第百四十七話 用意された服・・・服?
その週の末からは、土日月と学園祭回りが始まりました。月曜日まで入っているのは、大学等で月曜日に学園祭をやっている場所があるからです。
「ユウリちゃん、お疲れ様。次はこれを着てね。夕方までは自由だから、学園祭を見学してらっしゃい」
「・・・この服を着てですか?」
私は衣紋掛けにかかった服を着る事が出来ませんでした。初めの大学で歌とトークのステージをこなし、借りている控え室に戻ったのは良いのですが、着替えるように指示された衣装に問題があります。
桶川さんが用意した衣装はメイド服でした。しっかりホワイトリプリムまで付いている、本格的な物です。メイド喫茶の店員のような物ではありませんでしたが、すき好んで着ようとは思いません。
「私は何故にメイド服で学園祭を回らなければいけないのでしょうか?」
「普通に回るより面白そうだから」
キッパリスッキリ即答して下さいました。その答えに頭を抱えて蹲ってしまったのは言うまでもありません。
「短い間でしたが、お世話になりました」
「ええっ!そこまで嫌なの?!」
出ていこうとする私のスカートを握る桶川さん。スカートが脱げるのて離して欲しいのですが、女性とは思えない握力で掴まれ離す事が出来ません。
「それは冗談ですが、まともな服で回る事を希望します」
「じゃあ、この中から選んでね」
そう言って鞄の中から出てきた衣装を見て、私は呆れてしまいました。
セーラー服とブレザーはまだ良いわ。現役女子高生なので着ていて当たり前です。巫女服も、抵抗はありますが既に経験済みなのてマシです。問題は残りの衣装でした。
バニーガール・修道尼・ナース・ゴスロリ・スク水・ビキニ・体操着・幼稚園の園児服・十二単・ライダースーツ・レオタード・リクルートスーツ・割烹着・白衣・キャビンアテンダントの制服・バスガール・西洋鎧・甲冑・モビルスーツ・ウェットスーツ・どてら・宇宙服・婦警の制服・駅員の制服等々。
「どこから突っ込んだら良いのかしら・・・」
やはり鞄からでしょう。どう見てもこの数の服が入るような容量ではありません。
「その鞄、明らかに中身の量がおかしいんですけど?」
「これね、町子の店からこれらを運ぼうとしたら岡部さんがくれたのよ。大量に入るから重宝するわ」
友子の鞄なら納得です。彼女の持ち物に常識を期待してはいけません。ついでにこれらの出所も判明しました。
「試着したのが全部じゃなかったのね」
「時間が無くて全部は無理だったらしいわ。またすぐに連れてこいって言われてるわよ」
「暫く勘弁してください」
行きたくはありませんが、間が空くとまた服の量が増えると予想されます。中には服ではない物が混じっていたような気がしますが、見なかった事にしましょう。
結局服はセーラー服をチョイスしました。髪は太い三つ編みにして、眼鏡と帽子で軽く変装して準備完了です。変装しないでそのまま行けばと桶川さんに言われましたが、大学の学園祭なんて初めてなので落ち着いて見たいのです。
大学の学園祭は、喫茶店のようなお店や模擬店、研究発表している部屋もありとても楽しめました。
ただ一ヶ所、「漫画・アニメ同好会」だけは覗きませんでした。ああいう場所にいる人達に、私がユウリだとバレたら・・・
君子危うきに近寄らず。望んで虎穴に入るような真似はしませんよ。
翌日と翌々日もつつがなく終了しました。トークは苦労ネタ・収録の楽屋ネタ・カーチェイスネタを話しましたが、カーチェイスが一番受けが良かったように感じました。
週明けの火曜日。友子と合流するなり文句を言われてしまいました。
「遊、何で地味な服ばかり選ぶのよ!」
「地味な服ってなんのこと?」
「学園祭回りの時の服よ、折角色んな服を用意してもらってたのに!」
何故友子が私の選んだ服なんて知っているのでしょうか。校内をまわっていた時は私だと知られていなかった筈です。
「桶川さんから写メ貰って知ってるわよ?」
心を読まれたかのように先手を打たれました。今度会ったら、桶川さんにはお説教しなくてはいけません。
「あんな仮装みたいな衣装で歩けるわけないでしょ?常識というものを考えてよ」
「いいじゃない、お祭りなんだから!」
友子は尚もブツブツと文句を言っています。お祭りと言っても、限度と言うものがある事をこの子は知らないのでしょうか。
「それと、あの鞄友子が渡したのね。一体どこからあんな鞄調達してくるのよ?」
「それは企業秘密よ。いくら遊でも教えられないわ」
友子には「漫画に出てくるアイテムを創る」能力でもあるのではないでしょうか。散々私をチートだと言っていますが、彼女の方が余程チートです。
「あなた、事ある毎に私をチートだって言うけど、友子の方がよっぽどチートじゃない?」
私の方は努力と根性で何とかなる能力ばかりですが、四次元鞄なんてどう足掻いても作れません。
「はっ、言われてみればそうかも!類友ってやつかしら?まあ、小さいことよ。気にしちゃダメよ」
前向きというか、なんと言うか。考えてもどうにもならない事は確かです。日本の伝統的な技、先送りを発動しましょう。
「なるようにしかならないわね。今日もしっかりと勉強しましょうか」
しかし、文化祭目前の今は一日準備に当てられていました。仕事を割り振られていない私と友子は、何も出来ず過ごすのでした。
服以外の物に気付いた人います?




