第百六十一話 お出かけ
刑務所火災騒動があった後、初めてのお休みの日です。特に用事も無かったのでリビングのソファーでテレビを見ながらまったりとしていました。
「お姉ちゃん、家に居るなんて珍しいわね」
「やっとお休みよ。声優業で忙しいならまだしも、レポーターまでやらされるなんて・・・」
声優本来の仕事より、他の仕事の方が多すぎです。デビューしたての声優一年生という事を考えると贅沢な悩みなのですが。
「お休みなら、付き合ってくれない?」
と言いつつ由紀は携帯を取り出して誰かに電話をかけました。まだ付き合うと了承した訳ではないのですが、もう断れそうにありません。
「あ、友子お姉ちゃん?そう。お姉ちゃん、今日お休みだって。うん。待ってます」
由紀と友子のコンビなんて、嫌な予感しかしません。しかし、とても断れるような雰囲気ではないので覚悟するしかないでしょう。
「お姉ちゃん、すぐに友子お姉ちゃんが来るから身支度してね」
こうして、折角のお休みなのに2人に付き合う事が確定しました。予定もありませんでしたし、最近由紀にも友子にも付き合っていなかったのでこれはこれで良しとしましょう。
一旦部屋に戻り、着替えをして身支度を終えました。そのタイミングを見計らったかのように友子が到着します。
「まずはカラオケに行きましょう!」
「カラオケはちょっと・・・」
張り切る友子の先導で駅前に移動しますが、前回の苦い経験が頭を過ります。あれのせいで変なプロデューサーに目を付けられたので、私にとってカラオケは鬼門なのです。
「採点機能をOFFにすれば問題ないわよ。私だって遊の歌声聞きたいわ!」
あの日は家族で行ってたから友子は居ませんでした。採点しなければ良いかと思い、カラオケボックスへ。店の前にたてられた幟に、友子のテンションが上がっていきます。
「これをやりたかったのよ。この機種空いていますか?三時間でお願いします」
受付を済ませた友子を先頭に借りた部屋へ入りました。広めの部屋に誂えられた舞台と、四方向に向けられた矢印が目に入ります。
「さあ、歌うわよ!」
友子が何曲か連続で入力していきます。その間に由紀がマイクの調整を終わらせました。
「友子、いっきまーす!」
曲が流れると同時に、画面の上から下へ矢印が流れます。それに従い友子は足元の矢印をダンスを踊るように踏みました。それと同時に歌を歌っています。
「こ、これはキツいわ!」
「これ、絶対無理よ!」
一時間後、友子と由紀はあえなく撃沈していました。この部屋のカラオケは、ゲームセンターで人気のゲーム「踊り踊る革命」を組み入れていたのです。
曲に合わせて矢印を踏んで、踊るようにステップを踏むというゲームです。
踊り踊る革命とカラオケ、どちらかであれば殆どの人はこなせます。しかし、両方となると話は別です。歌に集中すれば足が疎かになりステップがバラバラ、足に集中すれば音程を外したり歌詞を間違えたりで歌が悲惨な事になるのです。
「疲れた~、遊、交代して!」
「別に良いけど」
タイミング良く私の歌が入っていました。踊り踊る革命をやるのは初めてですが、要は歌に合わせて矢印を踏めばいいのです。歌詞は覚えているので、矢印に集中して歌いながらステップを踏みました。
普段やっている振り付けとかはないのでステップに集中出来ます。普段の振り付けとは足運びが全然違いますが、これはこれで楽しめました。
「パーフェクト・・・」
「お姉ちゃんはリアルチートだもんねぇ・・・」
呆れ顔で画面を見る二人。歌は完全に覚えていますし、これより難しい振り付けしながら歌っているので当然と言えば当然の結果です。
その後は踊りはやらずに歌に専念する二人。予約した三時間で切り上げカラオケボックスを出ました。
昼食の時間となったので、駅前をぶらつきながら飲食店を覗きます。由紀が一件のお店に目をつけました。
「友子お姉ちゃん、これ!」
「由紀、止めておきなさい!」
由紀が指差したのは、カレー屋さんの店先の幟でした。三千グラム三十分以内に完食で無料と書いてあります。由紀も友子も、以前超巨大パフェを完食した実績はあります。でも、翌日は二人共に食べ過ぎで寝込んでしまいました。
「大きさはパフェほどじゃないし、チャレンジだけでも・・・」
「で、また寝込むのかしら?普通のメニューにしなさい」
昼食にカレーというチョイスに否はないので店に入ります。メニューを見ると、ご飯の量やカレーの辛さ、乗せる具まで自由に選べました。
「私は普通のカツカレーにするわ」
食べ物で冒険する気概はありません。シンプルイズベストが私の座右の銘です。
「普通すぎてつまらないわよ。私は納豆カレーにチーズで」
「友子お姉ちゃん、果敢ね。じゃあ、うずらカレーに目玉焼き」
待つこと数分、私達の前には各々が頼んだカレーが並べられたのでした。
私はうずらフライになすをトッピングがお気に入り




