第百七十三話 残されていた由紀
玄関に入りましたが、このまま上がる訳にはいきません。着ぐるみは脱いで友子の鞄に収納します。学生鞄に大きな着ぐるみが入っていく光景は、圧巻の一言に尽きます。
「遊ちゃん、この子猫型ロボットでも飼ってるの?」
「これ見たら、誰でもそう思うわよねぇ」
事ある毎に私をリアルチート扱いする友子ですが、自分の方がチートだと自覚してほしいものです。
「この宇宙人、なんでこんな配色なんですか?」
「これね、女の子を騙して黄色いハンカチを掲げさせたの。その報復でこんな色にされたのよ」
当の友子はお母さんと二人でキャラクター談義で盛り上がっています。漫画か何かのネタの話みたいなので、巻き込まれないように距離を置きました。
「時間も遅いし、私はこれで失礼します。遊、月曜日にね」
玄関先でお母さんと漫画談義を終えた友子は、そのまま帰って行きました。先に移動すればよかったと後悔しながらリビングに入ります。
「お帰りなさい、みんなどこに行ってたのよ!」
一人留守番をしていた由紀がプンプンという擬音がしそうな可愛い怒りを見せます。
「今日は大変だったのよ。今日のニュースは見たかしら?」
「ううん。帰りに悪なりの新刊買ったから、ずっとそれを読んでた。何があったの?」
リモコンでテレビをつけると、丁度ニュースをやっていました。画面には「脱走犯逮捕!捕まえたのは女子高生?」の文字が踊ります。
「なんとこの女子高生は拳銃とナイフを持った犯人を一人で、しかも素手で捕らえたそうです」
アナウンサーの話を聞いた由紀は、壊れたロボットのようにぎこちなくこちらを向きました。
「これって、お姉ちゃんの事よね?」
「あら、何でそう思ったの?」
「拳銃相手に勝てる女子高生なんて、お姉ちゃん以外に誰が居るのよ!」
広い日本、探せば何人もいるかもしれません。調べもせずに決めつけるのは良くない事です。
「先日のプロデューサーが復讐に来てねぇ。本当にいい迷惑よ」
撃退してから警察であったこと、マスコミをかわすための出任せであったイベントが開催決定して、桶川さんの会社で打ち合わせした事を話しました。
「じゃあ、明日から刑事さんが護衛につくのね」
「ええ。由紀はあまり顔を合わさないと思うけど、よろしくね」
一通りの説明を終えて、少し遅めの夕食をとります。お風呂に入って漸く人心地つきました。
「はぁ、今日は散々だったわ」
つい愚痴が溢れてしまいます。誰が聞いてる訳でもないし、私だって弱音を吐きたい時もあるのです。
「全く、あのプロデューサー許せないわね」
「本当よ。月曜日学校に行くのが恐いわ」
「マスコミ、絶対にいるわよ」
「でしょうねぇ・・・」
あれ?私は誰と会話をしてるのでしょうか。今は入浴中で、浴室には私しか居ない筈です。
「由紀、そこでなにをしてるのかしら?」
浴槽の脇には、居るのが当然といった顔の由紀が一糸纏わぬ姿で佇んでいました。
「お疲れのお姉ちゃんの背中を流そうと思って」
ワキワキと手を動かす由紀。背中に寒気が走り、思わず後ずさってしまいます。本能がここから逃げろと全力で警戒を発しています。
「だ、大丈夫よ」
「もう裸になっちゃったし、女同士なんだから問題ないわよね」
確かに女同士な上に姉妹なので問題ない筈です。しかし、由紀の危ない表情と手つきを見ると到底そうは思えないのです。だからと言って、この状況から逃げられるとは思えません。
「わかったわ。じゃあ、背中だけお願い。大事な事だからもう一度言うわよ、背中だけだからね!」
観念して風呂桶から出て椅子に座ります。由紀は光を超えそうな早さで後ろに立ちました。
「丹念に、舐めるように洗い上げるわ!」
由紀さん、お願いだから普通にお願いします。という心の中でのお願いは由紀には届かず、時間をかけて丹念に洗われてしまいました。
「由紀、もういいわ。ありがふぁぁっ!」
お礼を言って離れようとした瞬間、由紀の手が前に回り込み胸を揉みました。ある程度予想はしていましたが、完全に耐える事は出来ませんでした。
「お姉ちゃん、大きいわ。友子お姉ちゃんの言う通りね。」
「ちょっ、友子じゃあるまいし、止めなさい!」
旅行の時の悪夢が思い出されます。何とか脱出しなければなりませんが、胸からの刺激で力が抜けて由紀の手を払う事が出来ません。
「友子お姉ちゃんには揉ませたんだから、妹の私が揉んでも問題ないわよね!」
「キャァァァァァ!」
謎の超理論を展開する由紀に対する反論も出来ないまま、好き勝手する由紀を抑える事も出来ませんでした。
その結果私は泡だらけの手で胸などあちこちを揉まれまくり、私は意識を手放したのでした。
一人留守番だった鬱憤を存分に晴らした由紀ちゃんでした。




