第百八十二話 母の推察
東京で記者会見をしていた私が、何故長野県の軽井沢で売っているお土産を持って帰ってきたのか。それを説明するには短くない時間が必要となります。
「立ち話もなんだから、リビングで話すわ」
お土産の紙袋を持ちリビングへ移動します。リビングではソファーに座ったお母さんが優雅にコーヒーを飲んでいました。
「ただいま、お母さん」
「遊、遅かったわね。記者会見終わってからかなり経つわよ?」
お母さんの疑問は最もです。二度目の記者会見が終わって真っ直ぐに帰ってくれば、数時間は早く帰って来れたのです。
「それがね・・・」
会見場からの帰り道、マスコミの物と思われる車に追尾された事。それを振り切る為に桶川さんが暴走し気が付けば浅間山の麓に居た事を話しました。
「向こうもお仕事だから仕方ないわね。それで得た情報を私たちが見ているんだし」
マスコミからの情報をよく利用する由紀は肯定的な発言をしました。由紀もテニスで活躍しているのでマスコミから注目されていますが、まだ未成年という事で取材活動も自粛してくれているのでしょう。
「遊、その車は本当にマスコミかしらね」
深刻そうな顔をしたお母さんから、意外な言葉が飛び出しました。声優のユウリを付け回して得をする人間なんて、正体を突き止めようとするマスコミの他には・・・
「お母さん、もしかして銃を渡した供給源って事?」
思い当たったのは、直接ではなく間接的な目的がある人達です。遊に接触出来ないからといって迂遠過ぎると思いながらの発言でしたが、お母さんに無言で頷かれてしまいました。
プロデューサーを刑務所送りにした北本遊をどうするつもりなのかは知りませんが、それだけ切羽詰まってるという事は、何らかの短絡的な行為に走るかもしれません。
「まぁ、そっちは私達大人に任せなさい。ちゃんと解決するわよ」
「そうね。それに対してなにも出来ない私が気を揉んでも仕方ないわ」
ヤのつく人を何人か無力化したり銃弾をかわす事が出来ても、私は所詮何処にでも居る普通の女子高生です。
数人ならば相手にして勝つ自信はありますが、組織で来られては勝ち目はありませんし周囲の人達に迷惑が掛かる可能性があります。
「お母さん、迷惑かけてごめんなさい」
「遊、覚えておきなさい。親というのは子供を守る為なら何だってやるのよ。可愛い娘に頼られて嬉しくない母親なんて存在しないわ」
そっと私を抱きしめ、頭を撫でてくれるお母さん。私は溢れる涙を止める事が出来ず、お母さんの服を濡らしたのでした。




