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第百三十話 決断

 何とか蓮田さんを引き剥がし、桶川さんに送ってもらい家に帰ります。その時に聞いたのですが、抽選はかなりの競争率だったそうです。当選人数を増やせないのかと聞くと・・・


「お客さんが握手するのはユウリちゃんだけだけど、ユウリちゃんはお客さん百人と握手するのよ?慣れた人なら大丈夫だろうけど、ユウリちゃんは初めてでしょ?キツいと思うわよ」


 と言われて絶句しました。事務所的には増やしたいそうなのですが、私の事を考えて百人に制限してくれたようです。


「そうですね、ありがとうございます」


 こういう配慮なんかをさりげなくやってくれる辺りは、感謝もしていますし凄いと感心もしています。


 家に帰りつき、桶川さんに改めてお礼を言って別れました。リビングに入ると、テーブルに突っ伏した由紀の姿が目に入りました。何やら元気がありません。


 正面ではお母さんが優雅にお茶を啜っています。心配していなそうなので、理由を知っているのでしょう。


「お母さん、由紀どうしたの?」


「抽選に外れたらしいのよ」


 抽選というと、私の握手会でしょうか。蓮田さんといい由紀といい、楽しみにしてくれるのはありがたいのですが執着しすぎだと思います。


「由紀、残念だけど今回は諦めなさい。競争率高かったっていうし、こればかりは運だわ」


 由紀は無言で立ち上がり、ため息をつくとトボトボとリビングから出て行きました。


「由紀ちゃん、落選したってわかった後ずっとあの調子なのよ」


 夕方帰ってきた時には、もうあの状態になっていたそうです。


「握手会の抽選に漏れただけだし、明日にはいつもの調子に戻ってるわよ」


「だと良いけれど・・・」


「今日は蓮田さんに抱きつかれたりで疲れたわ。お休みなさい」


 予想より重症そうな由紀にお母さんは心配になったようですが、私は疲れていたので着替えた後風呂に入り就寝しました。


 一夜明けて木曜日。今日は祝日で仕事がありません。七時に目が覚め、リビングに降りました。すでに由紀も起きていて、ゆっくりとトーストをかじっています。


「おはよう、由紀」


「お姉ちゃん、おはよう」


 挨拶を返す由紀には、まるで生気がありません。某雨傘の名前の研究所から脱出するゲームのゾンビのようです。


「まだ握手会の事を引きずってるの?」


「ユウリさんと握手出来るチャンスだったんだよ?当たり前よ」


 由紀は食べ掛けのトーストを皿に置いて力なく部屋に戻ります。思い詰めて自殺・・・は無いと思いますが、何かをやらかさないか不安になります。


「重症みたいね」


「遊、由紀を慰めてあげてね」


 いきなりの声に振り向くと、お母さんが立っていました。足音も近付く気配も察知出来ませんでした。


「お母さん、気配を断って近付くのは心臓に悪いわ!」


「今忍者ものの挿し絵書いてたから、仕方ないのよ」


 忍者ルックに身を包み、背中に忍者刀を背負ったお母さん。お父さんの格好がどうなっているのか興味がありますが、巻き込まれるのは嫌なのでスルーします。


「遊、由紀を慰めてあげなさい。あなたなら簡単でしょ?」


「それって・・・」


 由紀に私の、つまりユウリの正体をバラせと言うことでしょうか?


「遊は声優続けるつもりなんでしょ?由紀に話したって問題ないわよね。落ち込んだ由紀の気持ちを浮き上がらせるのは簡単でしょ?」


 確かに、私がユウリだと話せば由紀のテンションは天井知らずで上がりまくるでしょう。でも、その結果どうなるかは友子の時の経験で予測出来ます。

 気は進みませんが、いつかは話さなければならない事です。それで由紀の機嫌が良くなるなら、今話してもいいかと決断しました。


「わかったわ。由紀と話してくる」


「お願いね。やり方は任せるけど、どうせなら飛びきり驚くやり方でビックリさせてあげて」


 イタズラ好きと言うかお茶目と言うか。我が母親ながら、本当にイイ性格をしています。


「それも了解。ただ話すだけなんて簡単にはしないわ」


「期待してるわ。お父さんと見守ってるからね」


 サムズアップして笑顔を見せるお母さん。私もサムズアップを返して由紀の部屋へと向かいます。由紀の部屋をノックしましたが、返事がありません。いつもならば返事を待つのですが、今回は無視して部屋に入ります。由紀は机に突っ伏し、私の方を見ようとしません。


「由紀、元気出しなって」


「お姉ちゃんにはこの気持ち、判らないわよ!」


 確かに、私は今まで何かに固執したことはないです。でも、だからといって「はい、その通りです」と引き下がれません。


「由紀が元気になるような話があるんだけど」


「もしかして、握手会に招待してくれるとか!」


 机に突っ伏してた筈の由紀が、入り口の私の前に立つ私の目の前で私の両肩を掴んでいます。


「握手会に招待って訳にはいかないけど、ある意味それより凄い話よ。聞く?」


「はいっ!聞かせて下さい、御姉様!」


 正座し、両手を床につけて深々と頭を下げる由紀。私、帰っても良いでしょうか。


「そのために来たのだから頭を上げて。ユウリ関連で由紀に見せたい物があるのよ。五分経ったら私の部屋に来てくれる?」


「わかったわ。キッカリ五分後にお姉ちゃんの部屋に行くわ」


 由紀はどこからか取り出した巨大目覚まし時計とにらめっこを始めました。あんな時計うちにあったかしらと首を捻りながらも、準備のために自室へと入りました。

勝って驕るな、敗れて泣くな。男涙は見せぬもの


これを書くと、年がバレるかな?

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