第百十三話 バラエティーのお仕事
お待たせしました
終業式は何事もなく終わり、無事に夏休み突入しました。クラスの皆は、海に山にコミケにと、遊びに行く計画で盛り上がっています。
私は休む間もなく仕事なので蚊帳の外です。いつもの脳力試験と悪なりの収録はもちろん、インタビューやら写真撮影まで入っていました。
そして、今からやる仕事はバラエティー番組のゲストです。アイドルグループといくつかのゲームで対戦する番組です。私は対戦するのではなく、アイドルグループの助っ人として呼ばれています。助っ人は二人で、もう一人は朝霞さんです。
「今さらだけど、ユウリちゃんは運動はどうなの?」
「苦手じゃ無いですよ」
収録前の控え室で、茶菓子に出された川越名産の干し芋を手にした朝霞さんに聞かれました。運動神経は良い方だと思いますが、無難な答えを返します。
こういうゲーム系は、運動が得意でも上手く出来ない事が多いのです。大口叩いて成績サッパリなんて醜態晒したくありませんから。
「朝霞さん、ユウリさん、そろそろお願いします!」
ADさんが呼びに来ました。朝霞さんは手にした干し芋を口に放り込むと、おしぼりで手を拭いて立ち上がりました。
「それじゃ行こうか。ユウリちゃん、頑張ろうね!」
「はい、頑張ります!」
朝霞さんとセット裏の入り口に向かいます。セットの向こうから、司会進行役である天の声さんの声が聞こえます。
「今日の助っ人は、この2人です!」
扉が開き、スモークが焚かれました。私と朝霞さんはセットに出ると、客席の方に微笑んで手を振ります。
「声優の朝霞さんとユウリさんです!」
客席から歓声と拍手が起こりました。軽く頭を下げると、アイドルグループの皆さんに合流します。
「朝霞さん、今日は体力勝負ですが自信の程は?」
「あまりないですが、頑張ります」
天の声の問いかけに答える朝霞さん。声優という仕事も結構体力が必要なのですが、運動となるとまた話が違います。
「ユウリさん、個人的にはドレスで来てほしかったです!」
「ドレスでゲームは出来ません!」
天の声さん・・・自重して下さい。私が声をあてているロザリンドちゃんならばドレスでも軽々とこなしそうですが、私はごく普通の新人声優です。
「ドレスはちょっとなぁ」
「無茶言うなよ!」
アイドルグループからも批難の声が飛びました。
「ドレスよりもメイド服を見たいような・・・」
アイドルグループの一人がそう言うと、スタジオ内が静まり返りました。
「お前、そっちの趣味が・・・」
「お前も自重しろや!」
メイド好きなメンバーは、両隣のメンバーにより叩かれ沈黙しました。このシーン、放送ではカットされそうな気がします。
「え~、とりあえずゲームを始めましょう」
天の声さん、他人事みたいに言ってるけどあなたが発端なんですよ。
私の心の中でのツッコミを無視して、番組が始まりました。まずは、壁面をよじ登って得点ボタンを押していくゲームです。
私と朝霞さんは、かすがいのような取っ手を篭に入れてパスする役目をやります。一人目のアイドルは、スルスルと見事に登っていきます。流石毎週やってるだけあって、手慣れた感じで危なげがありません。右半分のボタンを全て押し、頂上のボタンを押して飛び降りました。
「僕達出番無いね」
「左は取っ手を使わないと登れない場所がありますから、大丈夫ですよ」
なんて暢気に話していると、登っていたアイドルから取っ手を要請されました。
「それっ!」
勢いよく朝霞さんが取っ手の入った篭を放ります。紐で吊られた篭は、逆放物線を描きアイドルの頭へ一直線!
篭はスコーン!と擬音を入れたくなる程綺麗に眉間に命中しました。アイドルは堪らず落ちてしまいました。
「おおっと、朝霞さんの攻撃がクリーンヒットォ!落ちてしまったので、これで終了です」
会場から爆笑が沸き起こります。
「朝霞さん、私の出番を無くさないで下さいよ」
何の出番も無かった私は、口を尖らせて抗議します。
「抗議するのそこ?直撃された俺の心配は?」
アイドルからのツッコミが入りましたが、それは敢えてスルーしました。それによりまた笑いが起こります。
「さあ、次はゲストチームの挑戦です!」
私達と入れ替わり、今週のゲストチームが挑戦します。
この番組は、他の番組から来たゲストチームとアイドルチームが対戦していきます。チームで呼ばれるゲストと別に、アイドルチームの助っ人として呼ばれるゲストが二人いるのです。私達はその助っ人で呼ばれました。
「ここで時間切れです。現時点で、ゲストチームが五十ポイントのリードです!」
ゲストチームの挑戦が終わりました。ゲストチームは落ちなかったのですが、手間取って得点ボタンを全ては押せませんでした。
負けてはいますが、まだ充分に挽回可能な程度です。
二つ目のゲームは、巨大ピンボールから落ちてくる球を背中に背負った篭に入れるゲームです。動くベルトコンベアを走りながら篭にボールを受けるのは、かなり体力が必要となります。
私と朝霞さんは、落ちてくるボールの位置を叫んで知らせる役割を担当します。朝霞さんが普通のボールの番号を言って、私は時々落ちてくる高得点のピンクボールの位置を教えます。
「三番、三番!次は六番!」
朝霞さんの叫び声が響く。その度に笑い声が巻き起こりました。




