリの家がバレるのは最も避けなければならない事態です。
「そこまで頭が回ってなかったわ。ありがとうございます」
「お礼なんかいいから行きましょう。朝霞様が待ってるわ!」
土呂刑事は今にも飛び出しそうな勢いです。しかし残念な事に脳力試験の収録は夕方からで、その前に別のお仕事が一件入っているのです。
「そんなに急いでも、仕事に入る時間は決まってるから同じですよ。それに、脳力試験の収録は夕方からです」
冷静に突っ込むと土呂さんはあからさまに落胆し、テンションがあからさまに下がりました。
「残念、夕方まで朝霞様に会えないのね・・・」
テンションが落ちた土呂刑事を慰めていると、桶川さんも早めに迎えに来てくれました。土呂刑事を伴い遊のまま車に乗ります。
「遊ちゃんおはよう。土呂刑事元気ないけどどうしたの?」
「単に現実を知らされただけです」
今だに夢中になれる物を見付けていない私には、とても理解できない心理状態です。でも、そんな人達が私の商売の主なお客様なのです。
「その土呂刑事なんだけど、護衛は今日までって署長さんから電話があったわよ」
「何でそれを桶川さんが?」
署長さんから桶川さんにそれを言う理由が思い付きません。遊(護衛対象)=ユウリだと知っていれば別ですが、署長さんは知らないはずなのです。
「土呂刑事、携帯忘れて行ったのよ。署長さんが留守電に録音してたメッセージが聞こえちゃったの」
「そういう理由ですか」
昨夜桶川さんの車で家まで送ってもらった土呂刑事は、車内に携帯を忘れてしまったようです。桶川さんがそれに気付いたのは事務所の駐車場に入った時で、署長さんからの着信がありその着信音とメッセージで気付く事が出来たそうです。
「今日はトーク番組の収録と脳力試験の収録よ」
「了解です。いつも通りで問題ないですね」
テレビに出るのもすっかり馴れました。半年前はごく普通の女子学生だった筈なのですが。あっ、取材攻勢はまだ慣れません。
「そうね。問題ないと思うわ。土呂刑事、今日で最後になるけどしっかりとお願いしますね」
桶川さんが話しかけても、土呂刑事からの反応がありません。どうしたのかと後ろを見ると、土呂刑事は白く燃え尽きていました。
「そんな、今日で最後?明日からは朝霞様に会えないと言うの?」
ブツブツと何事か呟き続ける土呂刑事。いつまでもこの仕事(護衛)が続くと思っていたのでしょうか。
「遊ちゃん、これは放置した方が良いわ」
「そうですね。そっとしておきましょう」
土呂刑事は車が事務所に着いても元に戻らず、彼女が復帰したのは夕方になってから、脳力試験の収録目前になってからでした。
桶川さんは護衛になってないと怒っていましたが、ユウリの時は大丈夫でしょうし問題なかったので私は気にしていません。




