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第百十一話 HR戦線異常アリ

 翌日、朝食の席に由紀は居ませんでした。激しい腹痛を訴え、ベッドでうんうんと唸っているのです。


「大丈夫かしら?」


「単に食べすぎただけだから大丈夫よ」


 心配する私に、お母さんが平気な顔で答えます。由紀は昨日のパフェの影響でか、お腹を壊してしまいました。尚も心配する私に、追い討ちするかのようにメールが届きました。


「遊、今日は休むから1人で行ってね。あと、試験の結果を貰ってきてくれると嬉しいわ」


 休む理由は書いませんが、タイミング的に考えてパフェによる食べ過ぎの可能性が濃厚です。


「由紀もお腹を壊して唸ってるわ。あれは流石に食べすぎよ。次からは自重してね。試験の結果は放課後届けるから」


 返信を打て、ため息をつきながら届いたメールの内容をお母さんに伝えます。


「友子もダウンしたみたい。あのパフェはもう禁止ね」


「若気の至りって事で良いんじゃない?でも、一メートルのパフェ位でダウンとは情けないわね」


 一メートルで情けないって、お母さんは何を完食したのでしょう。知りたいですが、藪をつついて蛇を出す事になるのは御免です。


「とりあえず学校に行ってきます」


 逃げ出しました。君子危うきに近寄らずです。私は鞄を掴んで家を飛び出しました。


「おはよう、友子は食べ過ぎでダウンかしら?」


 教室に入るなり、前の席の里美が話しかけてきました。いつも友子と一緒に登校してる私が一人なので、友子は休みと思ったのでしょう。


 でも、何で食べ過ぎだと知っているのかしら?


「おはよう、友子は休みよ。でも、何で食べ過ぎだと思うの?」


「これよ、これ!」


 里美は携帯を某副将軍の印籠のように見せました。携帯の画面には、有名な動画投稿サイト「クスクス動画」が表示されています。


「えっと・・・『驚愕!巨大パフェ完食の瞬間!』」


 再生された動画は間違いなく昨日の友子と由紀のもので、喫茶店にいた誰かが撮影してこのサイトに投稿したようです。


「あの巨大パフェ完食すれば、お腹も壊すわよねぇ。もう一人の子は大丈夫だったの?」


「もう一人は私の妹なのよ。やっぱりお腹壊して唸ってるわ」


 それを聞いて、声をあげて笑い出す里美。


「あ、笑っちゃってごめんね。堪えきれなくて」


「あの二人は自業自得だから、別に構わないわよ」


命に別状があるわけではなし、笑われるような事をした二人が悪いのです。その後、先生が来るまで他愛のない雑談をして時間を潰します。


 先生が到着し、HRが始まります。皆がバタバタと席につきました。


「欠席は食べ過ぎの岡部だけだな」


 一斉に笑いが起きました。友子のお母さんが話したのか動画を見たのかは分かりませんが、先生も友子が休んだ理由を知っていました。


「今日はHRと、テストの返却で終わりの予定だ。他には無し、以上」


 それだけ言って先生は教室から出て行きました。教室はざわめきに包まれます。


「はぁ~、自信無いわぁ」


「大丈夫、私は出来る子!」


 あちこちで祈りのような声が聞こえます。今さら祈ってもどうにもならないのですが、祈らずにはいられないのでしょう。


「テストを持ってきたぞ!」


 しんと静まる教室内。教卓の上に紙の束が積まれます。とうとう審判の時がやって来るのです。


「じゃあ返すぞ、上尾!」


 一人一人名前が呼ばれ、返された生徒は一喜一憂しています。そして私の番が来ました。


「北本遊!」


 呼ばれたので席を立ち、教卓に歩きます。


「北本、流石だな。ついでに岡部の分は北本に渡すんで良いのだな?」


「はい。友子に『持ってきて』と頼まれていますから」


 そう答えて二人分の答案と点数表を受けとり、席に帰ります。その後もテストの返却は続き、つつがなく終了しました。

 安堵の声を洩らす者、神に対して呪詛を呟く者が続出しました。赤点を免れなかった人が予想よりも多そうです。


「先生、補習を免れる方法はありませんか!」


「補習を免れるなら、御奉仕でも何でも・・・と言うか、ヤ・ラ・ナ・イ・カ?」


 教卓に赤点組が詰め寄ります。最後の生徒、男子よね。クラスの女子数人の目が獲物を狙うような目になったなんて、私は見ませんでした。


 うん。私は何も見ていません。


「ちょ、落ち着け!追試を受けて、そこで合格点を取れば・・・こら、脱がすな!アッーーーー!」


 悲痛な悲鳴と共に、教卓の影に消えた先生。安らかにお眠り下さい。非力な私は先生が成仏することを祈る位しか出来ません。


「さて、友子の家に行かなきゃいけないし帰りましょう」


 答案の束と点数表を鞄にしまい、席を立ちます。教卓は見たくないので、後ろの扉から出る事にしましょう。


「あれ・・・放っておいて良いのかしら?」


 微妙に動く教卓を指差す里美。私にはガタガタと動く教卓も見えなければ、叫ぼうとして口を塞がれたようなくぐもった声なんて聞こえていません。


「え、何の事?」


 生徒に「お姉さん紹介しろ!」などと言う変態教師です。方向性が変わるだけで、変態だという事実には変わりがないのですから問題ありません。


「私は関わりたくないわ。里美、助ければ?」


「さ、早く帰りましょ。友子の家に付き合うわ」


 光の早さで鞄を持ち、教室から出ようとする里美。私も後を着いて教室から脱出しました。

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