第十二話 取材とアイドル
二十分ほどで記者さんが来ました。二人います。一人は大きなケースを持っていて、カメラマンの方ですね。
「初めまして」
先程貰ったばかりの名刺で名刺交換をします。やはりケースを持ってる人はカメラマンでした。
「では、自己紹介をお願いします」
「ユウリです。今年16になります」
「今年16と言うことは、今は中三ですか?」
「はい。受験勉強しながらやってます」
出だしは定番の年齢から。気を付けるべきはここからです。迂闊に学校名とかを口にしないようにしないといけません。もしも口を滑らそうものならば、平穏な高校生活を送れなくなる可能性があります。
「そうですか。高校はどちらへ?」
「すいません、それはお答え出来ません」
微笑みながら返します。プライベートに関する事を言うつもりはありません。
記者さんは流石に手慣れていて、普通の質問の間にプライベートを探る質問を混ぜてきました。しかし、何とか凌ぎきって約束の時間が過ぎました。
「では、お疲れ様でした」
お互いにお辞儀をしてインタビューは終了です。二人が退室し、見えなくなるまで笑顔を崩しませんでした。
「ユウリちゃん、お疲れ様。初めてにしては良い出来だったわ」
「ありがとうございます。桶川さんがついてくれていたので、心強かったです」
緊張が解けて、弛んだ顔のまま桶川さんにお礼を言いました。桶川さんは顔を真っ赤にして背けてしまいます。
「ユウリちゃん・・・その笑顔、反則だわ。とにかく、社長室に行きましょう」
ふと周りを見ると、喫茶室にいた全員がこちらを見ていました。皆さん顔が赤いのは何故でしょう?
考えても分からないし、私は桶川さんについて社長室へと移動しました。
「ユウリちゃん、アイドルにならない?」
突然勧められた転職に、少し呆けてしまいました。桶川さん、私を声優にしたかったのでは?
桶川さんの思惑が読めません。とりあえず、無難なボケをかましておきましょう。
「チワワのCMは可愛かったですけど・・・」
「それはア○フル!犬と企業に関連が無いって打ち切られた奴ね!」
さりげなく内部事情を暴露してくれました。芸能界では知られている事なのでしょうか。業種に関係ない内容のコマーシャルなんて山のようにあると思うのですが、そこは追及しないでおきます。
「同じ犬なら、携帯会社のお父さんシリーズが好きです」
「私も好きだけど・・・そうじゃなくて!」
とうとうアメリカまで進出してあの一家。このまま続いたら、何処まで行くのでしょうね。
桶川さんの目が険しくなってきたので、ボケ倒すのはこの辺りで止めにしておきましょう。
「あなたの容姿や仕草は可愛すぎるのよ。絶対にアイドル向けだわ、間違いなく売れる!」
「いきなりそう言われて、『はい。わかりました』と言う人はいないと思いますが?」
正論を言われて怯む桶川さん。大体、アイドルなんてそう簡単になれる職業ではないでしょう。お化粧で見た目は少し良くなりましたが、それで通用するとはとても思えません。
「私はこれでも、その道のプロよ。ユウリちゃんならばトップアイドルになれるわよ!」
「今は声優の勉強が優先だと思いますが?」
主役を貰ってるアニメを疎かにするなんて、鎬を削って役の獲得しようとしている声優の方々が知ったら特大の恨みと嫉妬を買いそうです。
「そうね、ユウリちゃんは声優に専念して頂戴」
話し合いを終え、事務所を出て近くのデパートのトイレに入り髪を結びます。ついでに本屋に寄り、今日取材を受けた雑誌を読んでみました。
アイドル雑誌じゃないの?と思うくらい写真が多く、これに私も載るのかと思うと現実逃避をしたくなります。
少々・・・いえ、かなり鬱になりながらも家への道を歩くのでした。




