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第百二十七話 浮かれました

少々長めです

「この内容は無いわ。一体、何様のつもりよ?」


 契約書等と同封されていた手紙を読んで放り投げました。それを手に取った桶川さんも、内容を読んで呆れます。


「音楽事務所としては大手だから強気なのは解るけど、これはちょっとねぇ・・・」


 ちょっと名が売れてるみたいだからうちに迎えてやる。大手のうちに誘われた事を光栄に思いなさい。

 そんな内容でした。一応言葉は繕ってありますが、節々に感じさせる傲慢さは隠せる物ではありませんでした。


「桶川さん、ここを怒らせて不都合な事はありますか?」


 私は声優なので、歌関連は余興みたいなものです。音楽会社を怒らせても不都合はないと思います。でも、会社にとってどうかは判りません。


「別に構わないわよ。所属してる声優で歌を配信してる人も多いけど音楽会社は他にもあるし、あそこが最大手ってわけじゃないわ」


 大丈夫なようで安心しました。こちらから波風立たせるつもりはないのですが、この話を断って相手がプライドを傷つけられたと逆ギレするかもしれません。


「では、完全にこの話はお断りで。と言うか、私はこの会社に一切係わりたくありません」


「わかったわ。当たり障りの無いように断りを入れておくわ」


 封筒をしまい、代わりに紙袋を取り出す桶川さん。袋の中にはライトノベルが入っていました。


「これは・・・原作ですか?」


「そうよ。ちゃんと読んでおいてね」


 先程引き受けた新しい仕事。オラクルワールドの原作小説が入った紙袋を受け取りました。


「わかりました。アフレコが始まるの、楽しみです!」


 自分の能力を買われて受けたお仕事です。ロザリンド役に不満がある訳ではありませんが、訳もわからずに済し崩しで受けた仕事とは一線を画します。


「張り切るのは良いけど、今の仕事を疎かにしないでね」


「勿論です。次の仕事に行ってきます」


「あ、ちょっと待って!」


 紙袋を持って部屋を出ようとしたら、止められてしいました。


「オラクルワールドの話、正式に発表されるまで誰にも言っちゃダメよ?」


「わかりました。誰にも言いません!」


 元気良く返事して部屋を出ます。発表までオフレコにするなんて、言われなくても言いません。

 自分では平常を保っているつもりでしたが、浮かれていたようです。玄関で受付のお姉さんに声を掛けられました。


「ユウリちゃん、ご機嫌ね。良い事でもあったの?」


「ええ、ちょっと」


 内容を言えないので、曖昧に答えて仕事に向かいます。タクシーを捕まえてテレビ局へ移動しました。撮るのは夏休み特番の番組対抗クイズ大会です。


 久し振りの解答者ということと、テンションが上がりまくっていたのでやり過ぎました。ぶっちぎりの差で優勝です。一緒した朝霞さんが引いていました。


 これ、生放送だから編集できないのです。それはそれで面白かったとディレクターさんに赦されたので助かりました。次から気を付けるようにしましょう。ちゃんと反省も後悔もしています。


 帰りは桶川さんが迎えに来てくれていて、ワゴン車の中で着替え家に直接帰りました。別れ際に桶川さんが、両親には主役の事を言っても良いと言ってくれました。


 うちの両親はそれをバラす事はしないと信じてくれているようです。流石に二十三時を回っているので、両親も由紀も自分の部屋に入っています。


 自室に直行し、紙袋を置いて風呂へ。存分に風呂を堪能しリビングで風呂上がりの麦茶を飲んでいると、お母さんが入ってきました。


「遊、お帰りなさい。テレビ見たわよ。独壇場だったわね」


「ただいま、お母さん。久々の回答者だったからちょっと羽目を外しちゃったわ」


 ずっと司会だったので、全力で答えました。久々に回答に回ったのですから、多少は許してほしいと思います。


 多少・・・だったよね。


「それだけ?何だか浮かれてたように見えたわよ?」


 探りを入れるように聞いてくるお母さん。新しい仕事の話をしようとしたら、由紀が降りてきました。


「話し声がしてると思ったら、お姉ちゃん帰ってたんだ」


 冷蔵庫から自家製桃の葉茶を取り出し、席につく由紀。これでは仕事の話を出来ません。


「今日はユーリさん凄かったんだよ!」


 特番の話を聞かされる事三十分。回答者となったユーリがどれだけ凄かったかを、滔々と聞かされました。


「由紀、遊に話があるからその辺で」


 お母さんの終了宣言で話は中断しました。自分が暴走した話なので、聞いてて恥ずかしかったのですが止める訳にもいかなく困っていたので助かりました。


「じゃあ、続きは明日にね。お休みなさい」


 終わりではなく、明日に続くそうです。明日を考えると憂鬱になりますが、今は逃れたから良しとしましょう。


 由紀が二階に上ると、お母さんに書斎に連れていかれました。


「お父さん、ただいま」


「遊、お帰り。優勝おめでとう」


 お父さんも特番を見ていたようです。


「遊、何か良いことがあったらしいの。」


 お母さんの目が「教えなさいね!」と命令しています。元より話すつもりなので、喜んで報告させてもらいます。


「新しい仕事が入ったの。新しいアニメで、また主役なのよ!」


「遊、おめでとう!」


「遊も完全に打ち込める事を見つけたな。おめでとう!」


 両親は心から祝福してくれました。新しい役を貰った事はもちろんの事、私が声優という仕事に熱中している事を殊更喜んでくれました。


 それは良かったのですが・・・


「遊は完全に声優を続けるつもりなんでしょ?なら、由紀にも教えてあげないとね。家族なんだから」


 お母さんからの至極真っ当なお言葉てす。私だってずっと黙ってるつもりはありません。でも、友子に打ち明けた時の事を思い出すと躊躇してしまいます。


「あはは、そのうち打ち明けるわ」


 冷や汗を滴ながら苦笑い。お母さんもそれ以上は強く言いませんでした。


 両親にお休みの挨拶をして自分の部屋に戻ります。ベッドに入りましたが、眠れそうにありません。


 紙袋からライトノベルを取り出します。どうせ眠れないなら、原作を読んで役を掴んでおきましょう。


 話が途中から始まっています。この作品の仕様なのでしょうか?・・・二巻でした。

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