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忘却の魔法使い  作者: 祥雲翠
第一部
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5.伊勢崎紘一 ⑤

 朝永保が伊勢崎にちょっかいを掛け始めた時期が何故中学一年生のときだったかと言えば、単純な話で出会ったのが中学に上がったときだったからだ。

 それまでも噂では知っていたらしいが、中学で初めて同じ学校になって実物を知り、そしてその頃はちょうど表立って伊勢崎をいじめる生徒がいなかったことで、自然と彼がそのポジションに収まったといった感じだろうか。


 始めは些細な嫌がらせだった。

 口に出すのも馬鹿馬鹿しいような典型的ないじめの初期段階。物的被害や揶揄による精神的被害のほうが大きかったような、そんなことの繰り返し。

 そして、それはすぐにエスカレートしていった。

 両者の間にある絶対的な立場の差、いじめを後押しする環境――それらが朝永たちを調子づかせ、直接的な暴力へと移行するのに時間は掛からなかった。そうして行き着いた先が、先程桃依が語った出来事だ。それまでは何だかんだで誰の目にも明らかな事態になることは無かったので(魔法の才能に劣る者への迫害が黙認されている世相とはいえ、あくまで“黙”認なので、大事になり過ぎるのは避けられているのだ)、やらかしたのが朝霧の分家の人間ということもあり、さすがに大人たちは慌てたらしいが、だからこそ(表面上は)揉み消され、それが更に朝永たちを増長させる結果となった。



 そして、あの日が訪れた。



 放課後の教室。その前方の、周辺の机を脇に避けて作った空間で、片腕が不自由なこともあってまんまと捕まってしまった伊勢崎は、朝永を中心としたグループの少年たちに、いつものように――いや、いつものような直接的な暴力から始まって、その後、魔法による暴行を受けていた。

 発火の魔法で火傷を負わされ、水を操る魔法で作ったナイフで切り付けられ、風の魔法で床に叩き付けられ……その他もいろいろ、小学生の間に習うような簡単な魔法で、使い方次第では相手を傷つけられるものを、彼らは面白がって試していた。

 いくら簡単な魔法とはいえ、一歩間違えれば再び大事になってしまいかねないそれを彼らが安易に使っていたのは、自分たちなら(とが)められないという自信もあっただろうが、同時に、彼らの中に治癒魔法を使えるようになった者がいたのも大きかっただろう。実際、「さすがにここまでやったらまずいか?」「大丈夫だって。××が治癒魔法で治せばいいだけだし」「それもそうか。この前もそうしておけば良かったよな」なんてことを笑って話しながら、楽しそうに伊勢崎を実験台にしていた。又、耐え切れずに悲鳴を上げても、「ンなことしても無駄だよ。この教室には防音の魔法を掛けたから」「ついでにドアも封鎖済み~」「それが無くても、先生たちは職員会議中だから助けになんか来ないけどな」「そもそも、助ける奴なんているの?」なんてことを言い合いながら、下品な声で嗤っていた。

 そんな閉鎖空間での宴が彼らの嗜虐(しぎゃく)心を加速させたのか、一通り魔法を試した彼らは、更にとんでもないことを思いついた。魔法の可能性についての実験、なんておぞましい話題で盛り上がっていた彼らは、身体の中――口内や内臓などに直接魔法を掛けたらどうなるか、それでも治すことが出来るのか、なんてことを言い出したのだ。それには、目には見えない場所なら多少(あと)が残ってもバレないだろう、という打算もあったかもしれない。その後試す場所を話し合った結果、何故か真っ先に決まった箇所が眼球だったのは全く理解出来ないところだったが、何にしても、やられる伊勢崎にとってはたまったものではない。

 しかし、だからとって逃げ出すことは出来なかった。既に満身創痍、というのもあったが、その上、朝永グループの中でも特に体格の良い二人が伊勢崎を床に押さえつけていたからだ。自分たちがどれだけ恐ろしいことをしようとしているのか理解もせずに嗤いながら近づいてくる彼らを、為すすべなく見つめていることしか伊勢崎には出来なかった。


 パタンッ、と場違いな音がその場に響いたのは、一番手の権利を獲得した少年の発現させた炎の刃が、あと数センチのところまで迫ったときだった。

 音の主は、現在と同じように近くで傍観者を決め込んでいた穂高だった。(当時は百パーセント、プライドの問題から)手を出さないで欲しいという伊勢崎の懇願(こんがん)に従い、その場にはいても我関せずとばかりに本を読んでいた彼が、音を立ててその本を閉じたのだ。


「……何だよ、出水。まさか、今更止めるつもりなのか?」


 代表して揶揄するように問いかけたのは、朝永だ。その声に、取り巻きたちが同調する。ここまで放っておいたのに今更正義(づら)するのかと、侮蔑の言葉を投げつける。


「いや、ちょっとおまえらに聞きたいことが出来ただけだ。前から気になってはいたんだが、まあ、良い機会だろ」


 対する幼馴染は、平然とそう答えた。その表情にも声にも怒りの感情は窺えず、朝永たちは困惑したように顔を見合わせる。

 そんな彼らにはお構いなしに、穂高は本をそれまで座っていた席に置いて立ち上がると、伊勢崎たちのほうへ何の気負いも無い様子で歩きながら、


「殴られたら痛いってことは、小さな子供でも知っていることだと思うんだが、その上でそれを人にやるっていうのは、どういうアレなんだ?」


 そう問いかけた。その声にはやはり何の感情も窺えず、本当にちょっとした疑問を尋ねているといった様子だった。


「何だよ、やっぱり文句かよ?」

「いや、単純に疑問なんだよ。先生なんかは、自分がされて嫌なことは人にもしてはいけません、とか言うくらいだし、だったら痛いことっていうのは、その分かりやすい例だと思うんだ。それなのに、昔からいろんな奴が、普通に考えれば自分がされて嫌なことを僕やこーちゃんにしてくるのはどうしてなんだろうな、って」


 やはりその顔に怒りはなく、大真面目に疑問をぶつけているようにしか見えない。だからだろうか。朝永たちは数秒顔を見合わせた後、声を立てて笑い出した。


「ははっ、そりゃおまえ、こいつが魔法の使えない無能者だからだろうが」

「それじゃあ理由が不十分だ。僕は魔法が使えるし、魔法が使えないことを重視するなら、犬猫のような動物だって良いってことになる」

「おいおい、犬や猫にやったら動物虐待だろうが。こいつだから良いんだよ」

「虐待という言葉を使うなら人間だって同じだろう」

「いや、人間だからだよ」


 取り巻きの一人がにやりと笑う。


「人間相手だからこそ、適切な加減ってものが分かる。やり過ぎて殺しちまったらヤバいからな。おまえには酷く見えるかもしれないが、そのくらいの手加減はちゃんとしているさ。それに、後でちゃんと治してやるから大丈夫だよ」

「ふむ……つまり、後でちゃんと魔法で治すから、その範囲なら他人を傷つけることはやっても良いことだ、というのがおまえらの見解というわけだ」

「そうそう。そーゆーこと。オレらみたいな優秀な人間は、ちゃんとそのくらいの責任は取れるから、良いんだよ」

「……なるほど。そういうことなら、納得した」


 いや、納得するなよ!と伊勢崎は心の中でつっこんだ。どう考えても理屈がおかしい。しかも魔法云々は今回初めて登場した話だ。しかし、幼馴染はあっさり引き下がり、朝永たちは愉快そうに嗤っている。

 ――その光景に、伊勢崎は不意に悪寒を覚えた。


 直後に起こったことは、あまりにも自然に行われた。

 だから、誰も事が起こるまで気づかなかった。……いや、起こってからでさえ、すぐには何が起こったのか理解出来なかった。

 会話を終えた流れのまま、手近にあったイスを両手でひょいと持ち上げた穂高が、一番近くにいた取り巻きの一人をそれで殴りつけていた。

 殴られた生徒がくぐもった悲鳴を上げて床に倒れ込む。それを目の当たりにしながら、しかし穂高以外の誰一人、何が起こったのか咄嗟(とっさ)に理解出来なかった。恐ろしいくらいの静寂が放課後の教室を支配する。そしてその数秒の間に、穂高は一人目を殴りつけた勢いのままイスを振り回し、別の一人にぶん投げていた。呆気に取られていたそいつに避ける余裕があるわけもなく、そいつは顔面にイスを食らって仰向けにひっくり返った。


「…………な、何しやがる、てめぇ……!」


 そこでようやく我に返ったのか、伊勢崎を押さえつけていた一人が怒りのままにその手を離すと、怒鳴り声を上げながら穂高に殴りかかった。しかし、穂高はあっさりとその拳を避けると、体勢を崩した相手の足を払って転ばせ、その後頭部を勢いよく踏みつけた。その足下から潰れたカエルのような悲鳴が聞こえてくる。足をどけられると、そいつは顔面を押さえて悶絶した。その指の隙間からは血が零れ落ちる。そんな光景に一瞬怯んだものの、伊勢崎を押さえつけていたもう一人が叫びながらやはり殴りかかったが、するりと(かわ)され、避けた先にあった教卓の上に飾られていた花瓶で殴り返され、そいつも床に沈むことになった。

 押さえつけていた二人がいなくなったので自由の身になったはずだが、伊勢崎はその一連の出来事をただ呆然と眺めていることしか出来なかった。それは、せいぜい一分程度の間に取り巻き全てを潰された朝永も同じだった。信じられないものを見る目で、床で(うめ)く手下たちと穂高を見つめる。その中心に立つ穂高は、変わらず何の感情も窺わせない瞳で周囲を見回すと、


「うーん……おまえらはやたら楽しそうにやっていたけど、楽しいか、これ?」


 首を捻りながらそんなことを呟いた。その言葉でようやく怒りが追いついたのか、朝永が顔を朱に染めると穂高を睨みつける。


「出水……おまえ、いきなり何しやがる!?」

「何って、見たとおりだけど?」


 対する穂高は、何でそんなことを問われるのか分からない、といった様子で平然と答える。


「本気で言ってんのか、それ? おまえ、自分が何したか分かってないようだな」

「朝永こそ、何で怒っているんだ? そっちが言ったんじゃないか。『責任が取れるなら、殴ってもいい』んだって」

「な…………!?」


 あまりに予想外の答えだったのか、怒りのあまりどす黒くなりかけていた朝永の顔色が素に戻る。そんな朝永を見ながら、「あ、そうか」と穂高はぽんと手を叩いた。


「まだ治すところまではやってないもんな。それじゃあ、分からないか」


 そして、口の中で何やら呟くと、次の瞬間、朝永の取り巻きたちの怪我が跡形も無く消えていた。痛みすらも一瞬で消え去ったのか、彼らは床に倒れたまま、ある者は自分の身体を、ある者は穂高を、ぽかんとした顔で眺める。唯一無事だった朝永も、脳の処理が再び追いつかなくなったのか、呆気に取られたまま固まっている。

 そんな彼らとは違い、すっかりその場の主導権を握る立場となっていた穂高の次の行動は早かった。近くにあった机を蹴り倒すと、その勢いのまま机を力一杯踏みつけたのだ。直後、最近聞いた覚えのある異音が耳に届くと同時に、再び悲鳴が教室に響いた。悲鳴の主は、机と床に両足を挟まれた、倒れたままだった取り巻きの一人。その光景は、やはり穂高以外の誰にも理解出来なかった。再び呆然となった隙を突くように、穂高は別の机を蹴り飛ばす。それは身を起こしかけていた別の一人の上半身に当たり、そいつは再び床に伏すこととなった。


「な……何やってんだ、おまえはぁ――っ」


 あっという間に再び二人が沈められたのを見て、今度は思いの外早く再起動した朝永が、叫びながら穂高に(つか)みかかった。胸倉を摑み、穂高より頭一つ分高い身長差を活かして吊り上げようとしたが、しかしその前に遠慮容赦なしの頭突きを顔面に食らって(たま)らず手を放す。

 だが、その反撃は諸刃の剣でもあったのか、解放された穂高も額を押さえてふらつくことになり、その隙を突いて回復した手下の一人が真正面から飛びかかって床に押し倒すと馬乗りになった。中学一年生男子としては平均的な体型の穂高に対し、マウントポジションを確保した生徒は高校生と言われても納得しそうなガッシリとした体格。勝利を確信したのか、そいつは怒りと憎悪に歪んだ笑みを浮かべて、穂高の首に両手を掛けた。いくら無表情がデフォルトの幼馴染でも、首を絞められたらその顔には苦悶が浮かぶ。それを見てますます嗜虐(しぎゃく)的な笑みを浮かべたそいつはしかし、直後に醜い悲鳴を上げて穂高からよろよろと距離を取ることになった。その右目には、ボールペンが突き刺さっている。一体何処に隠し持っていたのか、穂高が唯一自由に動かせた手を使って行った反撃だった。

 咳き込みながら立ち上がった穂高は再び隙を見せている状態だったが、さすがにその反撃は衝撃的過ぎたのか、残った一人は明らかに躊躇を見せる。結局それが命取りとなり、そいつもまた再び床に沈むことになった。


 その後は、概ね同じことの繰り返しだった。

 穂高は魔法を使って彼らの怪我を治し、しかしその直後に再び暴行を加える。全員倒れると再び魔法で怪我を治し、そしてまた拳を振り下ろす。

 ただ、繰り返しとは言っても、その攻撃はどんどん苛烈になっていった。いつの間にか骨の折れる音や吹き出す血飛沫が当たり前になり、悲鳴や呻き声は絶えず聞こえ、やがてそこに嗚咽が混じり始める。

 阿鼻叫喚という言葉の意味を、伊勢崎はそのとき初めて本当の意味で理解した気がした。同時に、初めて心の底から幼馴染に恐怖を抱いた。その感情が身体を縛り、穂高を止めなければと頭の片隅で思いながらも、結局最後まで動くことが出来なかった。

 そんな伊勢崎の目の前で、どんどん一方的になっていく暴行は続いた。「もうやめてくれ」「オレたちが悪かった」「ごめんなさい」「許してください」……いつしか呻き声は懇願に代わり、彼らの顔は血と涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっていた。

 それでも、幼馴染は手を緩めることはしなかった。それどころか、「おかしなことを言うんだな。治せるなら、やってもいいんだろう?」とむしろ不思議そうな様子で聞き返して、彼らを更に絶望させた。


 ようやく穂高が手を止めたのは、怪我を治しても、誰一人として立ち上がることも反撃してくることもなく、ただただ床に倒れ伏したまま泣きじゃくるばかりになったときだった。

 いや、正確にはそうした彼らの状態よりも、そろそろ日が暮れ始めて帰らなければならない時間になったことのほうが大きかったかもしれない。終始ほとんど感情の変化を見せないままやり終えた幼馴染は、ふと窓の外を眺めて一息吐()くと、倒れたままだった伊勢崎のところへ来て朝永たちにやられた怪我を治し、手を取って立ち上がらせると、「それじゃあ、そろそろ帰ろうか、こーちゃん」と、まるで先程までの惨劇など無かったかのようにあっさりとそう言ったのだから。それは、伊勢崎が絶句して咄嗟に言葉を返せなかったくらい、いつもどおりの穂高だった。


「……おまえ…………こんなことして……ただで済むと……思っているのか……?」


 何事も無かったかのように帰り支度を済ませる穂高に、最後の足掻きとばかりに声を掛けてきたのは朝永だった。彼もまた涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしていたが、それでもその眼差しは、完全に力を失ってはいなかった。……たとえそれが、ようやく暴虐の時間が終わったことで取り戻した、なけなしの虚勢だったとしても。


「おまえのしたことを知れば……朝永の家が黙っていないぞ。怪我を治して……証拠は無いと言うかもしれないが……残念だったな……それだけじゃ、足りない……。だって、この教室の中には……おまえのやったことの証拠が……バッチリと残っているんだからな……!」


 そう告げる彼の視線の先には、散らばった花瓶の破片に、踏みつけられた花、あちこち凹んだり傷ついたりした机とイス、その机から散らばった教科書などがあった。彼の言うとおり、いくら直接的な怪我を治したところで消えない、この教室自体に残された痕跡が。

 そして、そこから今回の件が明るみになれば、穂高に何らかの処罰が下されるのは想像に難くない。仮に友人がやられた仕返しだと主張したとしても、明らかにやり過ぎだし、その友人が伊勢崎では情状酌量の余地も薄いだろう。

 朝永の捨て台詞でそのことに気づかされ、伊勢崎は青ざめた。が、当の本人はケロリとしていた。それどころか、


「うん。だから最後に、ちゃんと片付けてから帰るよ」


 そんなことは百も承知とばかりにそう言って、ぱんと手を叩いた。


「――――――――――――――――――――――――――――――――は?」


 魔法を使うのに必要なのはイメージを喚起・確定させるための呪文らしいので、その行為自体に直接的な意味は無かったのだろう。

 だが、合図としては劇的だった。

 それを目の当たりにした朝永が、ひどく間の抜けた声を洩らして固まってしまったのも無理ないと思えるくらいに。


 文字通り(まばた)きする間に、教室内の光景が一変していた。いや、元に戻ったと言うべきか。


 そこには既に、先程までの暴虐の痕跡は何一つとして残っていなかった。机とイスは整然と並べられ、教卓の上の花瓶には綺麗な花が飾られている。床に散らばったものも何もなく、初めからそんなものなど存在しなかったかのように何処にも見当たらなかった。

 残ったのは、無傷の少年五人が何故か涙と鼻水を流して(うずくま)ったり倒れたりしているという、それだけ見れば、彼ら五人が何か悪いモノでも食べて食中毒でも起こしたとのだと説明されたら、むしろそっちのほうに納得してしまいそうな光景だった。

 普段は魔法を使うことを忌避している嫌いさえある幼馴染が、その気になればそんなものが嫌味に思えるくらいの魔法の才を持っていることは知っていた。それでも、伊勢崎でさえもその光景には呆気に取られた。


「…………うん。たぶん(・・・)これで、問題は片付いたかな」


 それなのに、当の幼馴染は教室内を見回しながら、そんなことを呟くのだ。



「………………………………何だよ、それ…………」



 先程までとは別の意味で、涙で震えるような朝永の声が耳に届いた。それは同時に、彼の心が――最後に残されたなけなしの矜持(きょうじ)が粉々に砕け散った音にも、伊勢崎には聞こえた。

 朝永のように言葉に出すことは無かったが、それは彼の取り巻きたちも同じだったのだろう。泣きながら謝り始めた時点で既に心を折られていたとも思うが、どちらにしても、それは最後の一押しのように、彼らをどん底まで叩きのめした。


 そんな彼らを残して伊勢崎と穂高は帰宅したわけだが、結局このときのことが公になることはなく、そしてこの放課後を境に、朝永たちは伊勢崎に手を出さなくなった。……それどころか、伊勢崎の背後に穂高の影を見ているのか、本人は勿論、伊勢崎に対してさえも酷く怯えるようになったのだった。

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