第百六十七話 迫られる選択
厚意は嬉しいのですが、ユウリの正体をばらすつもひはないのでお断りしましょう。言うのはなんですが、ある程度の使い手までならば返り討ちにする自信もありますし。
「お気持ちはありがたいのですが、それは遠慮したいと・・・」
「何を言ってるのよ!命に関わる事なのよ!」
ガシッと肩を掴んで力説する土呂刑事。迫力に押され、反論出来ませんでした。
「いい?あなたは確かに強いわ。拳銃を持った相手に傷一つなく勝つんだから、下手な警官より強いかもしれない」
その通りです。油断した所を突いたとはいえ、機動隊員さんを完封するだけの実力は持っています。なので無言で首肯しました。
「でもね、相手が何を持ってくるか分からないのよ。M16で狙撃されたら防ぎようないのよ。ティーゲルやマウスを持ち出されたらどうするの!」
「いやいや、そこまで出されたら、日本の治安自体崩壊しますって」
反射的に突っ込んでしまいました。M16はまだしも、ティーゲルやマウスなんて重戦車出されたら、自衛隊に出張って貰わないと対抗出来ません。
・・・お母さんとお父さんならば対処できそうですが、それは例外中の例外なので除外しましょう。
「遊、戦車はいいとして、対策は必要よ?」
「でも、対物ライフルで狙われたら護衛に刑事さんがついても同じような気がするんだけど」
「それもそうなんだけど・・・」
まぁ、事件に巻き込まれたか弱い女子高生を放置して、万が一にも襲われたら警察の面子が丸潰れというのも理解できます。
「ところで遊、誰がか弱いのかしら?」
「友子、ナチュラルに思考を読まないでよ」
散々人の事を人外扱いしてくれますが、友子も四次元鞄を所持していたりサイコメトリーだったりと十分にチートです。
「それより、桶川さんにも話通した方が良くない?色々と」
友子の指摘した通り、護衛が付く事になった場合スタジオやテレビ局へも着いてくる事になります。その手配などは私では出来ません。
「そうね。でも、まだ護衛を受けると決めた訳じゃないから」
「何を悠長な事を!命が懸かるのよ!」
「そうよね。どちらにしても、護衛は受けた方が良いわよ」
土呂刑事の剣幕に、友子もそちらに流されそうになっています。
「友子、事は単純じゃないのよ。土呂刑事、今回の件、マスコミに出るわよね」
「多分、出ると思うわ。逃げていた囚人が復讐に走って女子高生に返り討ちなんて、絶対に飛び付くわね」
視聴率が稼げるのであれば、スポンサーからのクレームにならない範囲で何でもやるのがマスコミです。絶対に可笑しく報道するでしょう。
「で、私が護衛付きでバイトに行ったらどうなるかしら?」
「実名は出てなくても、バレるわねぇ」
この護衛の話を受けた場合、ユウリの正体が晒される可能性が高いのです。バレるのが警察関係者だけであるならば口止めも容易いでしょう。
しかし、マスコミや一般の人にもバレてしまう可能性がかなり高くなるのです。
「それも面白いと思うけど、私達だけの秘密が暴かれるのは勿体ないわ」
「秘密?北本さん、一体何のバイトをしてるのよ?」
友子が余計な事を言ってくれたので、土呂刑事に不審がられてしまいました。
「それは個人情報なので黙秘します。決していかがわしい事じゃありませんから」
「法律は色々と無視してるけどね」
また余計な事を言った友子の首根っこを掴み、会議室の隅へ引っ張ります。不法行為をしているなんて思われてしまったら、余計に誤魔化し難くなってしまいます。
「あなた、どういうつもりよ」
「あら、嘘は言ってないわよ。幼い子供を働かせたり、労働時間が長かったりしてるじゃない」
確かに、芸能界では労働基準法が守られないケースも多々あります。しかし、それを律儀に守っていてら番組制作自体が出来なくなるという物すらあるのです。
「そうじゃなくて、私の事をバラしたいの?隠したいの?」
「基本、隠したいわ。でも、遊の事を考えると警察内部に協力者が居てもいいかなって。だから、成り行き任せで」
面白そうというのではなく、私の身を案じてと言われると責める事が出来なくなってしまいます。
「つまり、私の胸三寸って事になるのね」
これは迷ってしまいます。あまり広めたくはありませんが、友子の言う通りで協力者がいた方が都合が良いのも確かです。
「とりあえず、桶川さんに連絡したら。まだしてないんじゃないの?」
友子の指摘はもっともだったので、携帯を取り出して電話しました。事情を話すと、すぐに来ると言って切られてしまいました。
「桶川さん、すぐに来るって」
「ならば判断は任せた方がいいわよ」
友子のいう通り、学生が顔付き合わせてああだこうだと言っているよりも大人の意見を聞いた方が早そうです。ついでに家にも電話して、お母さんに事情を説明しました。




