第百九十一話 二人の教育者
「そうですか、それは大変でしたね。金曜日は欠席ではなく公欠扱いにしておきます」
「無事に切り抜けたと報道で伝えられて知ってはいますが、怪我はしませんでしたか?震えが出たり、手足が動かなくなるなんていう事はありませんか?」
校長先生も教頭先生も、純粋に私を心配してくれました。特に教頭先生は襲われた事で後から感じる恐怖についても言及し、フォローしようとしてくれています。
「お気遣いありがとうございます。怪我もありませんし、特に恐怖も感じていません。友子も今の所は大丈夫なようです」
私に恐怖による後遺症はありません。正直、あんなちゃちな改造銃で撃たれる事よりもお母さんから受けた修行の方が・・・
「北本さん、北本さん!大丈夫です。プロデューサーはもう逮捕されました。ここに貴女に危害を加える者は誰もいませんよ!」
「くっ、やはり後遺症が・・・専門医のケアを依頼しなくては。友子君にも受診するよう連絡しないと」
「あっ、すいません。お母さんとの修行を思い出してしまいまして・・・」
慌てて狼狽する二人に真相を話します。最初は信じてもらえませんでしたが、修行の内容を軽い方から順に話していくと二人の顔色が変わっていきました。
「とりあえず元の話題に戻しましょう。マスコミが来ていますが大丈夫ですか?」
「ええ。対策はしましたから」
教頭先生の質問に、具体的には答えずにお茶を濁します。先生に塀を乗り越えますと正直に答える訳にはいきません。
「ならば良いのですが、奴等はしつこい上に手段を選びません。気を付けて下さい。アイドル声優として活躍しているユウリさんに今更言う事ではないかもしれませんがね」
「いえ、お気遣い嬉しく思います。ありがとうございます」
確かにマスコミ相手に商売をしている私には今更という感もありますが、校長先生は純粋に私を心配して言ってくれたのです。その想いには感謝しかありません。
「これからも私達に出来る事があれば力になります。遠慮なく申し出て下さい。それでは、帰りも気をつけて帰って下さい」
徐に二人が立ち上がりました。質問はこれで終わりのようです。もっと詳しく事件の内容について聞かれると予想していた私は、拍子抜けして反応が遅れてしまいました。
「どうしました?」
「いえ、もっと根掘り葉掘り聞かれると思っていたので拍子抜けしただけです」
教室で囲まれて聞かれたように、とまではいかなくとも事件の事を詳しく聞き出してくると思っていました。
実際、先生方も根掘り葉掘り聞いてきたので、教員だから自制するとは思っていませんでしたし、そうなるのも無理はないとも思っていました。
「これが我々に対応出来る事件なら、色々と聞いたでしょう。これからの対策のためにね。しかし、この事件は学校がどうこう出来るレベルを越えています」
「ならば、興味本意であれこれ聞き出すのは教育者のやることではない。そう判断しただけですよ」
校長先生も教頭先生も、こういう所はしっかりとした尊敬すべき教育者なのです。ただ一つの欠点、変態であるという事を除けば完璧な教育者なのですが。
この世に完璧な人間など居ないという事なのでしょうかね。




