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忘却の魔法使い  作者: 祥雲翠
第一部
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0.魔女の呪い

 中世の頃、人々は己と違う者たちを異端として差別し、排除した。特に(あや)しの術を使う者や人々に理解出来ない行動を取る者を“魔女”と呼び、火刑に処したという。

 彼女たちが本当に魔女だったのか、それとも当時の人々の偏見がそういうふうに仕立て上げただけなのか。あるいは、仮に本当に魔女だったとしても、告発された者全てがそうだったのか。今となっては確かめる(すべ)はない。

 ただ、一つだけ確かなことはある。

 それは、最初は与太話でしかなかった一人の火刑に処された魔女の記録。名前も分からないその魔女は、(そび)え立つ太く長い杭にその身を拘束され、己を殺すために投げ込まれた炎を見ながら叫んだという。


『恥知らずにも我らを異端と呼ぶ者たちよ! ならば、汝らもその身を、汝らが言うところの異端へと変えるがいい! そのとき汝らは知るだろう。“異端”などというものは所詮、汝ら自身が作り上げた幻想に過ぎないことを……!』


 人々を呪うようなその言葉を、しかしまともに受け止める者はなく、聴衆はただ嘲笑によって応えた。世界から弾き出された者の戯言(たわごと)に過ぎないと。

 その魔女が燃え尽きた後、残された灰が空へと舞い上がり、(ほの)暗い光を帯びてまるで雪のように世界に降り注いだときでさえも、それが真実呪いであったことに気づいた者はいなかった。

 しかし、そんなことには関係なく、それは緩やかに現れた。光の灰が世界に降り注いだ後、少しずつ、けれど確かな変化として。


 初めは、ごく(わず)かだった。生まれてくる子供たちの中に、異能の力を持つ者が現れたのは。

 故に、彼らは即座に淘汰された。“異端”として。その方法は様々ながらも、世界から排除された。

 だが、そうした後も、異能の力を持つ子供たちは生まれ続けた。その数を少しずつ増やしながら。

 その都度、彼らは葬られた。まるでそうすることで、その頃には気付き始めていた呪いの存在を消し去ろうとするかのように。

 けれど、そんな人々を嘲笑うかのように、異能の力は――異端の存在は、その数を、勢力を増やしていった。

 そうして、やがて異能の力を――後に、魔法と呼ばれることになる力を持つ者が、持たない者の数に追いつき始めた頃。人々はとうとう、その異端を受け容れざるを得なくなっていた。共存せざるを得なくなっていた。

 そうして、遂には“異端”がその数を上回ったとき。


 “異端”こそが“普通”となった。


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