第百七十六話 暴走刑事
朝霞さんに会えると浮かれる土呂刑事。しかし、そんな土呂刑事を絶望の淵に叩き落とす宣告が為されました。
「記者会見の間は、私とユウリちゃんの控え室で待機してもらいます」
「ええっ!朝霞様に会えないというの!?」
落胆という言葉の見本にしたいくらいの落胆ぶりをみせる土呂刑事。しかし宣告は覆る事はありません。
「えっと、会見前に挨拶に行くのでその時も護衛をお願いしますね」
見事な落胆ぶりを見せる土呂刑事が可哀想になって、ついそう言ってしまいました。それを聞いた土呂刑事はそれまでの落胆ぶりが嘘だったかのような明るい表情を見せてくれました。
「任せて!ユウリちゃんに害成す奴は、コロラドショットで確実に息の根を止めるわ!」
「そんな、素人じゃ知らないような射法まで使ってオーバーキルしなくても・・・」
その前に、安直に撃つなと突っ込むべきでしょうか。一抹の不安はあるものの、朝霞さんの控え室に行き扉を叩きます。
「ユウリです、会見前にご挨拶に参りました」
「どうぞ。挨拶とはユウリちゃんは律儀だね」
ガチガチに緊張する土呂刑事を伴い控え室に入ります。朝霞さんは見慣れない女性に対し少し警戒したようでした。
「あれ、そちらの女性はどちら様かな?」
憧れの朝霞さんに話しかけられ、フリーズする土呂刑事。とても答えられそうにないので、私が代わって説明しましょう。
「えっと、臨時で私付になった土呂さんです」
「そっか。いつまでも桶川社長がマネージャー兼ねる訳にはいかないもんな」
土呂刑事の事は、マネージャー候補だということにしてあります。正式に桶川プロに登録してあるため、万が一問い合わされても問題ありません。
「ああ!憧れの朝霞様が目の前に!もう、もうこの生涯に一片の悔いもないわ!護衛の仕事を強引にもぎ取った甲斐があったわ。神様、ありがとーーー!」
またしても壊れた土呂刑事。マネージャーという建前なのに護衛と口走っている自覚はあるのでしょうか。
「あれ、護衛の仕事って言った?マネージャー候補じゃないの?」
ポロッと出た失言を聞き逃さない朝霞さん。この人なら話しても良いかと事情を話す事にします。事情を知ってる人が業界にいる方が助かる事もあるかもしれません。
「朝霞さん、刑務所から逃げた犯人が捕まったニュースはご存知ですか?」
「ああ、これだろう。ニュースは今、これ一色だよね。どこまで本当になのだか」
朝霞さんは机にあったスポーツ新聞を広げました。
「神業!拳銃弾をかわす少女!」の大見出しが載っています。
「たまたま近くにいた同じ高校の生徒が目撃したって書いてあるけど、アニメじゃあるまいし銃弾をかわすなんてできるのかなぁ」
「撃たれてからではなく、肩と腕の筋肉の動きから撃つ瞬間を見極めるんです。後は銃身の延長からよければ大丈夫ですよ。サイレンサーで初速も落ちてましたし」
笑顔で事も無げにそう答えた私を驚きを隠さぬ顔で見つめる朝霞さん。記事の女子高校生が私だと気づいたでしょうか。




