第1章[プロローグ]
どこだろう。暗くて、静かで、寒い、まるで地球の端にでも来たんじゃないかと思ったんだ。
もっとわかりやすい例えにすると、冬の洞窟の中に入った時と似ていた。もしかしたら、電車に乗ってすぐ来れる鍾乳洞に何らかの理由で来てしまったのかと思った。
でも、そんな事をした覚えがない。まだ17歳の僕には酒を飲んで酔っ払ったという選択も無い。
両親は酒を飲まないし、自分自身も飲んでみたいとは思った事が無かった。だからすぐに、他の可能性を考えた。
夢の中にいる。
誘拐された。
催眠術をかけられた。
VRゲームの中に入っている。
幻覚を見ている。
それか・・・異世界に来てしまった。
これぐらいしか、この状況を説明できる事は無いと思いながらも僕は平凡的な脳みそをフル回転させた。
一向に普通に高校生を送っていたはずの僕になぜこんな非現実的な事が起こっているのかは説明がつけられなかった。
ずっと考えているだけでは何も分からないと思い、ゆっくりと立ち上がった。天井は意外と高いらしく手を上げてもぶつからなかった。
ひとまず洞窟の中だろうが、夢だろうがわからないが出口を探してみようとした。前と後ろ、どっちに進めばいいのか分からなかった僕はそのまま進んでみることにした。
もしも何も無かったら戻ってまた考えるしかない。見慣れたスニーカーを履いた足を前に踏み出し歩き始めた。
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どれくらい歩いただろうか、時計もスマホも今は持っていないため時間も何もわからなかった。
そして、こっちであっていなかったんじゃないか、そもそもここに出口がなかったのかもしれない、そんな思考が頭をぐるぐるし始めた。
このままいる場所も分からないまま死ぬのかとも考えも出てきた。
夢だったらいいのに、でも、寝た記憶は無い。
いつも通り図書館に勉強をしに行き、閉館の時間になったから帰ろうとしたら[ここ]にいた。不思議すぎる。
そんな事を考えている時のことだった。前からだ、間違えなく、前から一瞬の光とともに聞こえたんだ。女の子の怒鳴る様な大声が。
一瞬の光とともに聞こえた女の子の怒鳴り声は、僕の希望そのものだった。普通だったら危機なのだろう。
そして、あの声の持ち主は誰なのか、光は何によってあらわれたのか、そんな事よりどうしてこの状況になっているのか知りたくて仕方が無かった。
だから走った。今までこんなに焦った事は無いかもしれない。
あの声の持ち主がどこか遠くに言ってしまう前に、会って聞きたいことが沢山あるんだ。
--なぜ僕がこの状況になっているのか、彼女なら知っている。--
そんな文章が頭を急によぎった。ようするに直感だった。
なぜだかわからない、だけどひたすらに走った。出口と真実がわかると信じて。
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さっきの場所から100m程だろうか、走った先には扉のようなものがあった。
---やっと分かる。僕は冷や汗のこびりついた手を扉に押し当てた。
開かない。どうして、何で、開かないんだ?
様々な恐怖で頭の中は埋めらていった。
力が足りなかっただけかもしれないことを信じ、身体全体を押し当てるようにしてもう一度開けようとした。
全身の力を絞り出しても開かなかった。息切れのしている呼吸で辛くても大声で叫んだ。
「誰かいないか?!ここを開けて!!!」
返事が無かった。希望がなくなった僕はその場にへたれこんでしまった。これからどうすればいいのだろう、あの声と光は妄想だったのかだろうか。
「助けて…」
よく覚えてないがそんな言葉を僕は口に出していたらしい。
「あ、あの…」
そのすぐ後に、あの時聞こえた声とは対照的な弱々しい女の子の声が扉の向こうから聞こえた。
扉の向こうから聞こえた声に驚いた。間違いなく[そこ]に人がいる。焦りと嬉しさのあまりだろうか、僕は目から涙がこぼれ落ちた。泣いたことは覚えているところで幼稚園以来かもしれない。
向こうにいる女の子に泣いてるなんて知られたくなかった。
もちろん、相手が誰だかなんて分からないから関係ないと思う人もいると思うが、男のプライドってやつだと思う。
--ふぅ。
心を落ち着かせ冷静に僕は言った。
「僕は知らないうちに[ここ]にいたんだ。助けて欲しい。」
扉の向こうからは僕に対する恐れによるものだろうか、震えた声が聞こえた。
「あ、貴方は危ない人じゃないです…よね?」
それを聞いてとっさに口から出たのは
「そんなわけない!!気づいたらここに!僕にもよく分からないんだ!!」という言葉だった。今思うと危ないというか怪しい人だったかもしれない。
彼女は僕が伝えたいことを汲み取ってくれただろうか。
「分かりました。 あの…!----ごめんなさい。」
え、なぜ謝るのだろう、見捨てるのか、ただ通り過ぎただけか聞こうと思ったが、それに対する返答が怖くて言葉を呑み込んだ。
一瞬の沈黙の後に彼女は言った。
「ちょっと離れてください。」
別人の声のように聞こえた。まるで神経を研ぎ澄まし集中でもしていたのだろうかと感じた。
僕は言われたとおりに扉から離れようとした時---
空気が振動する程の何かが弾き割れる衝撃と共に爆発音が響き渡った。
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左腕に爆発で何かの欠けた破片と思われる物が当たった。少し尖った冷たいものだった。切り傷より間近でテロ攻撃されたような衝撃波の痛みには比べ物にならなかった。
勿論、立ってなどいられずに尻餅をついていた。床、というか地面に手をつくとヌルッとした水のようなものに触れた。
…ん?
掌を確認するとその液体は真っ赤な血だった。今の衝撃で大怪我をした人がいるのかもしれないと思い立ち上がろうとした。
だが、右足が上がらない。
さっきから何かが乗っているような感覚がしたが、気にも止めていなかった。
何があるのか確認すると、金属の分厚い板のようなものが足をえぐっていた。
骨折どころじゃない。この血は扉が僕の足に刺さった傷口から流れていたんだ。
「う、うわぁぁぁぁあ!!」
こんな量の血はサスペンスドラマやホラー映画でくらいしか見たことがなかった僕は驚きで叫んでしまっていた。
背後から今までの声の持ち主と思われる人の影が地面に写っていた。
「落ち着いてください、傷を見せてもらえますか…?」
左腕を抑えながら振り返ると、ローブを着た美少女がたっていた。
彼女は鞄、いや鞄と呼ぶには小さすぎるか。ポシェットの様なものを肩にかけている。そこから透明に透き通っていて結晶石といかにも呼びそうなものを使い僕の傷を直してくれているようだった。
「治せるのか?ありがとう、助かるよ。」
この魔法のようなものを目の当たりにしてお礼を言ってる間にも深い傷が少しずつ治っていく。出血多量で死ぬレベルの傷だったはずだが少し深めの切り傷程度にはなっていた。
そして、僅かだがその時間の経過する間で僕は彼女の容姿を見てここが地球ではないことを示されている事に気づいた。
僕の住んでいた地球では画面上の世界でしか見たことが無いような姿をしていたんだ。
彼女は毛先が淡く青みがかった白髪で、透き通るような白肌、輝く金色の眼をしていた。容姿端麗すぎるないか!と言いたいくらいの目鼻立ちだ。
それだけなら外国人なのでは?と思う人もいると思う。
ぱっと見ただけでも、米人でも露人でも無いとすぐに分かる。
--彼女は…エルフの耳をしていたんだ。
それは作り物ではないらしく、たまにピクピク動いているから本物だろう。偽物だったらクオリティが高過ぎる。架空上にしかいないと思ってた。
けど目の前にいるから、信じるしか無い。
一番有り得ない無いと思っていた。
現実に飽きて、少し期待をしていた自分もいた。
-----もしかして、[異世界]来てしまった…!?
次話もよろしくお願い致します!