第百八十四話 プレゼント
あけて翌朝、リビングに降りて行くと家族が勢揃いしていました。更には友子まで来ていてお茶を啜っています。
「おはよう。何だか勢揃いね」
「遊、座りなさい」
お父さんはいつになく真面目そうで、真剣な話がされるだろうと容易に想像がつきます。とりあえず言われた通り席につき、お父さんの発言を待ちました。
「お前に渡したい物がある」
テーブルに大きな紙袋が置かれました。片面にはロザリンドちゃんの、反対側にはラビーシャちゃんの可愛いイラストが書かれた悪なりオフィシャルグッズでした。
「お父さん・・・」
「いや、袋は友子ちゃんに貰った物だからこれだが、中身はまともだぞ!」
真面目な空気の中アニメグッズを置いたお父さんに冷たい視線を投げ掛けると、慌てて弁解されました。お母さんや土呂刑事も袋を開けろと視線で促しているので、とりあえず中身のチェックをしてみましょう。
「これって・・・」
中から出てきたのは、黒い袖無しのベストが一枚に腕当てが両腕用なのか二枚。丸ペンが数本に定規が一本でした。
「今回の事で、遊の護身について考えさせられた。これを身につけておきなさい」
まじまじと腕当てやベストを見ると、とんでもない事が分かりました。これらはただの腕当てやベストではなかったのです。
「これ、グレードⅢの防弾ベストね。こっちは防刃スリープ!」
防弾ベストは銃弾を防ぐ為の防具で、実際に見る機会はありませんが刑事もののドラマなどでは度々登場するアイテムです。
グレードⅢというのは性能のレベルを示し、これは遠距離からのライフル狙撃を防ぐ事も可能な物でかなり高性能です。
「スリープのスリットに丸ペンを差し込んでおけるから。それと、防弾ベストに定規は収納出来るわ」
友子に言われて丸ペンと定規を見ました。態々と防具に文房具を仕込める構造にした以上、これらもただの文房具ではないのでしょう。
「あっ、扱いには気を付けてね。丸ペンはダーツよりも鋭いし、定規は下手な日本刀よりも切れるわよ」
よく見ると丸ペンの先は針のように尖っていて、定規は片面が刀のように研ぎ澄まされています。これは文房具の皮を被った武器と見るべきか、武器としても使える文房具と見るべきか迷います。
「丸ペンは投擲武器に、定規は接近戦用よ。これなら銃刀法に引っ掛からないわ」
えへん、と胸を張る友子。とても強引な詭弁にしか聞こえません。思わず土呂刑事の顔を見てしまいましたが、即座に顔を逸らされてしまいました。
「ベストとスリープはお父さんが、定規と丸ペンは友子ちゃんと由紀が都合してくれたのよ。ああ、この程度なら法にかからないと法務大臣が言明していたわ。録音もしてあるから安心して使ってね」
笑顔でとんでもない事を告げるお母さん。与党代表と通話していたのだから、法務大臣と通話しても可笑しくないと自分で自分を無理矢理納得させます。
この家で最も重視するべき能力はスルースキルだと、再認識させられました。




