第百五十七話 日曜日でもお仕事です
お待たせしました
由紀と友子による報告を要約すると、記者会見によりユウリ側のファンは落ち着いた模様。Kuki側のファンは、Kukiの余計な一言により更にヒートアップしていました。
報道陣は、まともな連中は一応抑える方向へ。ただし、一部は変わらずとのこと。問題は、Kuki君の一言なのですが・・・
「恋人とかじゃないですよ、まだ。僕はユウリさんのファンなので、そうなれたらと思いますけどね」
なんて発言をかましたそうです。これではマスコミを煽るようなもので、沈静化させようという意思は全く見えません。Kuki君はバカなのでしょうか?それとも、話題とりのためにわざとやっているのでしょうか?
「お姉ちゃん、Kukiファンがお姉ちゃんを襲うみたいな書き込みもあるから気を付けてね」
「ユウリファンで警戒しようと話し合っているけど、油断しないでね。まあ、指定暴力団の構成員を数人返り討ちにした遊なら一般人なんて胎児の手を捻るような物だとは思うけど」
心配そうな顔で助言してくれる妹に親友様。発言の後半に思う所はありますが、私を思っての言葉という事に間違いはないと思うので追求はしません。
「ありがとう。十分に気を付けるわ」
お礼を言って席をたちます。今日はこの後仕事の予定が入っているので、準備をしなくてはなりません。
「お姉ちゃん、どこに行くの?」
「今日も仕事があるから、準備して行ってくるわ。」
日曜日だろうと仕事なのです。声優に定休日はありません。労働基準法さんには是非ともお仕事をしてほしい所ですが、サボり癖がついているようです。
今日のお仕事は、群馬県での観光ルポの撮影です。声優の仕事ではないような気もしますが、クイズ番組の司会やらグラビア撮影までやっているので今更だと考えないようにします。
ユウリになったあと念入りに変装し、準備完了です。事務所に寄らずに現地へ直行なので、家でユウリになる必要があるのです。
由紀が居ても堂々とユウリになれるという点では、由紀にばらして良かったと言えるかもしれません。もっとも、寝る前や休みの時におねだり攻勢があるのでデメリットも無視できないレベルであったりします。
「由紀、友子、行ってくるわね」
「お姉ちゃん、行ってらっしゃい。気を付けてね」
「遊、危なくなったらこれを使うのよ」
友子は野球ボール大のプラスチックでできた球を渡してくれました。コンビニなどで防犯用に置いてある塗料の入ったボールに似ていますが、本能がヤバイと告げていました。
あの友子が、そんな普通の物を渡す筈がありません。絶対に何かがある筈なのです。
「これ、何?」
「地面に叩きつけたら、周囲に閃光と轟音を発するから。あっ、中心にいる遊には無害よ。外線に向かうよう指向されて設計されているから」
さらっととんでもない事を言ってのける友子に、頭が痛くなるのを隠せず額に手を当ててしまいました。
「それって、全周かつ指向性を持たせたスタングレネードってこと?」
「あ、ありがとう。」
イイ笑顔でサムズアップする親友に、多少ひきつりながらもお礼を言います。私の身を案じてくれているのは疑う余地もないのですから。これまた友子に貰ったポーチに入れて、今度こそ準備は万端です。
このポーチも体積以上に物が入ります。どんな構造になっているのか、どこから入手した物なのか聞きたいのですが怖くて聞けずにいるのです。
今日は珍しく電車移動です。最寄り駅から最強で痴漢が多い路線でターミナル駅である大宮駅へ向かいます。そこから新幹線に乗り継ぐ予定です。
大宮方面への電車を待つこと暫し。目の前を新幹線が何本も通過して行きます。この路線、平日の朝夕は乗れない程に混雑するのですが、昼間や土日は利用者が極端に減るので並走する新幹線の方が本数が多いという事態になったりします。
大宮駅に到着しました。新幹線乗り換え用の改札口で桶川さんに貰っていた乗車券・新幹線特急券・指定券を新幹線用自動改札機に投入して通過。ホームに上がりました。
少し待つとホームに2階建ての新幹線が入ってきたので、ホームの端から下がって入線を待ちます。事故防止用の柵もあるので安全なのですが、電車が入るときにはホームの端から結構離れるようにしています。
2階建て車両の場合、1階は少し低くなっています。なので、ホームの端に女性がいるとそれを下から覗く形になってしまうのです。
それを知ってからは、私はホームの端にいないようになりました。短いスカートははかないので実害は無いのですが、あまり良い気分ではありません。
常磐線の普通列車で試験導入した際に少し問題になったらしいのですが、特に対策はとられなかったようです。ホームの端から離れれば問題ないという判断かもしれません。
到着したMAXやまびこ号の車内に入り、2階席への階段を上ります。窓から見える後方に流れ行くホームが発車した事を告げていましたが、振動を全く感じませんでした。
「ユウリちゃんこっちよ、こっちよ!」
声の方を見ると桶川さんが立ち上がって手を振っています。少し慌てて車内を見渡すと、他には誰もいませんでした。




