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第百二十三話 公開録音終了

遅れ馳せながら、あけましておめでとうございます。

 コミカルマーケット内に設えられた特設ステージ。その周囲には沢山の人が集まっています。秋葉原で沢山の人の前に出る経験をしたとはいえ、その時の人を上回る人の多さに圧倒されそうでした。


「緊張するとは思うけど、いつもの通りにやれば問題ないわ。私も一緒なのだしね」


「・・・蓮田さん、ありがとうございます」


 すぐ抱きついてきて、新人声優のファンクラブに入る先輩ですが、人気声優の座を保持し続けてきた女性です。ここぞという時に頼りになる頼もしい先輩です。


「さあ、始めるわよ!」


 手を振りながらステージに上がる蓮田さんに続き、私も手を振ってステージに上がりました。盛大な拍手と歓声に包まれながら所定の立ち位置につきます。


「ロザリンドと・・・」


「ラビーシャの・・・」


「「クリスタニア放送局!」」


 大観衆に見守られながら、公開録音が始まりました。今日は失敗しても編集等のフォローはききません。


「本日はコミケ会場からお送りするクリスタニア放送局。特典満載の特番です」


「特典、ですか?私には聞かされていないような・・・」


 いつものように、ざっくりとした流れの台本を渡されていますが特典などどこにも書かれていませんでした。


「まず、特典その一。ユウリちゃんがロザリンドちゃんの姿でお送りします!」


「蓮田さん、それ、リスナーの皆さんには見れませんから!と言うか、このコスプレが特典だったのですか!」


 会場の皆さんからは拍手が沸きましたが、ウェブラジオを聞いてくれる人には意味がありません。ラジオの特典なのに、良いのでしょうか?


「特典その二。今日は時間を延長してお送りします。時間が増えてもギャラは同じという、私達にとっては悲報もくっついてきます!」


「その通りですけど、その通りですけどそれは言ってはダメな奴です!」


 お客さんの爆笑を受けつつ、私の突っ込みを流した蓮田さんは話を続けます。


「特典その三。ユウリちゃんが生歌を披露してくれます!私は今日の為に最新のデジタルビデオを買いました!」


「蓮田さんはこっち(運営)サイドなのですから、自重して下さい!」


 蓮田さんのペースはいつもと何も変わらず、それに突っ込む私もいつものように対応しました。そんなこんなで時間は過ぎて、曲を披露する時間が迫りました。


「さあ、そろそろ皆さんお待ちかね。番組の新しい主題歌を披露してもらいます。私も観客になってビデオ撮りますよ」


 ビデオカメラを片手に客席側に降りた蓮田さんに「しれっと観客に混じらないで下さい」とか「主題歌になると聞いていないのですが」と突っ込む暇もなく、曲のイントロが流れました。目を閉じて深呼吸し、気持ちを切り替えます。


 獣人だからと虐げられてきた侯爵子息、ディルクへの想い。それをバラード調のメロディーに乗せて歌い上げました。曲が終わりましたが、反応が全くありません。不審に思い見回すと、一人残らず私を見つめ固まっていました。


 どうしたら良いか分からずに困惑していると、硬直から解けた人が拍手を贈ってくれました。それを皮切りに我に返った人が拍手と歓声を贈ってくれます。


「ユウリちゃんのデビュー曲、『あなたに』でした。想像以上に破壊力が高かったから、私まで引き込まれてしまったわ」


 いつの間にか舞台に戻っていた蓮田さん。過大な誉め言葉に、どう返してよいかわかりません。


「これでクリスタニア放送局の公開録音は終了です。アンコールに応えたいのはやまやまだけど、舞台の使用時間という呪いがあるので出来ません」


「蓮田さん、それ、呪いではなく大人の都合というものでは?」


「細かい事は気にしないの。では皆さん、来週のクリスタニア放送局でお会いしましょう!」


 拍手と声援に手を振り応えながら舞台の袖に引っ込みます。これにて公開録音は終了です。盛況の内に終了できて、肩の荷が降りた気分です。


「ユウリちゃん、お疲れ様。CDで聞くより何倍も感動したわ」


「桶川さん、ありがとうございます。ところで、あの曲を主題歌に使うとか聞いていないのですけど・・・」


 舞台裏で出迎えてくれた桶川さんに、まずは聞かねばならない事を聞きました。


「あら、言っていなかったかしら?次の主題歌に予定していた曲がイメージに合わなくて、選定が難航していたのよ。そこにユウリちゃんの歌が届いたらしくて、満場一致で決まったらしいわ」


「そうでしたか。ところで桶川さん、私、連絡事項はちゃんと連絡して下さいと何度もお願いしてますよね?」


 桶川さんだけでなく、周囲にいたスタッフさん達まで後退りしています。笑顔でお話しているだけなのですが、何か怖い物でも見えているのでしょうか。


「うん、伝え忘れていた私が悪かったわ。だから、冷静になってくれないかしら?」


「これは妙な事を仰いますね。私は至って冷静ですよ?」


 その後、コミカルマーケットの会場に絹を裂くような悲鳴が轟いたそうです。しかし、その日に会場にて事件があったという記録はありませんでした。

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