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第百十九話 チェックインまでの攻防

「それじゃあ由紀、気をつけて帰るのよ」


「うん。お姉ちゃん、お仕事頑張ってね!」


 私は今、会場の最寄り駅にいます。両手に紙袋を下げた由紀が、改札を抜けて人混みにダイブしていくのを見送りました。


 あの後会場を走り回った由紀は、大量の同人誌を買いまくりました。そして、会場内に出張していた宅配便で自宅に送り付けたのです。


 家に送った筈の紙袋を持ってるのは、送った後も大量に買ったからです。また送れば良いじゃないかと思うでしょうが、お小遣いが尽きたので送れなかったのです。帰りの電車賃ギリギリまで手持ちを使ったようです。

 貸そうかとも言ったのですが、「趣味の為にお金を借りるのはNG!」と断られました。ポンポンと買いまくるので経済観念は大丈夫かと心配になりましたが、杞憂だったようです。


 でも、あんな荷物持って大丈夫でしょうか。朝のラッシュアワーよりも混雑しています。私はあれに乗るなんてごめん被ります。今回はホテルをとってくれた桶川さんに感謝しなくてはなりません。


 なんて考えてるうちに由紀の姿も見えなったのでホテルに移動・・・する前に難問を解決しないといけません。


 桶川さんがホテルの部屋をとってくれましたが、その名義は声優のユウリです。なので北本遊ではなくユウリの格好でチェックインしないといけません。ですが、ホテルで居合わせるだろう人達が問題となります。


 コミケ初日の夜にコミケ会場の近くのホテルに泊まる以上、関係者か参加者がその大半を占めるであろう事は容易く想像できます。

 そんな人達ですからアニメへの関心は高いでしょう。そこに新人とはいえ雑誌にも顔が出ているユウリが出没すれば写メを撮られる事は避けられません。

 それ自体は良いのですがその写真がSNSに載り、もしも由紀が目にしたら・・・私の服と同じだと気付き、そこから私がユウリだと判明するかもしれません。


 ホテルの受付さんだけに私がユウリだと認識させる事が出来れば良いのですが、そんな都合のよい方法など考え付きません。現実的で簡単なのは服装を変える事です。

 しかし、イベント会場付近には一般の商業施設などなく、服屋さんに行こうとしたら交通機関を使う必要がありそうです。しかし電車やバスは超満員状態、タクシーは車両待ちの列がドミノ倒しのように並んでいます。


 打開策を練るために記憶を探っていると、コスプレ用の服を売っていたサークルがあった事を思い出しました。まだそのサークルが居るかどうかは賭けですが、一縷の望みをかけて走ります。


 間に合いました。帰り支度をしていましたが、お目当てのドレス擬きを輸送用の鞄ごと購入出来ました。それを持って会場から少し離れた公園に移動しました。


 園内の人目につかなそうな場所でソーイングセットを使い、ドレス擬きから装飾を外すとその布を使ってアレンジしました。そのまま着た場合、売ってくれたサークルの人にバレる可能性があるからです。


 多目的トイレで着替え、家から着てきた服を買った鞄に詰めます。三つ編みを解き眼鏡を外し、化粧を少々追加すれば変身完了です。


 公園を出てホテルの方に歩いて行くと、案の定居合わせた人からの視線を集めてしまいました。


「おい、あの子って・・・」


「間違いないわよね、明日公録あるし」


 コミケ帰りの通行人の人達が、私を見ながらヒソヒソと話しています。コミケ帰りと断定している理由は、殆どの人がアニメキャラのイラスト入りの紙袋を持っているからです。

 ここで対応すると、囲まれて身動きがとれなくなる可能性が高いです。包囲される前に突破しましょう。


 出来るだけ平静を装い周囲を伺います。狭まってきた包囲網から最初の一人が話しかけようと足を踏み出した瞬間、手薄な箇所を抜け走り出しました。


「くっ、追え、追うんだ!」


「は、速い!赤くないのにあの速さは?!」


 定番のネタを聞きながら、全速力で駆け抜けます。元ネタのあのアニメ、由紀から打ちきりだったと聞いた時には耳を疑いました。宇宙戦艦のアニメといい、後年まで語り継がれる名作は一度打ちきりになるという法則でもあるのでしょうか。


 そんな事を考えながらも全力疾走し、囲むように集まってくる人達を何とか乗り越えホテルのロビーに駆けみました。背後から追ってきた人達は、ホテルの人に塞き止められています。


「ご予約のユウリ様ですね?ファンの方はコンシェルジュが対応しておりますのでご安心を」


「あ、ありがとうございます」


 こういった事が頻繁にあるのでしょうか。ホテルの人達の対応が手慣れているように感じました。


「コミカルマーケットにいらした有名人の方が当ホテルをご利用いただく事もあります。この手の対応は心得ておりますので、ご安心ください」


 心を読んだように説明してくれました。コンシェルジュのお姉さん、有能すぎます。流石は桶川さんが手配したホテルです。普段はあんなでも、伊達に大きな芸能事務所の社長してないんだと改めて思いました。


 その後、記帳をしてチェックインしました。記帳の時に芸名で大丈夫なのか本名を書かなくてはならないのか迷いましたが、芸名で大丈夫なようです。


 無事にチェックインして鍵を貰い部屋に入ります。消耗しきっていた私は、軽くシャワーを浴びるとすぐに眠りについてしまいました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ドレスに着替えて 疾風のように駆け抜けてホテルにチェックインとは! これは新たな神話が追加されましたね。 これは噂になりそう。 コマーシャルのネタになりそう。 身体能力を競い合う番組の依頼…
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