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第百七十八話 声はすれども姿は見えず

 新作アニメの制作発表に主役が来ないどころか名前も明かさないという珍事に、会見場のざわめきは収まる気配を見せません。


「監督、俺は来てますよ。姿は見せませんがね」


 このままでは収まりがつかないと判断し、腹話術を使って声だけでも聞かせる事にしました。完全な独断ですが、このまま収拾がつかないよりはましでしょう。


「皆さん、はじめまして。名前を明かすことは出来ませんが、今回主役をやらせていただきます。頑張って俺を探しだして下さい」


 いきなりの乱入に、記者達は唖然として静まりました。記者だけでなく声優の三人まで謎の主役を探しているので、私も合わせて探すふりをします。


「落ち着いて下さい。マスコミの皆さん、主役が誰なのかアニメを見て推理して下さい。それもこのアニメの楽しみですから。それではこれで失礼します」


 当然の事ながら誰一人として謎の主役を探し出す事は出来ず、何とか持ち直した司会者さんにより記者会見は進みました。


 記者会見終了後、皆は打ち合わせのためにキープされた部屋に集まりました。朝霞さんとは馴染みなので、初顔合わせの春日部さんと挨拶を交わします。


「ユウリちゃんとはお初ね。春日部よ、よろしくね」


「新人のユウリです。よろしくご指導のほど、お願いします」


 差し出された手を握り、互いに自己紹介しました。優しそうな人で、この仕事も楽しくやれそうです。


「しかし、いきなり主役の乱入には驚いたね。監督、誰が主役なんですか?」


「そんな事言って、朝霞さんなんじゃないですか?1人2役で」


 監督にストレートな質問をする朝霞さん。それに対し、その朝霞さんを疑う春日部さん。変幻自在の声をもつ朝霞さんならば声を変えての二役など軽くこなせるので、疑うのも無理はありません。


「おいおい、俺じゃないよ。あの時、口を開けてなかったろう?」


「そうですよ。朝霞さんじゃありません」


 朝霞さんの疑惑を晴らすために、再度謎の主役が登場しました。監督は笑いを何とか堪えていますが肩がプルプルと震えています。


「え?あれ?」


「主役の人?」


 朝霞さんと春日部さんはキョロキョロと辺りを見回します。疑われる訳にはいかないので、私も倣って辺りを見回します。しかし、どれだけ室内を探しても私と朝霞さん、監督と春日部さん以外に誰もいません。


「まだ誰かは内緒なんです、すいません」


 声を出しても喋っていないように見えるので、2人は私を疑いません。昔習得した腹話術が意外な所で役に立ちました。


「この声、どこから?」


「それは謎めいて~」


 つい由紀が歌っていたアニソンのフレーズが出てしまいました。由紀や友子に毒されていると悲しむべきか、声優としてはアニメの知識があるのは良いことだと喜ぶべきか迷います。


「どうして~それは愛ゆえに~って、古いよ!」


 更に続きを歌ってくれた朝霞さん。由紀がカラオケで歌っていたのを聞いただけなので、古い曲なのかどうか知りません。


「まあまあ、アニソン談義はまたにして、主要人物が揃ったところで打ち合わせを続けましょう」


 監督さんの仕切りで打ち合わせ再開します。時折、出所不明な声が入るハプニングがありましたが、打ち合わせは無事に終了。各自解散となり控え室に戻りました。

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