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第百二十五話 メールの理由

 今日は高校の登校日です。いつもの場所で、友子が私を見つけて走ってきます。抱きついてきた友子をサイドステップでかわし、ネコのように首筋を摘まんで止めました。


「おはよう、いきなり突進してきたら危ないわよ」


「おはよう、遊。夏休みだってのに全然会えないんだもん、仕方ないわよ」


 何が仕方ないのか分かりませんが、摘まんだ手を離し駅に向かって歩きます。話題は夏休み中の近況報告。主に友子の話を私が一方的に聞いています。

 私の近況は声優としての活動だけなので、他の人がいる道路上や電車内で話せる内容ではありません。他愛ない話をしながら学校へ。


「ユウリちゃんの曲、良いわよね」


「好きなんだけど、カラオケで歌うと上手く歌えないなよ」


 教室に入るなり聞こえてきたクラスメートの会話に、回れ右したくなりました。


「遊、どこに行くのかしら?」


 友子に首根っこを掴まれ、引きずられて教室に入ります。話をしていた二人がこちらに注目しました。


「友子、おはよう。北本さん、どうしたの?」


「気にしないで。それよりユウリちゃんの曲、いい曲よね」


 私を引きずったまま会話に加わる友子。自分に関する話を聞くのはかなり恥ずかしいので、何とか逃げ出そうと努力します。

 しかしその努力は実を結ばず、先生が来るまで延々とユーリ談義を聞かされる羽目になりました。


「皆来てるか?欠席のやつは手をあげろ」


 教室に入るなり使い古されたギャグをかます先生。皆は慌てて席につき、私も解放されました。


「出欠をとるぞ」


 誰にも突っ込まれず、改めて出欠確認する先生。どうやら無かった事にするようです。

 今日は出欠確認と注意事項の伝達だけで終了しました。態々登校する意味があるのかと首を捻ってしまいます。


「遊、終わったし行くわよ!」


 友子と連れ立って屋上へ。ユウリの話をするのに、人の居ない屋上はうってつけの場所です。他に誰もいない事を確認し、隅の方に座りました。


 友子が鞄の中からレジャーシートと2リットルサイズのお茶のペットボトルに紙コップ、数種類のスナック菓子を取りだしセッティングします。

 前にも思いましたが、友子の鞄は絶対に四次元に繋がっています。鞄の容量と内容物の体積がどう見てもおかしいのです。


 鞄に対する考察は一先ず置いておき、夏休み中の事を友子に話します。メインはやはりコミケの内容になり、新曲疲労のステージの事をからかわれたりしました。


「それで、帰るときに桶川さんが暴走して・・・あ、御免ね」


 携帯が鳴り出したので、会話を中断します。鳴っていたのは仕事用の携帯で、桶川さんからメッセージが届いていました。


「明日の昼はお仕事が入っていませんと入っていたけど、態々と言う必用あるのかしら?」


「仕事が無いなら、連絡しなければ良いだけの話なのに・・・遊、ちょっとテレビ見るわね」


 友子がワンセグで見出したのは、お昼の定番番組の笑ってイロモノ。名司会者のハモリさんが長年続けている名物番組です。


「今日のゲストは朝霞さんなのよ。これは落ち着いて見ないとね」


 朝霞さんは収録の面白い話をしたり、ハモリさんの要望に応えて色々な声で話をしたりしています。見学のお客さんもその度に声をあげ、スタジオは盛り上がっていました。

 そして終わりの時間が近づき、次のゲストを紹介する時間となりました。


「では、アニメ『悪なり』で共演しているユーリちゃんを紹介します」


 スタッフさんが持ってきた電話機に朝霞さんが番号を打ち込むと、私の仕事用携帯が鳴りました。


「もしもし?」


「あっ、ユウリちゃん、今電話大丈夫?」


 友子が持つ携帯の音と、携帯から伝わる声がシンクロしています。


「大丈夫です。番組拝見していました」


「それなら話は早いね。ちょっとハモリさんに代わるよ」


 これで察しが付きました。朝霞さんは私を紹介するつもりで桶川さんに明日の予定を確認していたのでしょう。そして桶川さんはこれを受けなさいと暗に伝えたのが先程のメールだったのです。


「初めまして、ハモリです。朝霞さんの紹介ですが、明日、出演出来ますか?」


「大丈夫です。喜んで出演させていただきます」


 仕事が入っているなら兎も角、空いているのにこの番組の出演を断る人はまず居ないでしょう。私とて例外ではありません。


「では、明日、来てくれるかな?」


「イロモノー!」


 定番となっている返事で了承しました。まさか、わたしがハモリさんにこれを言う事になるとは夢にも思っていませんでした。


「では明日、お待ちしています!」


 通話をきり、携帯をしまいます。友子の携帯は続きを映していますが、それを見る余裕はありません。


「遊、今その携帯、ハモリさんと繋がっていたのよね?」


 私の携帯を指差す友子の指が、細かく震えています。無理もありません。ハモリさんといえば、芸能界の大物なのですから。


「明日、『笑ってイロモノ』に出演することになったわ」


「凄い!いずれ声が掛かると思ってたけど、もうハモリさんに会うなんて!」


 自分の事のように喜ぶ友子。私も勿論嬉しいのですが、まだ現実と捉える事が出来ていません。


「生放送だし、ヘマしないようにしないとね」


 私のプロフィールは未公開なので、その辺をポロッと喋らないように注意しないといけません。


 明日の生出演、どんな事になりますやら・・・

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