第一話 ウルファネア戦隊ロザリンジャー
「みなさーん、こんにちはー!」
「「「「こんにちはー」」」」
「今日はウルファネア戦隊ロザリンジャーの舞台にようこそ!」
舞台上のお姉さんの問い掛けに、元気な声が答えます。それを見た私は、頬がひきつるのを止める事が出来ません。
ここは東京某所に作られた屋外ステージ。このやり取りだけを聞いていると、昔から手を変え品を変え行われてきた戦隊ヒーローショーのように思えます。
だけれども一つだけ違うのは、お姉さんに答えたのがショーを見に来たちびっ子ではないということ。観客席を埋めるのは、殆んどがちびっ子とは言えないお兄さん達。
そこに多種多様な魔物が乱入。勿論本物ではなく、バイトさんが中に入った着ぐるみです。
「きゃあ、魔物の氾濫よ。みんな、早くロザリンジャーを呼んで!」
ステージで魔物に囲まれたお姉さんのお願いに応え、観客席のお兄さん方が声を揃えて叫びました。
「にーっくにっくにっく!」
「ロッザリンドォォォ!」
「筋肉にっくにっく!」
「ロッザリンドォォォ!」
それに呼応して、いかにもなスーツに身を固めた五人の人影が現れた。彼らはあっという間に魔物達を倒してしまいます。
「今更だけど、乙女ゲームを題材にした小説のイベントとは思えないわね」
「これだけ見たら、それを信じる人は一人も居ないと思うわよ。意外すぎるわ」
乙女ゲームを題材にした小説は数あれど、ヒーロー戦隊が出てくる物語はこれだけでしょうね。
「それを言ったら、私ならまだしも遊がこんな所でこんな格好をしているのも意外よ」
「本当よね。どこをどう間違えてこうなったのやら」
苦笑いする親友兼マネージャーに、ため息混じりで同意します。まさかお姫様のようなドレスを着て、アニメ化した小説のステージに立つ日が来るとは夢にも思わなかったわ。
「大変よ、ロザリンジャーがピンチだわ。ロザリンド指令を呼びましょう」
ステージ上では、ロザリンジャーが魔物に押されてピンチになっています。再び沸き起こるロッザリンドォォォのコール。
「ほら、遊の出番よ」
「はいはい。でもこれ、声優の仕事じゃないような………」
私の記憶では、声優はアニメやゲームに声をあてる人だったような気がするわ。
「今時の声優は、マルチタレントのようなものよ。歌って踊って悪人を倒せないと一流とは言えないわ」
「悪人を倒す声優はいないと思う………行ってくるわ。魔物を倒したら肉祭りよー!」
叫びながらステージに出ます。この業界に入る切っ掛けはこの小説だったわね。これも何かの因果かしら。
明。様公認です。
祝・書籍化