第十一話 初めての取材依頼
翌日、昨日の疲れからか夢も見ずに熟睡していた私は、携帯の着信音で目が覚めました。眠い目を擦りながら携帯を開くと、桶川社長の文字が。
「おはようございます。どうしたんですか、朝早くから」
「突然だけど、仕事をお願いしたいの。雑誌の取材だから、そう難しい事はないわ」
難しくないと言われても、私はごく普通の女子中学生。両親や妹と違って、取材なんて受けるのは初めてです。
「それって受けないとまずいですか?心の準備が・・・」
「悪なりの宣伝も兼ねているから、受けてほしいのよ。いきなりで悪いとは思うけどお願い!」
自分だけなら拒否するという選択もありますが、作品の宣伝も兼ねていると言われては断る訳にはいきません。
「分かりました。どこに向かえば良いですか?」
「ユウリちゃんの家の前で待ってるわよ。準備が出来たら出てきてね」
ちょっ、そんな所で待たれたら目立つじゃないですか!家族に知られたらどう誤魔化せば良いのよ!
「近くのコンビニの駐車場で待ってて下さい。急いで行きますから!」
返事を待たずに携帯をきり、身支度を整えます。着替えたら髪を軽く梳いて、洗面して財布と携帯をポーチに突っ込み準備は完了。
「遊、朝御飯は?」
「いらないわ。ちょっと出掛けてくる」
リビングから声を掛けてきたお母さんに答えながら玄関へ。靴をはきダッシュでコンビニを目指します。
「ユウリちゃん、こっちこっち。随分早かったわね」
「桶川さん、遊と呼んでください」
この姿の私を芸名で呼ぶのは止めてほしい。自分が有名になるとは思っていないしなりたいとも思わないけど、用心するに越したことはないわ。
走り出した車の中で髪をほぐし、眼鏡を外してユウリになる。お化粧はしていないけど、それは事務所に着いてから。
「遊ちゃんもかわいいけど、ユウリは美人ね」
「お世辞はいいから、前を見て運転してください」
「お世辞じゃないのに・・・」
事務所に到着。桶川さん、ハンドルを握ると人が変わるタイプみたいで、結構スピードを出したので早くに着きました。
「社長、その方は?」
「声優部門の期待の新人よ、覚えておいてね」
声優を続けると断言していないので、期待されても困るのですが。空気を読んで指摘はしませんけどね。
「ユウリです。よろしくお願いします」
「こちらこそ。頑張ってくださいね」
笑顔で挨拶、人付き合いの基本です。少なくとも「悪なり」のアフレコが終わるまではこの会社にお世話になることになりますから。
受付を離れ、エレベーターで最上階へ。社長室に入ると、ソファーに座らされ桶川さんに化粧を施されました。
「今日は声優雑誌の取材よ。アフレコで一緒だった声優さんからあなたの事を聞いたらしいの」
「何を話せば良いのですか?言ってはいけない事柄などあれば、教えてもらえると有難いです」
私自身は取材なんて受けたことはないけれど小説家のお父さんや人気イラストレーターのお母さん、テニスの有名プレイヤーの由紀は何度も取材を受けています。
それを見たりしていたので、取材前に内容の確認をしなければならないと知っています。
「色々聞いてくると思うけど、プライベートに係わる事は話さないようにね。巧く聞き出そうとしてくると思うけど」
それは家族もよく愚痴を溢してました。気を付けないと伏せておきたいプライバシーまで暴こうとしてくるらしいです。
「まぁ、支障が無ければ年齢とか趣味とかは話してあげて」
趣味・・・無いのですけど。その場合、何を話せば良いのでしょうね。こういう場合のマニュアルとかないのでしょうか。そんな益体もない事を考えながら喫茶室へと入ります。
「ああ、忘れてたわ。はいこれ。ユウリちゃんの名刺よ」
桶川さんは私用に作ってくれた名刺と、名刺入れをくれました。いつの間に作ったのでしょう。
記者さんが来るまで、細かい注意点等を聞きます。事務所からのNGは無いようなので、私が知られたくない事を話さなければ良いようです。
20分ほどで記者さんが来ました。二人います。一人は大きなケースを持っていて、カメラマンの方ですね。
さあ、これから人生で初めての取材が始まります。プライバシーがバレないよう、気を付けて臨みましょう。




