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恋姫†異譚  作者: 桜惡夢
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56話 心溢れる一雫


“司法”とは何なのだろうか。

法律や規律とは遵守すべき事である。

しかし、それが強制ではなく、自主性に委ねられた性善である事が前提条件に有る場合。

その法律・規律の効力は抑止力としては脆弱。

その為、時として見せしめ(公開処罰)が必要。

そう遣って広く、不特定多数の意識に恐怖を伴い、植え付けなくては秩序維持機能としては働かない。

それを遣らない場合は、その法律・規律は何れだけ厳罰化しようとも、効力の向上は望めない。

それだけ人々の意識というのは自己中心的であり、自己肯定に傾き易い脆弱なものなのだから。


──とは言え、恐怖政治の様なものは間違い。

確かに、一時的、或いは一部に置いては恐怖による自戒・自制の意識を促す事は悪くはない。

ただ、その場合は自主性が失われ、誰かから命令をされなければ動けない、不安になるといった類いの弊害も生じてしまう可能性も小さくはない。


法律・規律というのは不変であっては為らない。

時代や社会に伴い変化していく必要が有る。

そうでなければ何の意味も持たない。

犯罪や違法行為というものは世の中に次から次へと溢れ出してくるのだから。

事後対応だけではなく、時として先手を打つという方法も必要となる。

それに不足・不備が有れば追加・修正し、その都度改定していく方が建設的だと言えるのだが。

「安易に変えるべきではない」という間違った声を気にしてしまうあまり、本質を見失う政治。

安易に変えるべきではないのは確かだろう。

しかし、必要に応じて柔軟且つ迅速に対応するべきなのも事実であり、本来は欠かせない要素だが。

果たして、その歪さに気付く人は如何程か。

明確には誰にも判らない事なのだろう。



「…あの忍様、如何でしょうか?

その…初めてで…上手く出来ていますか?」


「んっ…ああ、上手に出来てるよ

初めてで此処まで出来ると将来も楽しみだな」


「そうですか、良かったです」



そう笑顔で喜ぶ月を見て思う。

「幸せな家庭って、こういう感じなんだな」と。

口に運ぶ月の手料理は懐かしくもあり、それでいて記憶の中の味よりも更に美味しくなっている。

これで「俺は幸せ者だな」と思わない奴は死ね。

そう思えない奴は男として、いや、人として何処か可笑しくなっているんだろうから。

つまり、俺は男としては勝者な訳だ!。



「…せめて、心の声に留めて置いたら?

溢れ出す想いが駄々漏れしているわよ?」


「……ぇぅぅぅ~~~っ……」


「………………ohhu……」



呆れ顔で咲夜に指摘され、その視線に釣られたなら真っ赤になった月と目が合った。

其処で更に赤みを増す月。

だが、月は決して視線を逸らしはしない。

寧ろ、「あの…本当ですか?」と訊ね返すかの様に不安と期待の入り混じった視線を向けていて。

俺は誤魔化す事が出来ずに小さく首肯した。


その直後、月は嬉しそうに微笑み──俯いた。

頭から湯気が立ち上るのを幻視しそうな程に。

真っ赤っかになりながら。


そして、俺も同じ様に顔を赤くしているのだろう。

頬が、耳が、首筋が、兎に角火照っている。

適当に誤魔化して逃げ出したい衝動に駆られるが、折角の月の手料理を掻っ込んで食べ尽くすといった暴挙は出来ません。

()保(護し)安(心させる)協会の理事長として、そんな真似は赦す訳にはいきません。

あと、この後は咲夜と仕事が有りますから。

「はいはい、私は序でですよ」とか言うな。




数日とは言え、同じ敷地で暮らしていたからか。

俺達も月も特に違和感も無く生活に馴染んでいる。


…え?、「“同じ屋根の下”じゃないのか?」?。

それはね、董家は名門ですからね。

如何に命の恩人でも上客扱いですから。

滞在中の部屋は董家の家族の部屋からは遠いですし同じ屋根という規模でも有りませんから。

比喩としては有りかもしれませんけど。

現実的に見たら違うんですよね~。



「ったく…心配してた方が馬鹿みたいだわ

三年以内所か、来年の今頃には産まれているわね」


「…くっ…この俺が、否定出来無い、だとっ?!」


「はいはい、惚気ネタ乙」


「其処はノって来いよ」


「嫌よ、面倒臭いもの」


「普段はノってくるだろうが…」


「ノリって気分や雰囲気が大事だと思わない?」


「…くっ…この俺が、否定出来──」


「無いわ~、滑りに被せるのって無いわ~」


「──グホァアッ!?」



然り気無いジャッカルを受け、俺は倒れ伏す。

──あ?、ボケメンタル的に、だからね?。

実際には歩きながら倒れたりする身体を張ってまで笑いやボケに走ったりはしません。

流石に其処まで懸けてはいませんから。



「それはそれとして、流石に董家の力は凄いわね

必要な人材を直ぐに選って用意出来るなんて」


「長く董家が広陽郡を統治し続けているからだな

漁陽郡も似ている様には見えるけど、長きに渡って培われてきた組織としての厚み・深みが違う

恐らく、董家以上の組織力を持った家は少なくとも幽州には存在しないだろうな」


「そうね…とは言え、それは統治・情報戦ではね

純粋な戦力・軍事力という点でなら上が居るわ」


「だから油断は出来無い

まあ、そう簡単には動けはしないだろうし、董家の情報力を得た宅を侮る可能性は低いだろうからな

暫くは、ゆっくりしたいのが本音だ」


「そういうのが振り(フラグ)になるのよ?」


「そう思うんなら言うなって…」



他愛無い会話をしながら、報告書である竹簡の山に目を通し、読み終わった物を背中に背負った籠へと入れて咲夜に新しい物を手渡される。

二宮尊徳──金治郎さんスタイルです。

しかし、時代と文化が変われば、その勤勉・努力の象徴であった彼も、“犯罪者予備軍”扱いです。

連想させるから?。

そんな何も知らない輩の勝手な難癖を真に受けてる政治家等の頭の方が俺的には危険だと言いたい。

──と言うかね、そんな下らない事を問題視して、真面目に遣ってる暇が有るなら違う事を遣れ。

民の為、国の為に遣るべき事は他に有るでしょ?。

俺を見倣いなさい、世の中の政治家諸君。



「時代が──と言うか、世界自体が違うわよ」


「それでも政治の本質や根幹は同じだろ?」


「それはまあ…そうだけど…」


「お前ってさ、漫画やアニメ、ゲームが教育的には悪い影響を与えるって思う方か?」


「………正直、難しいわね

私個人としては「所詮、個人の好き嫌いでしょ?」という意見でしかないけど…

そういう貴男は、どう考えてるの?」


「アニメやゲームは嗜好品だと思うな

ただ、漫画は優れた教材だと思う」


「漫画が教材?」


「ああ──あ、ギャグ漫画やエロ漫画は別な?

あの辺りのジャンルも嗜好品だから」


「はいはい、それで?」


「勉強する時に使う教科書や資料って有るけどさ、活字だけの説明文章や無駄に細かい図解とかって、作り手の自己満足(押し付け)だと思わないか?」


「うわ~っ…前世なら炎上しそうな発言ね…」


「まあ、実体験が有っての意見なんだけどな…

例えばさ、医療を題材にした漫画を読むとする

話毎に扱う内容は違うけどさ、無駄な知識も無いし図解も必要な事だけだから覚え易いくないか?」


「………それはそうだけど、漫画だからでしょ?」


「そう、漫画だからページ数とかコマ割り、展開を考えて読み易く作られてるよな?

けど、教科書とかは違うだろ?

其方は辞書や事典みたいな物だからな」


「それは仕方が無いでしょ、専門書なんだから」


「其処が重要なんだよ

教科書とな何と無くで読まないよな?

でも、漫画は何と無くでも読み始めるだろ?

そういう意味でも入り易いんだ

それに、漫画はアニメや実写と違って文字と絵とが一緒だから読むだけでも、ストーリーと一緒に頭に記憶され易いし、知識としても残り易いと言える

何より、漫画の優れている点は、読みながら脳内で補完処理が行われる事だ

ただ絵を見る図解とは違って、ストーリーに合わせコマ間の描かれない部分(・・・・・・・)を自分でイメージする

この補完処理が思考力を上げると俺は思ってる

そして、その補完処理が優れている程、実体験したかの様に単なる知識が疑似体験により技に昇華する──は言い過ぎだけどさ、身に付き易いと思う」


「…………まあ、そういう考えも一利有るわね」


「全ての漫画が適しているとは俺も言わない

ただ、教科書とかは漫画という表現技術を取り入れ進化出来る余地が有る、とは思わないか?」


「前世でならね、現世(此処)では早いと思うわ

それと、明日の夜は明けておいてね」



そう言って最後の竹簡を手渡すと咲夜は歩き去る。

何気無く言いはしたが、此方は緊張してしまう。

確かに必要なん事だが。

それは危機の到来を予感させるのだから。






「──────は?、今、何て言った?」


「だから、第二段階の対処に必要な“浄化”の力、それから第三段階の対処に必要な力の受け渡しには貴男と性交渉(・・・)する必要が有るの」


「………………マジで?、いや、と言うか何で?」


「別に可笑しな事じゃないでしょ?

力を物質化したりして持ち込む事は出来無い以上、魂に内包させて持ち込むしかないもの」


「それは……まあ、確かに判るけどさ…」


「それにね、色々と条件付けをして鍵を掛けないと力が僅かでも漏れ出せば貴男に渡す前に“歪み”に気付かれて奪われる可能性も有るわ

そうしない為にも何重にも鍵を施しているのよ

簡単な条件付けだと偶然で解除する可能性も十分に有り得るから、その辺りは複雑に為るわ

それで、確実に貴男だけに渡せる様に、性交渉する必要も条件に入っているのよ

…貴男なら理解が出来無い訳ではないでしょ?」


「……………理解は出来る、納得は別にしてもな」



そう、少なくとも咲夜の──女神擬きの言っている事は理解する事が出来る。

下界では(・・・・)不滅に等しい存在らしい、彼女達。

肉体的には俺達と同じ有限の命を持つ人間だが。

その魂は問題無く帰還する事が出来る。

だから、そういう意味では人間としての性交渉など大した事ではないし、気にもしないのだろう。

初対面(再会)の時にも、そういう事を言っていたしな。

多分、俺も同じ立場なら同じ様に考える筈だ。

それ位に、理解は出来る。



「…転生して出逢ってから今日まで貴男を見てきて貴男が華琳達に対して誠実であり、そういう行為や感情を大切にしている事は解っているわ

だから正直に言って今は必要な事だったとは言え、浅慮だったと後悔しているわ

…だけどね、それでも──ぅんっ…」



それ以上を咲夜に言わさせない為に右の人差し指で唇を押さえて黙らせる。

驚き、戸惑い、不安、罪悪感、後悔が瞳に滲む。

だから、咲夜から目を逸らしそうになる。

だが、それだけは絶対にしないと自分に命じる。



(…ああっ、畜生っ、自分が情けなくて苛立つっ…

出来る事なら今直ぐ自分を殴りたいっ…)



確かに咲夜に話をされた時には驚いた。

それは彼女達の貞操観念に、ではない。

俺自身が咲夜を、女神擬きではなく一人の女として見ていて、大切に思っている事にだ。

だからこそ、「自分が悪いの」と言わせている事に自分の情けなさを感じずには居られない。


そんな俺が出来る事は一つ。

これ以上は咲夜に言わせない事だけ。

此処からは俺から動く、という事だけだ。



「…ああ、判っている、その力が必要だってな

世界の未来や存亡なんて俺には知った事じゃない

ただ俺は華琳達と幸せに成りたいだけだからな

その為には──その力が必要な

だから、咲夜…お前を抱いて、力を受け取る」


「…ええ、それでいいの

ああ、ただ、ちゃんと中に御願いね?

それも条件()の一つなんだから」


「判った、経験は豊富だから任せろ」


「ふふっ…それじゃあ、宜しく御願いします」



多少は緊張が解れたのか。

肩の力を抜いて笑う咲夜を抱き締める。

静かに目蓋を閉じた咲夜の唇に優しく重ね合わせ、始まりを告げる様に胸の鐘が鳴り響く。

咲夜だけを想い、見詰めて。





 司馬防side──


本当に…自分で言ってて、苛立ってしまう。

確かに手段としては可笑しくはないのだけれど。

彼に対する配慮を欠いていた事は間違い無い。

──いいえ、寧ろ、酷い事を遣っていると思う。

「折角だから好きなキャラの姿で楽しんでね」とか今の私には死んでも言えない言葉だわ。

表面上の彼ではなく、もっと深い部分の彼を知り、そんな彼に惹かれている私には絶対に言えない。

二度と言おうとも思わない。

彼の想いを土足で踏み躙る様な真似は。

私自身が赦す事が出来無い。


…ただ、それとは違う罪悪感が有るのも確か。

彼に言った受け渡し方法の説明は間違いではない。

だけど、嘘が混じってはいないという訳ではない。

実際には性交渉は必要無く、私達が互いを認識し、合意の上でキスするだけで十分だったりする。

それなのに、そんな嘘を吐いてしまったのは。

単純に私自身に意気地が無かった所為。

要するに、こじつけで既成事実を作ってしまえば、なし崩し的に関係を持てると考えたから。

…ええ、我ながら何とも浅慮な事だとは思うわ。

それでも、そうするしか無かったのも本音。


別に男を知らないという訳ではないわ。

──あっ、勿論、現世では未経験だけどね。

前世では何人かと付き合っていたから。

ただ、その男達との関係とは全く違っていて。

彼が私自身にとっての“初恋”の相手だと判り。

それを自覚したら、余計に意識してしまって。

素直に想いを伝える事が出来無かったの。

だって、「いや、女としては見れないから」なんて言われたら一生立ち直れる気がしないもの。

だから仕方が無かったのよ。

そうでもしないと、私は踏み出せなかったから。


──という事を始まる前は考え、心で彼に謝った。

それでも止められない自分の欲求(想い)に突き動かされ、狡くて強引で卑怯な方法で、彼と結ばれた。

唇を重ねるだけのキスで胸が高鳴り、熱を生む。

鼻孔を満たす彼の匂いは媚薬の様に私を昂らせ。

触れ合う肌の温もりと感触が狂う程に心地好く。

心までも突き貫かれ、至福の中に意識は溺れる。



「……咲夜、ちゃんと受け渡しは出来たのか?」


「………ぇ?……ぁあ、ぇと……うん、大丈夫よ」



初めて味わう快楽と充足感、その余韻に浸っていて失念し掛けていたけれど、これは受け渡しの儀式。

問題無く受け渡しが出来ている事を確認する。

──と、彼の視線が鋭くなった。



「…おい、正直に言え、本当に必要だったのか?」


「……………………てへっ☆」



感付かれ、誤魔化せないと判り、言外に肯定。

色々と怖くて視線を逸らしてしまう。

──と、繋がったままの彼が伸し掛かってくる。



「あ、あのねっ、その──んむぅっ、んちゅっ…」


「んっ…言い訳は訊かん

その代わり、徹底的に刻み込むから覚悟しろ」



そう言って、言葉通り、徹底的に貪られる。

申し訳無かった気持ちは薄れて消え。

ただただ歓喜が心から溢れ出す。

貴男だけを映す私の瞳鏡は。

一点の曇りも無く、鮮やかに。



──side out



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