第百十四話 VS・・・
「さすが、『千の声帯を持つ男』!一言一言声を変えている!」
朝霞さんは番号を叫ぶ度に声色を変えています。目を閉じて聞いたら何人かの人が叫んでいるように聞こえる名人芸に、観客席から笑い声と拍手が飛びました。
なんて思っていると、ピンクのボールが落ちてきました。得点が倍になるこのボールは私が番号を教える手筈になっています。
「七番、七番!」
篭を背負ったアイドルがダッシュし、見事にピンクボールをゲットしました。かなりの高得点を取り、このゲームは終了です。
「声優の力は伊達じゃない、よく通る見事な指示でした」
「朝霞さんに至っては声を変える余興つきだったしな」
司会の人の言葉を篭を背負っていたアイドルが肯定し、会場からは爆笑が沸き起こります。
次にゲストチームが挑戦しました。頑張っていたのですが、番号の指示が通らなかったりでかなりのボールを落としていました。おかげで、私達のチームは逆転する事が出来ました。
次は立体迷路を抜けるゲームです。三階建ての立体迷路を抜けて、出た出口でビンゴを作ります。作れるまでの時間を争い、早く出来た方のチームに百点が入るというものです。中に入れるのは二人まで。一人が出たら、交代で一人が入ります。
先攻のゲストチームの二人が悪戦苦闘しています。行き止まりに嵌まり、目的以外の出口に出てしまったりしていました。その結果、五分三十秒でゲストチームは終了しました。
続いて私達の挑戦です。私も動きやすい服装に着替えて参加します。髪はまとめて結ってあるので邪魔になりません。
「私、一番手で良いですか?」
「ユウリさん、自信ありそうですね!」
「多分、大丈夫だと思いますよ」
司会の人の問いかけに即答しました。やるのは初めてですが、自信の根拠はちゃんとあるのです。
「では、始めます!」
スタートの合図と同時に迷路に駆け込みました。開始前の打ち合わせでは、初めに中央を開ける事になっています。
ビンゴで初めに中央を開けるのは鉄則です。穴を上がり、通路を這って上を目指します。時には一旦下がりながら、目的の中央から出ました。
「おお~っとぉ、ユウリさん、早くも脱出したぁ~!」
司会の声と共に、観客から歓声も上がります。
「ユウリちゃん、凄いね!」
「記憶力には自信がありますから。ゲストチームの人の動きで大体の経路は把握しましたよ」
戻った私を迎えてくれたアイドルに、にっこりと笑顔で答えました。話しているうちに入っていたアイドルが脱出しました。交代で朝霞さんが入って行きます。
現在開いた出口は右奥の角と、私が開けた真ん中の二ヵ所です。朝霞さんは苦戦していて、中々上に上がれません。その間にもう一人のアイドルが真ん中の右上から脱出しました。
これで三ヵ所が並び、左下二ヵ所を開ければクリアになります。入れ替わりで入ったアイドルが左下の出口を目指して進みます。
朝霞さんは脱出しましたが、真ん中の一つ左の出口を開けてしまっています。一つ下なら良かったのですが。
その朝霞さんと交代し迷路に入ります。先に入ったアイドルは、左下を目指しているようです。ならば、私はその右上を目指します。うまく開けられれば、それでクリアとなります。
絶対記憶能力と空間把握能力で迷路の構造をほぼ把握している私は、迷うことなく目的の出口を目指しました。その出口の下に着き、急いで出口のふたを開けました。
偶然にも同時にアイドルの人も脱出に成功し、しかも狙った場所にドンピシャでした。
「おおっとぉ、二ヵ所同時に開いたぁ、これでクリアー!」
時計は四分二十秒を指していました。これでアイドルチームの勝ちとなり、こちらに百点が追加されました。
これでリードは百二十点と、ゲストチームを突き放しました。
残るゲームは、回るテーブルでのコイン積みのみです。
厚いコインは得点が高いのですが、崩れやすくなっています。積み上げたコインの得点と別に、倒さなかったチームに百点が入るので、まだゲストチームにも逆転の目はあります。
ゲストチームの一人がコインを置いてスタートしました。アイドル、私、ゲストと一番厚いコインを置いていきます。
わざと多少ずらして置く駆け引きを交えながら、コインは順調に高くなっていきます。
アイドルが端に寄せてコインを積みました。次に積むゲストが反対に重心を寄せて置こうとしましたが、コインから手を離した瞬間にコインタワーが揺れ出しました。
左右にグラグラと揺れるコインタワー。そして、派手な音と共に崩れてしまいました。
「倒れました!この瞬間、アイドルチームの勝利が確定しました!」
司会者の声と共に、観客席から拍手が起こります。私達アイドルチームの勝利でゲームは終了となりました。




