第百六十二話 普通の休日
「あっ、来たよ!」
運ばれてきたカレーを見て由紀が歓声をあげました。食欲をそそるカレーの匂いに揚げたてのフライの匂いも混ざり、この上なく食欲を増幅してくれます。
「一見、まともね」
友子のカレーを見て思わず呟きました。カレーに納豆という異色の組み合わせに目が行ってしまいます。
「「「いただきます!」」」
皆揃ってスプーンを口に運びます。カレーライスは安定の美味しさです。
「うん、美味しい」
「いけるわよ、これ」
由紀も友子も、美味しそうに食べています。どうやら納豆はカレーに合っているようでした。
「騙されたと思って食べてみてよ、ほら」
少し貰いました流石にあーんをするのは恥ずかしいので、自分のスプーンで掬って食べます。友子は少し残念そうにしていましたが、そこは敢えて無視させて貰います。
お互いのカレーの感想を言い合いながら完食しました。食後はラッシーを飲みながら雑談です。
「ほら、10歳の子供も達成しているわよ。私達なら楽勝よ!」
友子が手に持った小冊子を見て言いました。見ていたのはお店の小冊子で、色々な案内が載っているものです。その中に大食い達成者の事も書いてあり、最年少は10歳になっていました。
「・・・私がいない時に試してね。」
止めるのは諦めました。せめて私が絡まない場所と時にやってほしいと願います。
「この後はどうするの?」
普通の女子高生ならば小物を見たり、服を見たりするのでしょう。しかし、この2人だとそうはならないと思います。
「とりあえずアニメショップ巡りかな」
「そうね。大宮に出ましょうか」
この駅周辺にはアニメグッズを売るようなお店はありません。池袋か大宮に出ないとないのです。
「では大宮に出ましょう」
多数決により私の意見を聞くこともなく決定しました。電車で大宮に出てアニメの専門店へ向かいます。
駅を出て10分程歩いた所にあるアニメグッズのショップは、今日も大盛況で人が引っ切り無しに出入りしていました。私達もその一員となり店に入ります。
「来る度思うんだけど、いつも混んでるわよねぇ」
嬉々としてグッズを漁る2人の脇で所在なさげに佇みます。お店の外で待っていようかと思ったのですが、2人に引きずり込まれました。
「ほら、この辺り悪なりグッズのコーナーよ。」
「ユウリちゃんグッズも充実してるわ!」
そんな事言われても、返答に困ります。しかし、いつの間にこんなに作ったのでしょう。私のグッズを作るとは言われていましたが、そのバラエティは想像を遥かに越えていました。
「ここで遊を芸名で呼んだら、凄く楽しい事になりそうね」
「お願い、冗談でも止めて。もう二度と付き合わないわよ」
もしそんな事をされたら、囲まれて身動き出来なくなるだろうと容易に想像がつきます。仕事中に囲まれるのは仕方ないとしても、プライベートでそんな目に遇いたくありません。
店内を30分ほど物色し、幾つか買い込んでお店を出ました。アニメグッズはまだしも、私のグッズ買ってどうするのでしょう。聞いても「それとこれとは別」と答えが返ってくるって分かっているので聞きませんけど。
「お次はゲームショップよ!」
上の階でラジオ放送をしているビルに入り、まずは一階のゲームショップに入りました。新作のゲームや発売予定をチェックして、地下のの本屋さんに行きました。
「ラノベも漫画もメイトでチェックしたから買わないのだけどね」
「それなら、何をしに来たのよ?」
「お姉ちゃん、本屋の近くに来たら寄るのがお約束よ」
友子への突っ込みに対し、由紀から即座に返答が来ました。もう、そういうものだと割り切りましょう。
「そろそろ帰りましょうか」
いつしか日は暮れ、オレンジの光が薄くなっていきます。帰りの電車の中、中吊り広告を見て由紀が呟きました。
「うふふ、さすがお姉ちゃん!」
由紀の視線を辿ると、週刊誌の広告が吊られていました。トップ記事は例の爆発事故なのですが、写真は何故か私のものが使われていました。
「ユウリちゃんがレポートした時の特集みたいね。声優に司会、レポーターか。マルチな才能よね」
それは器用貧乏っていうものです。多才なように見えますが、私にはお母さん達や由紀みたいに突出した才能はありません。そう思いつつ見出しを読んでいきます。
「まだ戻っていない囚人も居るんだ。警察は大変ね」
「バカな刑務官の尻拭い、乙」
困った事ですが、それにより私の身辺は平穏になったので少々複雑な気持ちになります。中吊りを読んでいる間に最寄り駅に到着しました。駅前を歩いて帰路に着きます。
「待ってなさい、私が制覇するから」
「友子お姉ちゃん、私もお供するわ」
カレー屋の店頭を見る2人。その際は絶対に付き合わないと心の中で誓いました。
「それじゃあ、また明日ね」
友子と別れ、由紀と家に帰ります。お休みは今日でおしまいです。また明日から学校と仕事の、いつもの毎日が始まります。
明日も、いつもと同じ1日が来ると思っていたのでした。




