調理工程。
ガチャリ。
家の鍵を開け、忍び足になりながら男は自宅の中を進む。目指すは台所。
幸いと言うか、やはりと言うか、日付け変更間近の時間。家族は寝静まっている。
作戦実行の最大の難所だった妻が眠りについているならば、後は実行あるのみだ。
購入したのはカボチャ、翼をさずける闘牛、マーマレードジャム。
男が仕事中にした脳内シュミレートの結果、薬くささを打開する策は幾つかあった。
1.生姜を一緒に煮込み、匂い消しに使う。
2.完成品にシナモンパウダーをふりかけて誤魔化す。
3.薬くささの原因は主にエナドリ中のビタミンB2,B6,B12辺りに有ると仮定して、ビタミンB群と相性の良いニンニクを少量混ぜ、煮込む。
その際、ニンニクだけでは流石にアレなので豚ひき肉を加え、酒、醤油等で味を調える。
いわゆる「カボチャのそぼろ煮」にしてしまう。
4.「薬くささと酸味」を感じるかもしれないなら、あえて取りに行く。レモンやオレンジを加えてレモン煮、オレンジ煮の風味を纏わせる。一緒にリンゴやレーズン、ワインを加えるのも良いだろう。マーマレードジャムを買ったのはこの路線で攻める時の為だ。
さて…どうしたものか。
ここは基本に立ち返って、シンプルに攻めよう。
カボチャとエナドリだ‼︎
面倒くさくなったわけではない。
………ないってばさ。
そうこう自分に言い聞かせながら男は手を動かす。
カボチャを軽く洗い、ヘタを取って半分に割り、さらに半分に割る。
4分の1を残して他は冷蔵庫にしまう。
割ったカボチャの種とワタをスプーンで取り除き、食べやすい大きさに切り分ける。
切り分けたそれぞれの面取りをする。
この作業が恐らく今回の料理の肝になる。
煮込む以上、煮崩れる事もあるだろう。それを防ぐ為の面取りだ。
面取りが分からない奴は「煮物、面取り」でググれ。
面取りを済ませたカボチャを皮を下にして手鍋に入れて、カシュッと封を開けたエナドリをダバダバ注ぎ入れる。
いつも飲んでいるエナドリの中に生のカボチャが浮かんでいる。
中々にシュールな画だ。
後はフタをして強火の中火でコトコト煮込むだけとなる。点火‼︎
約1分経過。
急激に上がった液温に耐えられずに、二酸化炭素の飽和溶解点を迎えて鍋の中は激しく沸騰を始めている。既に煮込んでいる感がパネぇ。ついでに言うと、ブル臭も凄いしてる。
約10分経過。
液量が5-6割減少。まだ煮込む。
約15分経過。
液量が2.3割になる。同時に照りが出て来た。エナドリ中の糖分の効果だ。皮面は良いが実の部分の火の通りが心配なので、ひっくり返す。そろそろ焦げ付きが心配なので、弱火にする。
17-8分経過
クツクツと煮汁が飴状になってきた。鍋を振るいながらカボチャに絡めてゆく。ほぼ水分が飛んだところで火を消して皿に盛りつけた。
完成品
心配していた煮崩れも面取りのおかげで見られず、きれいな照りすら纏っている。
美味そうに出来た。
大成功だ。
見た目だけは。
アレ?実食にたどり着かんなあ?
次こそ