表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
100/444

第百話 待ったなし

遅くなりました

「選曲はとにかく、歌は上手いわね。習った事があるの?」


「ええ。少しですが」


 普通のボイストレーニングの他に、浪曲や詩吟もやっていました。でも、正直に言うつもりはないので濁します。


「そう。それならしごいても大丈夫ね。覚悟は良い?」


にっこりと微笑む宮原さん。背後に燃え盛る炎が見える気がして、付き合いきれないと判断。断る事にしました。


「すいません、覚悟出来てません」


「じゃあ、特訓開始よ!」


 私の返事は無視されて、首根っこを掴まれ部屋の奥へと連行されました。それならば聞かなくてもと反論するところですが、それをやると特訓の内容が更に過密になりそうなので黙ります。

 桶川さんはというと、白いハンカチを振って笑顔で見送ってくれました。


 その後、深夜まで歌の猛特訓が続きました。歌手ではなく声優なのに、ここまでしなくてはいけないものでしょうか。

 途中声が涸れてきても、宮原さんの特製ドリンクで治るので止まりません。

 喉が痛む心配が無くなったのは嬉しいのですが、特訓から解放された時には精根尽き果てていました。


「ユウリちゃん、お疲れ様。明日の・・・いえ、今日の録音頑張ってね」


 少しも消耗した素振りを見せない宮原さん。・・・ちょっと待って、今日の録音?


「録音するの、今日なんですか?」


「え、ええ。スケジュールの都合で押していて・・・」


 強ばった笑顔で答える宮原さん。九割以上の確率で嘘です。昨日一般人のはずのクラスメートが情報を入手していたのですから、所属事務所には早くから話が来てたはずです。

 そして、宮原さんの声が若干変化し、発汗の増大。心拍数と呼吸数のわずかな増大という現象を合わせれば嘘だと自信をもって言う事が出来ます。


「・・・それなら仕方ないですね」


 納得したふりをして、ドリンクを手に取ります。安堵したのか、一瞬気を抜いて溜め息をついた宮原さんに奇襲をかけました。


「・・・で、本当は?」


「社長がド忘れしてて・・・って、ああっ!言っちゃったわ!」


 顔の上半分にタテ線の効果が入りそうなくらい落ち込む宮原さん。いとも簡単に陥落してくれました。


「桶川さん、またですか。何か罰を考えた方が良いかしらね」


「ユ、ユウリちゃん、落ち着いてね!」


 怯えた様子の宮原さん。私はただ微笑んでいるだけで、怖いことなどないはずなのですが。


「今日の録音は何時からですか?少し寝たいのですが」


 徹夜ですぐ収録では、良い歌は録れないと思います。少し休む必要があります。


「昼からの予定よ、この下の仮眠室で寝ると良いわ。ご家族と学校には今日休むことは伝えてあるはずよ」


 手回しが完璧に為されています。それで何故本人への連絡が遅れたのか不思議です。これは意図的に連絡しなかったとしか思えません。


「それでは一休みしてきます。お休みなさい」


 教えてもらった部屋に行くと、入り口のプレートに私の名前が張ってありました。中はビジネスホテルの一人部屋位の広さで、ベッドと小さな机があります。

 ユニットバスまでも完備してあり、普通に宿泊できそうです。

 ベッドには、新品のパジャマまで置いてあった。これは使って良いのでしょう。


 軽くシャワーを浴びてパジャマに着替え、ベッドにダイブします。色々疲れていたので、すぐに熟睡してしまいました。


「ユウリちゃん、ユウリちゃん!」


 ユサユサと体を揺さぶられ、意識が戻ります。まだ眠いので、眠ったふりをすることにしましょう。


「ユウリちゃん、録音に行くわよ!」


 止まらない振動に薄く目を開けると、桶川さんが私を揺すっていました。


「う~ん、録音今日なんて聞いてないわ。美人で有能な桶川さんが伝え忘れるなんてありえないから、今日のわけないわ」


 桶川さんに背中をむけ、布団を頭から被ります。このまま眠りたいのが半分、少し意趣返ししたいのが半分です。


「美人だなんて、そんな本当の事を・・・じゃなくて、起きて!時間がなくなるわ!」


 本当に遅刻したらシャレにならないので、仕方なく起きる事にします。遅刻したら録音のスタッフさんに迷惑をかけてしまいますからね。


「おはようございます」


「おはよう、と言ってももう昼だけど。早く準備をお願いね」


 私は頷くと、素早く準備を始めます。桶川さんが持ってきてくれた着替えに着替え、寝る前に落としたユウリのメイクを施します。髪をすいて、最後に軽く変装したら準備完了です。


 エレベーターで1階に降りて車に・・・と思ったら、歩いて最寄り駅へ。


「今日は電車なんですね」


「電車の方が確実だから。ちょっと時間がギリギリなのよ、ごめんなさいね」


 私は電車移動なんていつもの事ですし、不便は感じないので構いません。言われてみれば、平日昼間の都心部で車で移動するなんて渋滞に巻き込まれに行くような物です。

 首都高速だって万年渋滞で、高速道路ではなく低速道路に改名するべきではないかと思ってしまいます。


 電車は座れる程空いてないけど、混んでいるという程ではありませんでした。


「何だか、居心地悪いわ」


 乗り合わせた人が、チラチラとこちらを見ています。見ながら連れと何事かをヒソヒソと話す人もいて、気になって仕方ありません。


「ユウリちゃん、変装しても目立つから仕方ないわよ」


 桶川さんが耳元で囁きます。確かに私は注目されていますが、「現役声優」で「クイズ番組の司会者」という肩書きの力が大きいと思います。

 実際、学校では私に気づく人は居ないのですから。そんな事を考えているうちに、目的の駅に到着しました。

発熱がぶり返し、昨日は更新出来ませんでした。調子の良いときに少しづつ作業していますが、完治するまで更新は不定期になるかもしれません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ