十六話 初めてのテレビ
「クイズ・・・脳力試験!」
「はい、今週も脳力試験の始まりです」
朝霞さんのコールで収録が始まりました。司会者のトークが終わり、出演者の紹介になります。
「次は初めての参加、と言うかテレビに初登場になります。声優の、ユウリさんです」
「よろしくお願いします」
ペコリと頭を下げると、大きな拍手が沸きました。ADさんの指示で拍手されていると知っていても嬉しいものです。
「ユウリさんは、テレビ初出演、と言うよりメディアに出るのが初めてですね」
朝霞さんが話題を振ってくれました。長年この番組の司会をやっているだけあって、手慣れたものです。
「はい。もうすぐ始まるアニメ、悪役令嬢になんてなりません。私は『普通の』公爵令嬢ですに主人公のロザリンド役で出ています。番宣を兼ねてお邪魔しました」
「はい、僕が恋人役をやるアニメですね。ではユウリさん、頑張ってください!では、第一問・・・」
紹介は無事にクリアしました。後はひたすら問題を解くだけです。頑張って良い成績を狙いましょう。
番組は進み、中盤。ここまではかなり答える事が出来ました。幸いな事に、トップを狙える順位をキープしています。
「初出場のユウリさん、熾烈なトップ争いを繰り広げています!」
「頑張らないと、宣伝を託された他の出演者の方に顔向け出来ませんから」
実際は誰にも託されてなんかいません。だって、出演が決まったのは収録の直前ですから。けれど、そんな事を言う必要はこれっぽっちも無いのです。
「そうですね。共演者としては頑張ってほしいけど、今は司会者なので中立です!」
「え~?応援してくれないんですか~?そこは恋人役なんですから、贔屓して下さいよ」
観客席から笑いが起きます。正解を答えるだけではなく、笑いを取る事も何とか出来ていると思います。
さらに収録は進み、終盤戦。トップ争いをしているためか、結構朝霞さんと絡む事が多くなっています。これならば使われるシーンも多くなって、番宣の役目は果たせるでしょう。
名目上の目的とはいえ、果たせるのであれば果たすに越したことはないですから。
「さて、次が最終問題です」
とうとう、優勝を決める最終問題。この早押しクイズまで優勝争いがもつれ込みました。
私か、競っているもう一人が答えれば、即座に優勝。他の人だと、どちらが優勝かは微妙な線です。
「会津藩の預かりで、はま・・・」
私はここまで聞いてボタンを押します。多分正解は、有名なあの人たちです。
「これで正解なら、優勝が決まります。では、ユウリさん!」
「新撰組!」
一時の沈黙。果たして正解なのか。正解ならば初出演で初優勝になります。
「正解です!問題は、『会津藩預かりで、蛤御門の変で長州藩を背後から攻撃した組織の名は?』でした!」
ファンファーレが鳴り、くす玉が割れます。紙吹雪が舞い、白い鳩が飛び出しました。これ、後片付けする人は大変でしょうね。
「おめでとうございます。賞金50万円です!」
紙吹雪が舞うなか、賞金の入った封筒を渡されます。受け取った私は、切れそうになる緊張感を無理矢理保たせて笑顔を作りました。
「では、クイズ脳力試験、来週もお楽しみに!」
私と朝霞さんが手を振っているシーンで収録は終わりです。心の準備も出来ないままに舞い込んだテレビ初出演を、何とか乗り切れました。
声優としてスカウトされたのは、収録の数時間前。初のテレビ出演が決まったのは、収録の数分前。もう少し余裕が欲しいと思ってしまう私は贅沢なのでしょうか。




