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恋姫†異譚  作者: 桜惡夢
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    翳る夜


直ぐに使者を出し、愛紗達を呼び寄せた。

その一方で、董君雅さん達には兵を率いて件の砦を包囲する様に布陣して貰う形で準備を進めた。


先行して到着した愛紗と関羽隊千人に、後から合流する夏侯姉妹の部隊二千人を含めた指示を出す。

愛紗は俺達と一緒に行きたそうな表情をしていたが自分達の役割の重要さも理解している。

そう、愛紗達と董君雅さん達が率いる軍勢で包囲し韓宮達の意識を引き付けるのが狙い。

つまり、愛紗達が陽動で、俺達が本命の部隊。

韓宮達の意識の隙を突いて乗り込み、月達の身柄を確保してから、韓宮達を討伐さに掛かる。

それが俺達の作戦。

単純なだけに効果的であり、故に実行が困難な事。

氣を扱える俺達だから出来る訳だ。


──で、重要なのは何処から乗り込むのか。

当然ながら正面突破は無い。

出来無いという訳ではなく、遣ったら確実に月達の身に危険が及ぶからだ。


立て籠り犯に接触する為に一般人に扮して潜り込むというド定番も出入りする理由が無いから不可能。

こういう時、時代・社会的な隙が無いので困る。


無難なのは砦の外壁を登っての侵入。

或いは、外壁を破壊して、だろう。

しかし、当然ながら見張りが全面に立っている為、それは中々に難しいと言える。

それはまあ?、正面突破をする様に見せ掛けて砦に近寄って注意を引き、一瞬の隙を突いて乗り込めば出来無い訳ではないんだけど。

その場合、砦に入った時点で誰かには気付かれる。

そうなれば、やはり月達の身に危険が及ぶ。


──そんな訳で我々に残された選択肢は唯一つ。



「往けっ、真桜っ!、その螺旋で路を拓けっ!!」


「偉そうに言ぅてんと手伝ってぇなっ!!」


「何を言うんだい、真桜君?

こうして僕は消音処理を完璧に熟しているよ?

そんな事より、君こそ気が散っていないかい?」


「ちょっ!?、止めぇっ!、「僕」って何やねん?!、何や悪寒がするんやけどっ?!」


「酷いな君は……真面目な僕を苛めるだなんて…」


「……んで?、本音は?」


「自分で遣ってて背筋に悪寒が走ったな」


「ほら見ぃっ!」



──と、真桜とコント擬きを遣りながら、砦の下をガリガリと掘り進んで行きます。

地上(うえ)が駄目なら地下(した)が有るじゃない。

…え?、「その辺の地盤が固くて掘れないって話は何処行ったんだ?」と?。

ええ、勿論、カッチカチみたいですね。

でも、それは飽く迄も一般的な話な訳です。

宅の真桜の螺旋槍“穿空”──俺と共同開発──の前では普通は不可能な固さも豆腐の如くっ!。

見よっ!、これが土木技術革新の幕開けだっ!。



「けどさ、「豆腐みたいに」って言っても、本当に豆腐みたいに掘れるとしたら、グッチャグチャの、ビッチャビチャで、ドゥルッドゥルだよな~」


「何で今そないな話するん?

そらまあ、実際に豆腐みたいに掘れるんやったら、そうなるんは容易に思い浮かぶんやけど…

ちゅうか、そうなった姿って何や卑猥やない?」


「真桜、お前の想像上では不自然に薄着で着崩れし汗が滲む綺麗か可愛い女性なんだろうが…

現実の現場はオッサンだらけの肉と汗の祭りだ」


「……アカンッ!、ウチは女やけど何かちゃうっ!

その画面は何か色々とアカン気がするっ!」



頭を左右に振って思い浮かべた画を消そうとするが一度思い浮かんだ彼等は癖が凄い。

そう簡単には退散してくれない悪霊も同然。

むさ苦しく、暑苦しく、鬱陶しく。

臭い、ベタつく汗の様に粘っ濃く。

脳裏に張り付いている事だろう。


尚、俺は愛妹兄(しんし)であり、愛兄貴(おとうと)ではない。

其方等側には僅かたりとも踏み込んではいない。

あと、腐ってくれるなよ、真桜?。

腐ったら強制的に矯正するからな、マジで。


それは兎も角として。

砦の正面、布陣する軍の後方に建てられた天幕から地下牢に向かって一直線に地下を掘り進む。

直線距離にして約300m。

地表からは約5m程の所を。

崩落しない様に氣と工具で補強工事をしながら。

…うん、何処ぞの怪盗の末裔さんが銀行等を狙って突貫工事をしているみたいな感じです。


採掘して出た土石は運び出さないと行けません。

蚯蚓じゃないんで体内に取り込めはしませんし。

退けないと邪魔で進めませんから。

だから、華琳達はリレー形式で搬出係です。

採掘役の真桜を先頭に、消音係の俺が直ぐ後ろに、華琳・咲夜・凪と順に並ぶ形。

一番大変なのは凪だが、効率上、仕方が無い。

後で沢山甘えさせる(労う)ので頑張ってくれ。



「──と、真桜、其処で止まれ」


「──っしょっと…着いたん?」


「ああ、此処から前方上45°(・・・)で頼む」


「おっしゃあっ、任せときぃっ!」



そう指示すると真桜は直ぐに掘削を再開する。

当然だが、まだ世の中に角度や温度の明確な単位は存在してはいない。

ただ、俺からすると無いと不便でしかない。

だから、“家族内でのみ使用する事”を前提として華琳達には色々と教えて有る。

これが宅の領民の間に浸透するには時間が掛かるが現時点では俺達の間で通用する程度で十分。


それから10分程で地下牢の真下、1mまで到着。

真桜と交代し、頭上に人質が居ない事を確認して、剣豪さんばりに──斬り抜く。

間を置いて、自重で擦り落ち始めた所を右手で押し上げながら、地下牢の中へと入った。

高さ1m、直径1mの円柱状に切り抜かれた床を、片手で持ち上げながら現れた俺に、人質の女性達は唖然とした表情で視線を向けている。

まあ、そうなるのが普通なんでしょうけどね。


──と、其処で月が居ない事に気付く。



「俺は徐子瓏、皆を助けに来た──が、董卓は?」


「──っ!!、御嬢様は韓宮にっ!」


「それは何時の事だ?」


「つい先程の事です、それまでは此処にっ…」


「判った、董卓の事は俺が必ず助け出す

貴女達は此処から脱出を

李春鈴殿が出口で待っているので」



そう言って女性達を安心させ、脱出を促す。

地下牢側には華琳・凪・咲夜を置き、真桜に脱出の先導を任せ、俺は地下牢から出て月を探す。

──いや、月の居る場所を目指す、が正しい。



(…此処で“歪み”の影響が出てくるのか…)



最初は気付かなかった。

──いや、気付かれない様に隠蔽していたからだ。

結界()の内側に入ったから、判る様になった。

だが、それは逆も言え、入ったから気付かれた。

韓宮が月だけを連れて行ったのも、その為だ。


ただ、此処で気になる事が有る。

何故、月だけだったのか、という点だ。

勿論、董家に対しての人質という意味でなら、月の価値は間違い無く、一番なのだが。

その場合は歪みが関わっていない事が前提条件。

歪みが関わっている以上、普通ではなくなる。


その上で、気になる訳だ。

徐恕()董卓()の繋がりは縁談の件の情報を掴んでいたとすれば想像が出来無い話ではない。

しかし、それは徐恕()歪み(自分)の天敵だという前提での話であれば、という事。

直に対面したなら、俺が天敵だと感じ取る可能性は十分に考えられるが、互いに面識は無い。

仮に、以前董家に滞在していた時に感じ取っていた可能性が有るとしても、何故、今、動いたのか。

歪みなら、もっと早く動く事は出来ただろう。


それは現時点では解決不可能な疑問だ。

だが、考えずには居られない。

何故なら、歪みの影響を受けた者達を端末(・・)として、本体(・・)が情報を集積しているのだとしたら。

今後、益々俺達の前に立ち塞がる可能性は高まる。

それが華琳達の危険性が高まる事を意味する以上、俺としては無視も楽観視も出来無い事だからだ。



「────っ!?、な、何者だっ、手前ぇはっ?!」


「侵入者だとっ!?、何処っから入りやがったっ?!」


「糞がっ!、応援を呼──」


「──ばせる訳が無いだろ、馬鹿

あと、敵に親切に答える間抜けは居ないって」



そう言いながら、出会した敵兵──何か賊徒っぽい言動をしている三人を近付いて瞬殺。

首を砕き、序でに脳も浸透勁で破壊。

念には念を入れておかないとな。


しかし、今の連中の言動からすると俺達の──俺の侵入を感知しているのに韓宮──歪みは何も指示を出していないという可能性が高まる。

これは油断を誘う罠か、或いは招待状(・・・)か。

何にしても、普通ではない事は間違い無いな。


そして、月が気絶していない場合、高確率で歪みの存在に繋がる疑問を持たれる事になる。



(……いや、もう手遅れの可能性が高いか…)



月も董家の人間であり、跡取り娘だ。

韓宮が奴隷囚になったのが三年前なら知っていても──面識が有っても可笑しくはない。

だとすれば、韓宮の変わり様に違和感を懐いても、何等不思議ではないだろう。

そして、それに気付ける程度には月は聡い。




敵兵を倒しながら向かう先は砦の最上部。

日本の城で言う所の天守閣に当たる。

ただ、こういう造りの此方等(・・・)では砦は珍しい。

少なくとも、啄郡・漁陽郡には存在してはいない。


加えて、この砦は現役で有りながら、広陽郡内では最古の建造物だそうで、五百年以上前に造られたと言い伝えられているのだと董君雅さん達に聞いた。

その時、こっそりと咲夜と視線を交わしたのだが、咲夜の知る限りでは、この世界に俺以前に転生した元日本人が居た事は無いらしい。


「…ん?、確か彼女達は転生先は判らないのに?」という疑問を懐くのは当然だろう。

ただ、転生先の事は判らないが、転生させる上での規則や禁則事項は知っている訳で。

“同じ世界に二人以上の転生者を送らない”以上、少なくとも咲夜達が転生させた転生者は居ない。


そう、意図的な転生者ではなく、自然の転生者なら存在していた可能性は無いとは言い切れない。

だから、咲夜も「私達も全知全能じゃないのよ」と愚痴る様な、拗ねる様な視線を返して来た訳で。

仮に、そうだったとしても咲夜の責任ではない。

単なる偶然の可能性も有るからな。


そんなこんなと考えている内に──到着。

ボス部屋っぽい、無駄に重厚感の有る扉を開けば、視界の先には右手で胸ぐらを掴まれ吊し上げる様に身体を浮かされている月の姿が有った。

俺は一切躊躇する事無く、その右腕を斬り飛ばし、月の身体を抱き止めて──入り口側に飛び退いた。

──が、扉は親切にも自動だったらしい。

調べれば「扉は固く閉ざされている」という文字が表示される気がするな。



「…………?……っ!?────徐恕様っ!!」


「久し振りだな、董卓、無事で良かったよ」



一瞬の事だった為、月は変化に気付くのが遅れた。

だが、俺の左腕の中に居ると判ると首に手を回し、しっかりと抱き着いてくる。

小さく震えている月。

気丈な態度を見せていても、月は深窓の御嬢様。

こういう事に慣れてはいないだろうから当然だな。

……だがしかし、それは如何なものか。

見た目には小柄で、幼くすら見える華奢な身体だが──その胸部装甲や侮り難し。

大きさで言えば俺の掌にジャスト・イン。

しかし、丸く膨らんでおり、握る楽しみが有る。

押し付けられ、変形する柔軟性の高さは勿論だが、一方で芯の強さを感じさせる弾力性も有る。

これを好きに出来ると思うと……くぅぅ~~っ!。

嗚呼、男に生まれて良かったっ!。


──いや、そうだけど、そうではない。

まだ早い、今はキスまでです!──じゃない。



「──で、初めましてだな、韓宮」


「………………」



静かに此方を見ている韓宮──だろう男。

月に視線で「合ってるよな?」と訊ねれば、首肯。

ただ、僅かな逡巡が混じっている事から考えても、どうやら月は韓宮の異常さに気付いたのだろう。


まあ、それは俺も同じだけどな。

斬り飛ばした筈の左腕は裾が切れているだけ。

血が全く滲んでもいないから、躱されたんだろうな──なんて思う訳が無い。

しっかりと骨まで断ち斬った手応えが有った。

それが斬れていない。

いや、韓宮自身、斬られた事を気にしていない。

その様子からしても、厄介な予感しかしない。

咲夜を連れてくるんだったな。





 董卓side──


時は流れて、季は移り変わり、運命は巡る。

幼い日に出逢い、懐いた小さな小さな想いの種。

大事に、大事に、育んできました。

それが、花を咲かせ、実を結ぶ可能性が。


啄郡と漁陽郡の太守となった徐恕さん。

董家の跡取り娘として、広陽郡の次期太守として。

徐恕さんとの縁談には深い意味が有ります。

ですが、それ以上に純粋に嬉しい事です。

御母様は「早く孫を抱かせて頂戴ね」と。

御祖母様は「曾孫は三人以上で御願いね」と。

そう言われては顔が赤くなってしまいます。

……でも、そうなる未来を想像しただけで胸の奥が自然と温かく、熱くなってきます。

それは私自身の望みだから、です。


その縁談を纏める為、御祖母様が徐恕さんの所へ。

…本当は私自身が行きたかったのですが。

その辺りは政治的な事情が有りますので。

仕方が有りません。

直ぐにでも会えるでしょうから。


──そう思っていた自分を叱りたいです。

きっと浮わついた気持ちが、招いたのでしょう。

御母様達も出掛けていて、手薄だった隙を突かれて私を含む董家の女性達が人質に。

明らかに狙った行動だった為、抵抗はしません。


それから近くにある砦へ移動し、地下牢へ。

手足を縛ったりはされませんでしたが、この砦から脱出する事が出来無い事を知っていますから。

他の皆さんを励まし、状況を把握します。


砦に入って二日目、でしょうか。

地下の為、飽く迄も私の感覚では、ですが。

今回の首謀者である韓宮さんが地下牢へ。

そして、私を地下牢から連れ出しました。

皆さんが阻止しようとしてくれましたが、私自身が応じる事で皆さんに危害が及ばない様にします。

見るからに韓宮さんの様子が可笑しかったので。


砦の最上部である部屋に連れて行かれ、離されると韓宮さんは私ではなく、誰か(・・)を睨む様に足下を見て深い嫌悪感──いえ、敵意を滲ませます。



「……貴方は誰です?、韓宮さんは何処ですか?」



そう問えば、韓宮さんの姿をした何者かは私を見て──無造作さに左腕(・・)を伸ばし、胸ぐらを掴むと私を睨み付けながら持ち上げます。

首元が絞まり、息が出来無くなります。

しかし、この左利きの偽者(・・・・・・)の情報を何とかして残し伝えないといけません。


──そう思っていた時、急に息が楽に為りました。

そして、気付けば温かな腕の中に。

鼻腔を満たす匂い、掛けられる優しい声、力強くて澄んだ瞳、記憶と重なる笑顔。

徐恕さん(私の英雄)が、其処に居ました。

だから、仕方が無いと思います。

想いが溢れ、抱き付いてしまった事は。



──side out



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