第百六十三話 過剰な親心(おやごころ)
「う~ん、今日も良い天気だわ」
外は秋晴れ、絶好の行楽日和です。学校をサボって遊びに行ってしまっても、全ては快晴の天気のせいと断言してしまえる程です。
「サボるなら私も一緒するわよ?」
突然の声に顔を向けると、由紀がじっと私を見ていました。昨夜「久しぶりに一緒に寝たい」と我が儘を言われ、結局押しきられたのを忘れていました。
「心を読むなんて、由紀はサイコメトラーだったの?」
「普通に声に出てたよ。それより2度寝しよ」
上半身を起こした私の腕を引っ張られました。支えを失った上半身はベッドに倒れ込みます。
「はぁ~、大きさも柔らかさも最高。ユウリさ~ん!」
「ちょっ、由紀、止めなさい!」
揉みつつ、谷間に顔を埋める由紀。必死で抵抗しますが、力が抜けてしまって上手く抵抗出来ません。
「仲が良いのは良いけど、遅刻するからね。そういうのは休みの日にゆっくりやりなさい」
呆れた顔のお母さんが由紀を引き剥がしてくれました。助かったのは感謝しますが、その手に握られた携帯で何を写したのか納得するまで問い詰めたいです。
「お母さん、そこは全面的に止めて欲しいわ」
「姉妹のスキンシップくらい大目に見るわ。それよりゴハンだから早く降りて来なさい」
顔を洗いリビングで食事します。テレビをつけるとニュースをやっていました。
「次のニュースです。アイドルグループのsouka65535イベント会場に刃物を持った男が乱入し・・・」
アイドルのコンサート会場に刃物男が乱入したとワイドショーが報じていました。幸い、切りつけられたアイドルは軽傷で済んだようです。
「物騒ねぇ」
「遊も気を付けないとな」
芸能界の端っこに身を置いている私としては、他人事ではありません。駆け出しの声優と人気アイドルを同列視するのは烏滸がましいですが、注意するに越した事はありません。
「でも、お姉ちゃんなら簡単に無力化しそうね」
「「それはそうだ」」
生暖かい目で私を見つめる両親と由紀。少し憮然としていると、いきなりお父さんが真面目な表情で言いました。
「確かに遊は強いが、相手が凶器を持っていれば怪我をするかもしれない。十分気を付けなさい」
「うん、気を付けるわ」
実際、学校帰りに一度襲われたという実績が私にはあります。二度目は無いとは言い切れません。
「遊、由紀、急がないと遅刻するわよ」
少々ゆっくりし過ぎたようです。急いで支度しないといけません。部屋に戻って髪をみつあみにし、眼鏡をかけます。鞄を持ったら準備完了です。
「行ってきます」
「遊、忘れ物だぞ!」
お父さんの声に足を止めて振り返ります。特に忘れ物はないはずだと思いつつ見ると、お父さんの手には機動隊が使うような強化プラスチックの防弾盾がありました。
「お父さん、まさか、それを持って登校しろって言うの?」
「ほら、最近物騒だし、いくら遊でも銃相手じゃ・・・」
床に「の」の字を書き、いじけながらながら言い訳されても持っていくつもりはありません。
「ここは日本で、アメリカじゃないんだから大丈夫よ」
「お姉ちゃんなら銃相手でも完勝しそうだしね」
由紀も掩護射撃をしてくれましたが、その方向性には文句を言わせて貰います。由紀は私を何だと思っているのでしょう。私はマンガやアニメの主人公ではないのです。
・・・アニメには出てるけど。声だけ。
「ほらほら、トリオ漫才なんかしてないで、学校に行きなさい。お父さんにはO・HA・NA・SHIがあります」
首根っこを掴まれ、引きずられるお父さん。BGMにドナドナが聞こえるのは幻聴よね。
「私は何も見なかった。うん。登校しましょう」
気を取り直し駅に向かいます。友子が待っていると思うので、急がなければいけません。
「遊、遅いわよ」
「ごめんなさい、出掛けにちょっとね」
歩きながら顛末を話しました。しかし、話を聞いた友子の反応は予想とは真逆の物でした。
「お父さんの心配もわかるわ。私だって持ってるわよ」
そう言って盾の上部を鞄から覗かせる友子。この子に常識を求めた私がバカだったと自分の甘さを確認させられました。
電車の中でも話題は乱入事件の事に。周囲の学生の話題もそれが多い。
「日本も物騒になったわよねぇ」
「でも、アメリカみたいに銃を乱射とかされないだけマシよ。日本でもいきなり刺されたら防ぎよう無いけど」
相手が銃ならこの盾が役に立つのにねぇと笑いながら言う友子に、そんな機会はある筈がないと心の中で突っ込みます。
そんな話をしているうちに最寄り駅に到着したので、学校へと続く道を急いで歩くのでした。
お父さんは心配症




