第百八十九話 教室での攻防
教室に入った途端、おはようと挨拶する間もなくクラスメート達に詰め寄られました。素早く背後にも回り込まれ、教室の中心部へと誘導されていきます。
「キターーーー」
「北本さん、話聞かせて!」
「本当に銃弾をかわしたのか?」
幾重にも包囲され、蟻の這い出す隙間もありません。援軍を求めて友子を探しましたが、まだ来ていないようです。マスコミに捕獲されたのでしょうか。
「はいはい、落ち着いて。銃弾は一応かわしたわよ。でも、無条件で出来る芸当じゃないの。サイレンサーで初速が落ちていたというのが大きかったわね」
次々と繰り出される質問に矢継ぎ早に答えていきます。HRが始まるか友子が来るまでの我慢だと思っていたのですが、先生まで質問に加わっていた上に友子も人垣を掻き分けられず接近出来ないので終わりが見えません。
「はいはい、そこまで。とっくに1時間目は始まっているわよ!」
接近を諦めた友子が叫び、漸く質問の嵐は終了となりました。授業の間に休み時間の対策を練らねばなりません。
「友子、ありがとう」
「気にしないで。ロザリンドちゃんのコスプレ写メ撮影で手を打つから」
友子に対する感謝の念が急速に萎んでいきました。まあ、冗談だと思うので気にはしませんが。
・・・冗談、ですよね?
一時間目の休み時間は授業が終わると同時に気配を消して教室から飛び出し、授業開始ギリギリに戻るという手法で質問地獄を回避しました。
しかし二時間目の休み時間からは前後の入り口を授業終了間近から封鎖されていた為、全力で気配を殺して隠れ続けて難を逃れました。
お母さん、幼い頃に習った忍術がこんな所で役に立ちました。人生で習得出来る事柄に無駄な物などないと染々と感じた一日でした。
HRが終わり、影分身でクラスメートを撒いて教室を脱出した私は、無事に友子と合流出来ました。
「遊、帰りはどうする?また塀を越える?」
「そうするしかないかしらねぇ」
正門をチラリと見てみれば、マスコミはまだ門の前で張っていました。あの中に飛び込むのはちょっと遠慮したいので、帰りも塀を越える事になりそうです。
「北本遊さん、北本遊さん。校長室に来てください」
越える塀を物色していると、校内放送で呼び出されました。校長室には近付きたくないのですが、こんな騒動の渦中に居る以上行かない訳にはいかないでしょう。
いくらあの校長先生でもこの状態でアニメの話はしないだろうと、願望に近い予測をしつつ校長室へと歩くのでした。




