第百四十六話 友子と顔合わせ
一度友子と桶川さんをを会わせておきたかったので、丁度よい機会かもしれません。私は友子を桶川プロに連れていく事にしました。
「これから会社に行くわよ。一応連絡しておくから」
携帯を取りだし桶川さんに連絡します。遊の格好で全てを知っている友人を連れていくと伝え、了解を貰いました。
「オッケー貰ったから行くわよ」
最寄り駅まで電車で移動し、そこから徒歩で移動します。タクシーなんて、高校生には贅沢です。
「大きいわねぇ、これ全部芸能プロよね?」
ビルを見上げて友子が呟きます。気持ちは分かりますが、あまりのんびりしていられません。私はこの後仕事が待っているのです。
「呆けてないで行くわよ」
「失礼ですが、入館証をお願いします。」
友子の腕を引っ張りビルの中に入ると、左右から警備員さんが寄ってきました。
「これです。この子はこれから受付で手続きします」
「はい、わかりました」
友子はこれから手続きだから何も持っていないませんが、私は社員証を持っています。ユウリではなく北本遊のものだからアルバイト扱いですが、関係者には違いないので問題ありません。
手続きを終わらせ、来客の名札を胸に付けた友子を連れて最上階へ向かいます。
「社長室、やっぱり最上階なんだ」
「何故か偉い人の部屋って高い場所にあるわよね。警備の都合かしら」
上の階ならば狙撃を防ぎやすいし、侵入者がいても制圧の時間を稼げます。防げないと判断した場合には、屋上からヘリコプターでの脱出も容易です。
「何とかと煙は高い所が好きっていうから、それじゃないの?」
友子、それだと権力者や大金持ちの皆様は馬さんと鹿さんって事になるわよ?
そんなどうでも良いような話をしている間にも、エレベーターは働いて私たちを最上階まで連れていってくれました。
社長室のプレートがかかっているドアをノックし、返事がくる前にドアを開けます。
「桶川さん、失礼しま・・・失礼しました」
開けかけたドアを閉めて回れ右。どうやってこの場を離れようかと頭の中で算段を始めます。
「遊、どうしたのよ?」
「ら、来客中だったのよ。タイミング悪かったから出直しましょう」
友子の腕をとり立ち去ろうとしましたが、少々遅かったようです。
「折角来たんだから、帰る事はないわ。お友達もね」
素早く社長室から出てきた桶川さんに確保され、室内に拉致されてしまいました。友子も付いてくる以外の選択肢はありません。
「京子、この子達は?」
「ふふふ、ちょっとね」
黒い笑みを浮かべる桶川さん。私は、早くもこの場に来たことを後悔しています。
「うちの社員の北本遊ちゃんと、その友人よ」
「岡部友子です」
お辞儀してからソファーに座ります。先に座っていたお客様、深谷さんは私がユウリだとはまだ気付いていません。
「町子は放置するとして、岡部さんの用件から聞きましょうか」
私と友子にお茶を出し、ソファーに座る桶川さん。その対応に深谷さんは不満そうです。
「ちょっと、私は放置するの?・・・あら?その制服」
深谷さんは以前、制服姿のユウリと会っています。同じ制服だと気付いてしまいました。しかし、ユウリの学校は秘密なので私と友子の前ではそれを言えません。
実際の所私は本人ですし、友子は先刻承知なので言っても問題はありません。しかし、それは深谷さんの預かり知らぬ話です。ちゃんと秘密を守ってくれているので嬉しくなります。
「えっと、話しにくいし話しても良いわよね、遊ちゃん」
「そうですね。その方が良いですね」
深谷さんならば信用出来そうですし、構わないでしょう。眼鏡を外し髪をほどいていきますが、それほど驚いた様子がありません。
「ああ、ユウリちゃんだったのね」
「あまり驚きませんね」
「体型が似ているって思ったから」
流石は服飾の専門家です。制服の上からでも私とユウリの体型が同じだと看破していたようです。
「さて、ユウリちゃんも来たし、出掛けましょうか。岡部さんも一緒にどうぞ」
「えっ?友子も仕事に連れていくんですか?」
制服姿の女子高生なんか連れて行ったら、私との関係を勘繰られてしまいます。
「仕事じゃないわよ、町子の店に行くのよ。今日は仕事がないと言ってあったでしょう?」
「ユウリちゃんのために新作を用意してあるのよ。細かい調整もあるから、今日は夜まで付き合ってもらうわよ」
逃げ出そうとしたのですが、深谷さんにしっかりとホールドされてしまいました。捕まるのは仕方ないと諦めるとして、手が下半身や胸元をまさぐっているような気がするのですが・・・
「岡部さんの用件は車の中で聞くわ。それじゃ出発!」
強引に車に連れ去られ、深谷さんのお店に連行です。ちなみに深谷さんは自分の車で来ていたので、この車には私と友子、桶川さんの三人が乗っています。
「岡部さん、今日来た用事っていうのは何?」
「文化祭の日なんですけど、イベントの後遊をユウリちゃんとしてお借りして良いですか?」
「一日一校のスケジュールだから、ユウリちゃんがオッケーなら大丈夫よ」
桶川さんが即答すると、友子は小さくガッツポーズをしました。
「よっし、これで売り上げは心配ないわ!」
イベントの後、半日客寄せとなる事が確定しました。これも準備と当番を抜けるためと割りきって頑張りましょう。
「さあ、着いたわよ。降りて降りて」
横スライドのドアを開けて降ります。店の中では、深谷さんがてぐすね引いて待っていました。
「いらっしゃい、今日はタップリ楽しめそうで嬉しいわ!」
「・・・お手柔らかにお願いします」
と言ってはみたものの、やはり無駄でした。速攻で奥の部屋に連れ込まれ、山のような服を次々と試着させられました。




