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第百五話 四面楚歌?

 少々時間は進み、夏休みは目前に迫りました。声優業にも馴れてきて、アニメもラジオも好調です。司会も好評で、桶川さん曰く、順調にファンを増やしているとのこと。


 学校では変わった事が一つありました。購買が独立した建物に移り、広くなったのです。

 高校の購買なのに、売り物の八割が声優関連・・・と言うより、私のグッズというのには呆れて開いた口が閉まりませんでした。

 一回だけ行ってみましたが、居たたまれなくなってすぐに逃げ出す羽目になりました。もう二度と行くことはないでしょう。

 まさか私がコスプレしてるポスターやブロマイドが飛ぶように売れていく光景を目にするとは、夢にも思いませんでした。


「遊、何を呆けてるの?」


「何でもないわよ」


 あまり思い出したくない出来事を思い出していたうちに、友子が私の前に立っていました。適当に答えると周りの修羅場を眺めました。


「誰か、英語のノート貸して!」


「数学!数学教えて!」


「古文の教師に呪いを掛けてくれる奴はいないかぁ!」


「どうせなら、先生全員にかけてくれぇ~!」


 期末試験を何とか乗りきろうと奮戦する修羅の群れ。何だか変な人もいるようですが、とりあえずスルーします。


「中間の時は大して騒いでなかったわよね」


 中間試験の時は、騒いでいる人は殆どいませんでした。オタクだらけでもさすがは進学校だと感心したものでしたが、期末のこの騒ぎは何が原因なのでしょう。


「今回は、絶対に赤点はとれないからよ」


 そんな理由も判らないの?と言いたげな友子が、呆れながら教えてくれました。


「赤点で補習になったら、夏コミに行けないじゃない。今夏だけは絶対に行かないと!」


 友子もかなり入れ込んでいるようです。毎年行ってるのに、今回これだけ拘っているのは何故でしょう?


「遊、あなた、夏コミで何をやるか忘れたの?」


 何をやるかと言われても、私は友子や由紀ではありません。それ以前に、コミケに参加するつもりが・・・ありました。


「公録と曲の発表をする予定ね」


 ラジオの公録と、私の曲の発表をやるのを忘れていました。でもそれは私の予定であって、彼らには関係ない筈です。


「そんなビッグイベント、見逃せる訳ないでしょ?だから皆必死なのよ」


 楽しみにしてくれるのは嬉しいのですが、そこまで必死にならなくてもと思ってしまいます。


「ユウリちゃんを生で見るチャンスよ?」


「逃せるはずないだろ?」


 近くにいた生徒が食いついてきました。目が血走っているので恐怖を覚えます。


「脳力試験の見学に当たらない限り、生でユウリちゃんを見れないもんね」


 教室内の皆が、一様に頷きました。毎日のように会っているのですが、彼らが気付く事はないでしょう。


「友子、用事あるから帰らない?」

 

 やけにニヤニヤしている友子に声をかけ、鞄を持って教室を出ていきます。


「あ、ちょっと待って!じゃ、また明日ね」


 友子が慌てて追いかけてきました。


「遊、いきなりどうしたのよ?今日は用事なんて・・・」


「友子、貴女ばらしたら面白いなんて考えてなかった?」


 ジト目で追及すると、テレビドラマの犯人よろしくうろたえる友子。


「そ、そんなことないわよ。何を言ってるのよ」


 冷や汗を流して、目が泳ぎまくっている。分かりやすい事この上ありません。


「もしバラしたら・・・貴女の宝物を由紀に回収させるわよ」


 友子の宝物が何かは知りませんが、由紀と共通するような物に決まっています。


「お願い!あの生写真だけは手を出さないで!ユウリちゃんお昼寝生写真だけはっ!」


 ・・・予想通りと言うべきか、予想外と言うべきか。とりあえず、桶川さんとOHANASHIしなければならないという事は確定しました。


「何度も言うようだけど友子、いつも会ってるのに何でグッズに固執するの?」


「それがファンというものなのよ」


 ニヒルに笑みを浮かべて答える友子。表情はシリアスでも、会話の内容が内容なのでギャグにしか見えません。

 その後、友子による声優ファンの心構えや行動原理のレクチャーを聞き流しながら帰宅しました。別れる寸前まで聞かされた内容は、完全記憶により頭の片隅に放置されています。誰か忘れる手段を開発してください。


 その日の夕食の席で学校での出来事を話すと、由紀の目の色が変わりました。


「お姉ちゃんの学校って、見学とか出来ないかなぁ。一部だけでもいいの。例えば、購買とか購買とか購買とか・・・」


 暴走寸前、というより、既に暴走しかかっている由紀をお母さんがたしなめます。


「無茶を言うものじゃありません。グッズだったら他の場所でも買えるでしょ?」


 由紀は渋々諦めるとお風呂に入りに行きました。両親は笑っていますが、私には笑い事ではありません。


「しかし凄いな、抱き枕まで出てるとは」


「たしなめておいてなんだけど、1度私も見てみたいわねぇ」


 由紀にはああ言っていましたが、お父さんもお母さんも興味津々なようです。冗談ではありません。


「お父さん、お母さん、買ってきたりしないでね?」


 家でも私のグッズを見るなんて、あまり想像したくありません。私の心の平穏の為に、断固阻止しなければ。


「無駄だと思うぞ?」


「どうせ由紀が買ってくるに決まってるもの」


 それを言われると諦めるしかありません。買ってくるなと言おうにも、その理由を言うことが出来ないのです。


「はぁ・・・勉強してるわ」


 白旗をあげた私は、自分の部屋に逃げました。この件に関しては、私の味方は居ないようです。

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