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第百十話 パフェとの戦い

遅くなりました

「では、ウルトラ・ダイナミック・グレートパフェをご注文のお客様は、通路側にお座り下さい」


 座る位置を指定してウェイトレスさんは去って行きました。それを聞いた友子と由紀は、首を傾げています。


「何で座る位置なんて指定したのかしら?」


 今の座っている配置は、入り口近くの窓際に由紀が座り、隣に私が。由紀の対面に友子が座っています。なので、ウェイトレスさんの指示に従うならば友子は席をずれ、私と由紀は位置を入れ替えなければなりません。


「友子、このテーブルに高さ1メートルのパフェ乗っけたら食べられる?」


「座っては無理ねぇ」


 食べようとするならば、椅子に立って食べなければ食べられません。


「多分、台か何かに載せて通路に置くのだと思うわ。だからパフェを頼んだ二人に通路側に座るよう言ったのよ」


「なるほどね」


「流石お姉ちゃん!」


 しきりに感心する二人。納得したようなので私は由紀と席を替わり、友子は通路側に席をずれました。その頃厨房では、戦いが始まろうとしてのです。



「大変です!ウルトラ・ダイナミック・グレートパフェ二つ入りました!」


 ウェイトレスさんの悲痛な叫び。それを聞いたコックが青ざめて、反射的に聞き返す。


「何だと!あんなもの頼む奴がいるのか!」


 メニューにはあるものの、本当に注文されるとは思っていなかったようだ。


「非常事態だ!総力戦でいくぞ!」


 厨房は戦場と化し、アイスが乱れ飛びフルーツをカットするべく包丁が乱舞した。巨大パフェを二つもアイスが溶ける前に出さなければならない。厨房のコック達は、鬼神と化して調理を続けるのであった。


「お待たせ致しました、ウルトラ・ダイナミック・グレートパフェになります」


 由紀と友子と雑談すること十分程。先程のウェイトレスさんと、コックの格好をした男性が台車に乗せた巨大パフェを押してきました。


 一番下に薄い桃色のアイス、その上にコーンフレークの層。次に色とりどりのアイスが乗り、白桃や洋梨、ドリアン等のフルーツの層が。再び数種類のアイスが乗り、山盛りのクリーム。その上から分厚いチョコレートがかかり、大きなウェハースが3枚刺さっています。


「あ、あれを三十分は無理だろ!」


「冷たくなければいけるけど、アイスだからなぁ」


 周囲のお客さんがざわめきます。私達はすっかり注目されてしまっていました。


「それでは、今から三十分です。用意・・・スタート!」


 コック帽を被った男性がチャレンジ開始を宣言し、同時に食べだす友子と由紀。


「美味しいわ」


「かかってるチョコレートがまたいいわね」


 余裕の表情で食べ進める2人。呑気に話ながらもパフェを掬う手は止まっておらず、かなりのペースでパフェが消えていきます。


「て、店長、これは達成されるのでは?」


「いや、勝負は後半だ。段々ペースは落ちるはずだ」


 チャレンジ開始から十五分後。店長の願いも虚しく、二人のペースは落ちていません。すでにフルーツの層が無くなろうとしています。


 それから更に五分後・・・


「美味しかったわ」


「食べであったわね!」


 巨大な器を空にして、満足そうに微笑む友子と由紀。その横で空となった巨大なパフェの容器を呆然と眺めるウェイトレスさんとコックさんの姿がありました。


「よく食べきったわね」


「美味しかったから、一気に食べちゃったわよ」


「お姉ちゃんもチャレンジすれば?」


 由紀の言葉に蒼白になるコックさん。安心して下さい。私は普通の公爵令嬢・・・ではなく女子高生なので、二人のような底無しの胃袋を持っていません。


「私には無理だわ。サンドウィッチも出ないみたいだし帰るわよ」


 パフェの騒動で忘れられてるみたいですが、私はサンドウィッチとコーヒーを頼んでいました。しかし、未だにサンドウィッチもコーヒーも出てくる気配がありません。


「はっ!し、失礼しました!すぐにお持ちします!」


 我に帰ったウェイトレスさんには悪いけど、もう食べる気は失せてしまいました。二人が食べる光景を見ていただけで胸焼けがしそうです。


「今からでは時間掛かるし、結構です。由紀、友子、出ましょう」


 まだ外は明るいのですが、既に夕方近く。明日は学校だし、そろそろ帰らないといけません。


「遊、結局何も食べてないでしょ?これ食べる?」


 帰りの電車の中、友子がウェストポーチから取り出したのは、長さが五十センチはあろうかという、大きなふ菓子です。


「それはちょっと・・・」


 お腹が減っていない訳ではありませんが、ご飯の替わりにふ菓子を食べようとは思いません。


「それよりそのふ菓子、ポーチから出したわよね?」


 どう見てもポーチの方が小さいのです。物理的に入る筈がないふ菓子が、どこに入っていたのでしょう。


「・・・気にしちゃダメよ」


 そう言いながらポーチにふ菓子を戻す友子。通学カバンといいこのポーチといい、友子のカバンの中はどうなっているのでしょう?


「お姉ちゃん、考えても解らないんだから気にしたら負けよ?」


 何も考えずに受け入れている様子の由紀。それか正解なのかもしれません。この世はまだ、不思議で満ちているのです。


「そうね・・・」


 それが友子だと割りきりました。追及を諦め、雑談を楽しんでいるとすぐに最寄り駅に到着です。友子と別れ、由紀と二人で家に帰りました。


「美味しかったわ、お姉ちゃん、また行こうね」


 楽しそうに言う由紀。でも、私はもうこりごりです。


「私はもう御免だわ。次はお母さんと行ってきて」


 とは言うものの、店長さんのあの様子だと入店拒否されるかもしれません。客寄せになるかもしれませんが、あのパフェがタダという事を考えると・・・


 夕食で由紀はパフェの話を嬉しそうに話しました。次はお母さんと行くって楽しそうに言っていましたが、それは叶うことはありませんでした。


 私達が訪れた一週間後、その喫茶店は店をたたんでしまったのです。


 原因は・・・由紀と友子かしらねぇ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] まさか、あっさりとウルトラ・ダイナミック・グレートパフェを完食するとは。 妹ちゃんと友子ちゃんは大食いアイドルにもなれますね。 [気になる点] なぜ閉店してしまったのか。 今ならSNSで…
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