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第百二十六話 新たなお仕事

 皆さんこんにちは。私は今、「笑ってイロモノ」のセット裏で呼ばれるのを待っています。表からは司会のハモリさんが番組を進める声が聞こえています。


「今日のゲストは、声優のユウリさんです」


 とうとう出番がやってきました。ハモリさんの紹介を受け、セット裏から出ます。見学者の拍手を受けながら勧められた席につきました。


 背後には知り合った共演者や先輩声優さんからの花が飾られています。お会いした時にお礼を忘れずに言いましょう。


「えー、ユウリさんは朝霞さんの紹介ですね」


「はい。『悪役令嬢になんかなりません~私は普通の公爵令嬢です~』で共演させていただいています」


 番組の話や、収録の話を中心にトークが進みます。私のプライベートに関する事に触れる気配は全くありませんでした。


「朝霞さんは色んな声色を使ってましたが、声優さんは皆さん出来るんですか?」


「私は駆け出しで他の先輩方を余り知りませんが、朝霞さんは特殊だと思いますよ」


 あの人を標準だと思われたら、他の声優さんは堪りません。なにせ、あの人だけでアニメが一本作れると言われているお方なのです。


 その時、音楽が鳴り、番組はコマーシャルに入りました。生放送なので、この間は放送されません。しかし、見学に来ているお客様がいるのでトークは続きます。


「ユウリさんはどれくらい声を変えられるんですか?」


 ハモリさんが興味深そうに聞いてきました。朝霞さんには到底敵いませんが、私も多少は違う声を出すことが出来ます。


「そうですね」

「こんな」

「感じ」

「ですね」


 結構違う声色に変えて話すと、ハモリさんとお客さんから感嘆の声があがりました。


「ユウリさんも凄いですね!」


「こんな声も出せますよ」


 調子に乗って青年のような声を出します。


「声だけ聞いたら完全に青年ですね。さすが人気声優さん!」


 ここでまた音楽が鳴り、CMがあけました。その後はユウリの声色で雑談をし、次のゲストに蓮田さんを紹介して終了しました。


 その放送の反響は、可もなく不可もなく。桶川さんに入れられた過密スケジュールに追われるうち、その時の放送の事は頭の隅に追いやられました。


 しかし、次の週の月曜日。その日は仕事が夕方からだったにも係わらず、私は昼前に桶川さんに呼び出されました。


「ユウリちゃん、一応確認するけど、悪なりが終わっても声優続けるのよね?」


「え?は、はい。まさか、悪なりは打ちきりですか?」


 視聴率は悪くない筈なのですが、終わってしまうのでしょうか。まさか、スタッフがスポンサーに嘘をついていて、それがバレたのでは・・・


「違うわよ。ユーリちゃん、あなたに名指しで仕事の依頼が来たのよ!」


「どんな仕事ですか?」


 桶川さんは鞄から1冊のラノベを差し出しました。本のタイトルはオラクル・ワールド。多人数参加型オンラインバーチャルリアルロールプレイングゲーム(VRMMO)を題材にしたライトノベルです。


 来春からアニメ化するのに、主役の声優さんがまだ決まっていないと友子が言っていました。主役は十七歳の青年なのですが、監督のイメージに合う人が居らず決まらないそうです。


 この場でその原作が出てくると言う事は・・・


「来春からアニメ化する、この話の主人公役よ。二作目も主役なんて、流石ね!」


「でも、主役って青年ですよね。何で女の私に?」


 私が宛てた声はロザリンドちゃんだけです。女性で少年役をやる人は居るのは知っていますが、私が青年役をやれるかどうかなんて分かる筈がないのです。


「ユウリちゃん、『笑ってイロモノ』で色んな声を披露したでしょ?監督さんがあれをテレビで見たらしいのよ」


「あれは、CMの時間に余興で・・・あっ!」


 あの番組は毎週日曜日に増刊号という特番をやります。そこでCM中のやりとりを流すのでした。


「昨日の放送でやってたわよ。私もビックリしたわ」


「普段はあんな事しませんから」


 調子にのった事は反省しています。しかし、後悔はしていません。


「ま、あれで監督さんが気に入ってくれたんだから結果オーライよね。受けてくれるわよね?」


「もちろんです!」


 間髪入れずに引き受けます。私の力を認めてくれた上での依頼なのです。ロザリンドちゃんの時のように誰かの補欠ではありません。しかも主役です。断る理由なんて何処にもありません。


「それじゃ、この件は伝えておくわ。それともう一つ」


 A4サイズの封筒を差し出されました。越谷ミュージックと印刷されています。


「単刀直入に言うと、引き抜きのお誘いよ」


「お断りします!」


 これまた即座に却下しました。契約内容の確認すらやっていません。


「好条件を提示されても、移籍するつもりはありません」


 何だかんだ言っても桶川さんには感謝していますし、人間としても好きなので移籍するつもりはありません。


「ユウリちゃん・・・ありがとう!」


 涙を溢れそうにさせ、私を見つめる桶川さん。こちらが恥ずかしくなってしまいます。


「えっと、一応中身だけは確認しますね」


 封筒を手に取り、中身に目を通します。桶川さん、「照れ隠ししても分かるわよっ!」と言いたげな顔で見つめないでくださいっ!

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― 新着の感想 ―
[良い点] あの伝説の、国民的昼番組に出演するとは! さすがユウリちゃん。 青年役とは珍しいですが、人気が出そうな作品の主役が出来て良かったですよね。 この新作のイベントとかも大盛り上がりしそうだな〜…
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