第百七話 試験終了
試験もサクサク進み、今日は最終日です。友子は全然試験勉強してないみたいだけど、かなり余裕そう。それを言ったら私もなのですが。
私が試験勉強をしていない理由、それは由紀の襲撃です。中学も高校と同様に試験期間中。部活もないので、帰宅する時間は早くなります。私も試験で早く帰り、珍しく2人揃って家にいることに。
「お姉ちゃん、溜まってるDVD一緒に見よう!」
「由紀も試験期間中でしょ?勉強は?」
「いいの!赤点は絶対回避出来るもん!」
テニスで名を売り学校の名声を高めた由紀は、成績面で優遇されています。そのため余裕のある由紀に連行され、アニメ浸けになることに。
両親は元から成績に関しては煩く言わないので容認しています。時折友子も乱入して三人で観たりしました。
「友子が来たし、私は部屋に戻るわ」
一緒にアニメを見る人が来たのだから、私はお役御免。そう思い逃げにかかります。しかし、そうは問屋が卸しませんでした。
「お姉ちゃんも一緒に見るの!」
「そうよ、遊が見ないでどうするのよ?」
左右両サイドからホールドされて、脱出失敗。強制的に鑑賞会に参加させられました。
アニメを見ながらニヤニヤする友子に、私はげんなりしながらもポーカーフェイスで平常を装いました。
「遊、落ち着かないみたいだけとどうしたの?」
「・・・何でもないわ」
落ち着かないのは当たり前です。見ているアニメのタイトルが「悪役令嬢になんかなりません」なのですから。自分が声をあてているアニメを、妹と親友に挟まれて見る。これはかなり恥ずかしいものです。
そんな地獄をのりきり試験の最終日となりました。全教科の試験が終わった教室には、戦い終わって力尽きた戦士達が屍を晒しています。
「終わったー!」
「これでこの地獄から解放される・・・」
「もう、疲れたよ・・・」
「おいっ、しっかりしろ!『俺、この試験が終わったらあの子に告白するんだ』って言ってたじゃないか!」
ツッコミ所満載な会話があったような気もしますが、それをやれば泥沼に嵌まることが目に見えているのでスルースキルを全開で発動します。
「遊、どこに行くの?打ち上げに一緒に行かない?」
帰り支度を慌ててしていると、友子が数人の女子と一緒に来ました。折角のお誘いですが、今日は用事があるのです。
「私は用事があるから」
今日は歌の練習をすると桶川さんに言われています。試験があけてすぐにレッスンを入れる桶川さんは、中々の鬼畜と言えるでしょう。
でも、少し妙な点があるのが気になります。まず、ユウリの姿で変装して来るようにと言われました。そして、集合場所は事務所近くのカラオケ店でした。
事務所に練習設備があるのに、わざわざとカラオケボックスを指定するのは不自然です。
疑問に思いつつも家に帰り、ユウリとなり変装してからカラオケボックスに向かいました。
大きめの帽子を被って、髪を上着の中に隠します。サングラスをかければ変装完了。お手軽ですが、これで結構バレないものなのです。
カラオケボックスに行くと、入り口で桶川さんが待っていてくれました。
「こっちこっち!」
美人が手を上げて大きく振っているので、周囲を歩いている人が何事かと注目しています。それに釣られて私まで注目を集めてしまっています。
「ちょっ、桶川さん!」
目立つのは色々意味でまずいので、背中を押して店の中へ入りました。
「もう部屋はとってあるわ。こっちよ」
桶川さんに先導され、着いた部屋はパーティールームでした歌の練習するのに、そんな広い部屋必要ありません。ここしか開いていなかったのでしょうか。
扉を開けて中へ入ります。中は真っ暗だったので、身構えて危機に備えます。
「「「ユウリちゃん、試験お疲れ様でした!」」」
明かりがつき、クラッカーが鳴り響きました。室内には十人以上の人がいて、たった今鳴らされたクラッカーを手に持っています。
中には見知った顔が揃っていました。蓮田さんをはじめとする声優のみんな、スタジオのスタッフの人たち。沢山の人が笑顔で私を迎えてくれました。
「今日はユウリちゃんの試験慰労会よ!騒ぐわよ!」
「「「おお~っ!」」」
桶川さんの音頭でどんちゃん騒ぎが始まりました。皆飲みながら騒ぎ、次々と歌を入れて歌い出します。流石は声が売りの声優さんたち。見事な歌声に宴会は盛り上がります。
これ、友子に話したら羨ましがるでしょうね。有名な声優さんが次々と持ち歌を歌っているのですから。
声優陣が一周し、スタッフの人たちが歌い出します。私は歌っていません。唯一の持ち歌はまだカラオケに入ってないので。
桶川さんが歌っていますが、聞いた事無い歌です。歌い終わった桶川さんが席に戻ると、となりの蓮田さんが話しかけました。
「消えたプリン○スとは懐かしい歌ね」
「でしょ、結構好きな曲なのよ。」
友子や由紀が好きそうな曲のようです。そんなこんなで、宴会は夜がふけるまで行われました。
後日、友子が血の涙を流しながら悔しがりました。何故連れていってくれなかったと責められましたが、声優のユウリが友子を連れて行ける筈がありません。
ともあれ、後は終業式が終われば夏休みです。去年のように穏やかに過ごせれば良いのですが・・・




