第十七話 収録終わって
「ユウリさん、凄いね」
「お疲れ様。また出てね」
「次は負けないよ」
他の出演者の人達が祝福してくれました。嬉しいのですが、今回の出演はイレギュラーなので次があるかはわかりません。
「ユウリちゃん、良かったよ。おかげで助かったよ」
ニコニコと微笑む朝霞さん。収録に呼んで頂いた恩もあります。お役にたてたのならば幸いです。
「私の方こそ、いつも見ている番組に出られるなんて、夢のようですよ。しかも優勝なんて!」
「それはユウリちゃんの実力だよ。うちはヤラセは一切無いからね」
初めてのテレビ出演を終えた私を気遣ってくれる朝霞さん。仕事が出来る大人って、こういう人の事を言うのでしょう。未だ学生の私には、とてつもなく大きく見えます。
「ユウリちゃん、優勝おめでとう。番宣も出来たし、言うことなしね」
観客席で見ていた桶川さんが、迎えに来てくれました。予期せぬトラブルに泡を食いましたが、終わってみれば結果オーライです。
「ありがとうございます。桶川さん、この後は?」
明日も学校だし、余り遅くなりたくありません。飽くまで、本業は学生なのです。
「もう何もないわ。明日は学校だし、送って行くわ」
「では、朝霞さん。今日はありがとうございました!」
「いや、お礼を言うのはこっちだよ。急に出てもらって悪かったね。ありがとう、助かったよ」
笑顔で朝霞さんと別れ、私は桶川さんと車に乗り込みます。このまま家に帰るかと思いきや、そうはいきませんでした。
「着替えないとね。事務所に寄りましょう」
学校帰りだった私は、家を出るときは制服でした。それが帰ってきたら見たことのない私服だったなんて、由紀に質問攻撃のネタを提供するようなものです。
それに、先程収録した番組はうちでは全員が見ています。当然、収録した回も見るでしょう。その時にゲスト出演した声優が私と同じ服を着ていたら。
アニメ・声優好きな由紀は、それに気付くかもしれません。そして気付かれれば、私の最近の変化と結びつけるかもしれないのです。それだけはなんとしても避けなければなりません。
桶川芸能事務所に着くと、プレートのかかっていない小部屋に案内されました。どうやら未使用の控え室のようです。
「さ、ここで着替えましょう」
小部屋に入り、鍵をかけます。制服に着替えて、着ていた服を桶川さんに渡し、三つ編みを編んでいきます。眼鏡をかければ、声優ユウリから女子中学生の北本遊に変身完了です。
着替えた服を畳み、さあ帰ろうとなった時に一つの問題に気付きました。
「この服・・・どうしましょう?」
「えっ?ユウリちゃんが着たら?」
当然のように言う桶川さん。しかし、私がこの服を持って帰るには問題があります。
「ユウリはともかく、遊はこんな服は着ませんよ。持って帰ったら怪しまれます!」
「まぁ、いずれバラす訳だし。いいんじゃない?」
他人事だと思い、軽く答える桶川さん。両親は良いのです。ちゃんとした雇用契約を交わす必要があるので話さざるを得ないので。
でも、妹の由紀には出来れば話したくありません。アニメや声優が好きなあの子に、私が声優になったなんて言ったら。しかも、既に収録をしていてあの子が大絶賛していた朝霞さんと共演していると知ったら。
「はぁ・・・タンスの奥に隠すわ」
持って帰りたくありませんが、持って帰るしかありません。ならば、見つからないように隠すしかありません。
「明日は今のところ予定ないけど、明後日は『悪役令嬢になんかなりません』の収録よ。忘れないでね」
車の中で明日の打ち合わせを済ませ、家まで送って貰いました。幸い両親にも由紀にも見つからなかったので、服は洋服タンスの奥深くに隠す事が出来ました。




