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恋姫†異譚  作者: 桜惡夢
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   汝が眼で見定む


俺を太守として一つに纏まっている啄郡。

穏健派と宣戦派が対立している漁陽郡。

正面に打付かれば、何方等に勝機が有るのか。

そんな事は政が何でのあるかを知らない民ででさえ想像が出来る程に単純だと言える。


ただ、それは飽く迄も正面に打付かればの話だ。

現実には出兵──表向きには正規兵を使っているか公式な軍事行動かは定かではないが。

彼方等さんの勢力は宣戦派の者達なのは確かだ。

或いは、何も知らないで美味い話で踊らされている欲に目が眩んでいる連中か、だろうな。

まあ、何方等でも構わないが。


此処で“殺られる前に殺れ”理論で仕掛けた場合、宣戦派の思惑通りに俺達が悪者にされ、穏健派側も渋々だが協力──防衛戦を強いられる訳だ。

当然、そんな馬鹿な真似は遣りませんよ。


ただ、一万ちょいとは言え、郡境付近に居る状況を完全に無視する事は出来無い。

一気に雪崩れ込まれれば、主要な場所は大丈夫でも小さな村邑は少なからず犠牲と為ってしまう。

そうなれば、此方等の中でも開戦意見は出る。

此方等が動けば──とまあ、そういう流れな訳だ。



「──で、私達が呼ばれた訳か」


「悪いな、身重なのに」


「身重って言っても全然御腹も大きくないしな

まあ、漸く悪阻が落ち着いたのは有難いな」


「まあ、そういう訳じゃからのぅ

儂は其方(・・)でも構ぬぞ?」


「もぅ…困らせる様な事を言っては駄目よ

此処に居るだけでも反対意見が多いのよ?

これで貴女が付いて行けば…判るでしょう?」


「まあ、それはのぅ…」



気楽に言った祭は紫苑に窘められる。

別に本気ではな………い訳でもないか、祭だし。

運良く俺が首を縦に振れば、という位は有るな。


ただ、その祭に同調し掛けた誰かさんを見る。

スッ…と視線を外すのは──梨芹。

俺に華琳に愛紗は長く一緒に居るから判る。

紫苑達が言っていた事を全く考えてなかったと。

脳筋ではなくなったが……若干、色惚け化したか。

原作の曹操崇拝者みたいには為ってくれるなよ。


まあ、それはそれとして。

穏と璃々、亞莎を城に残し、後は此処に勢揃い。

序でに兵も千七百連れて来て貰っている。

これで、此方は合わせて二千だ。

兵数で言えば、五倍の差が有る訳だけど。

質では此方が軽く十倍は上だろうからな。

つまり、これでも宅としては多い位だ。

だから、二千というのは交代を含め、負担を少なく任務を遂行する為の人数、という事です。


そんな俺達の様子を緊張と困惑で見ている鳳統。

まあ、そういう反応になるのも仕方が無いだろう。

何しろ、妻以外も実質的には俺の家族だからな。

一人だけ場違いな感じは否めないと思う。



「まあ、そういう訳で、彼方等さんと“睨めっこ”しててくれれば、それでいいからな

その間に俺達で片付ける」


「動く可能性は先ず無いだろうけど…

万が一にも連中が動いたら?」


「馬鹿そうなのから優先して殺してくれ」


「あー…成る程な

要は状況も理解出来ていない御調子者が煽動してる可能性が高い以上、其奴を潰せば全体の動き自体は止まるだろうし、事後処理(・・・・)も楽になるな」


「流石に宣戦派の主力は混じっていないだろうが…まあ、混じっていても気にしなくていい

どうせ、その程度なら助命する価値も無いからな

始末する手間が省ける分、有難い位だ」


「身の程を弁えてれば死にはしない、か…

そういう所が私にも有ればなぁ…」


「お前はお前のままでいいんだよ

皆が皆同じだったら、個性なんて要らないからな

何より、違うからこそ、可能性を生む訳だ」



そう言って白蓮と抱き合い──はしない。

本当は遣りたい雰囲気だけどね。

遣ったら、白蓮一人では済みませんから。


取り敢えず、誤魔化す意味も含めて鳳統を見る。

「………ぇえっ!?、私ですかっ?!」と言うみたいに目を見開いた鳳統に小さく頷いて見せる。

すると、「あわわわっ、どどどどうしようっ…」と慌てる様に硬直し、思考の森に迷い込んだ。

それを見た白蓮に肘打ちされる。

「あんまり苛めてやるなよな…」と。

ええ、判っていますとも。

程々に、弄りますから。



「──とまあ、そういう訳だ、鳳統

お前には此処に残って貰うつもりだ」


「…っ…………………あのっ、足手纏いになる事を承知の上で御願いしますっ!

私も一緒に連れて行って下さいっ!」


「………漁陽の現状(いま)を終わらせる

それに自分が加担する意味は…判るな?

それでも、一緒に来たいか?」


「…っ………はいっ、覚悟は出来ています

私は密使と為った時点で引き返せません

だからこそ、私に託してくれた皆の為にも、結末の全てを私自身が見届けたいのです」


「………判った、連れて行こう

但し、必ず俺か孟徳の傍に居る事

これだけは何が有っても守って貰う、いいな?」


「はいっ!」



これから顔を合わせる連中は敵対勢力。

しかし、漁陽郡の官吏という意味では同じだ。

それ故に、鳳統は「この裏切り者がっ!」といった類いの罵倒を受ける可能性は高い。

それを覚悟の上で、同行し、見届けたい。

その鳳統の意志を確認し、俺は同行を許可する。

まあ、俺か華琳の傍に置くのは念の為だけどな。




陽動──と言うよりは囮に近い睨み合いを白蓮達に任せて少数精鋭で漁陽郡内へ。

先行していた隠密衆と合流し、情報を貰う。

どうやら宣戦派の連中は一堂に会しているらしい。

うむ、何と言う御都合展開──いや、絶好機か。

それを逃す理由など俺達には有りはしない。

だって、其奴等を纏めて始末すれば漁陽郡ゲッツ。

こんなにも楽で美味しい話は有りませんからね。



「──という訳で、俺が漁陽郡を貰うつもりだが、何か異論は有るか?」



そう俺が訊ねている相手は宣戦派の趙俊達ではなく穏健派の鳳統の祖父・鳳協達だ。

宣戦派との戦闘シーン?。

そんな物は無いに等しい大楽勝展開でしたよ。

──というか、俺達が必ず誘いに乗ると思った様で大宴会を開いて酔っ払ってたからね。

容易く全員纏めて生け捕りに出来ました。

その時点で隠密衆の使者を白蓮達へ。

彼方等も既に片付いている事でしょう。


一方、穏健派も宣戦派に対抗する為に集まっていて今後の事を話し合っていました。

其処に鳳統を連れて御邪魔している訳です。

鳳統の口からも俺の説明が事実である事が伝えられ穏健派の面々は半信半疑ながらも顔を見合わせる。

少なくとも、現状での全面戦争(最悪)は回避出来た。

その事実に安堵してはいるだろう。


──とは言え、問題は想像を飛び越えてしまった。

宣戦派の暴挙は心配要らなくなったが、俺の要求を拒否すれば圧倒的な強者だろう俺達を敵に回しての戦争に発展する可能性が見えている事だろう。

勿論、戦争なんて遣るつもりは無いが。

此方も慈善事業(タダ働き)する気は無い。

だから、報酬(貰う物)は、きっちりと貰う。



「………一つだけ、確認をしても宜しいかな?」


「何だ、言ってみろ」


「我等や宣戦派の者達の処遇は御任せ致します

民を危険に晒した罪は免れられぬ事ですので…

ですが、その家族に関しては……どの様に?」



そう言って、チラッ…と鳳統を見た鳳協。

孫娘が可愛いのは、何処の爺さんも同じだな。

まだ俺には判りそうで判らない感じだけど。


まあ、それは兎も角として。

穏健派の代表者だけあって、信頼は厚い様だ。

宣戦派の連中とは違い、穏健派は他の面々も一様に自分達の責任を理解し、覚悟をしている。

だからこそ、家族の事が気掛かりなんだろう。

ただ、宣戦派の家族の事まで心配する辺りがな…。

これが、振り(・・)だったら構わないんだが。

本気だから、少々問題──いや、質が悪い。

だから、その不必要な甘さは此処で正さなくては。



「そうだな…先ず順番に話すが、宣戦派の趙俊達は全員例外無く斬首、その家族は領外に追放する

当然だが、私財は全て没収した上でだ

連中の私財は官吏としての物…

つまりは漁陽郡の為の財だからな

それで斃死しようとも、“馬鹿な当主を殺してでも止められなかった”責任だからな、自業自得だ」


「…っ………そう、で御座いますな…」



そう、官吏である者の家族にも責任は生じる。

──とは言え、全てが全てだとは俺も言わない。

今回の場合、連中の家族は賛同している。

その事の裏も取れているから、だ。

DV当主だったら、流石に救済も考慮します。


尚、領外追放なのは“撒き餌”を兼ねての事。

これが上手く引火(・・)してくれれば…ね。



「それから、お前達穏健派の処遇だが…

何人かは年齢的な事も考慮し、引き継いで貰うが、基本的には民の為に、まだまだ働いて貰う

それが、お前への罰、生きて(・・・)罪を償え」


『──────っっっっっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』


「お前達の家族に関しては一部を除き現状維持だ

勿論、宣戦派の様に為れば…判るな?」



それは脅しであり、責任意識の徹底である。

まあ、今の所は問題の有る者は居ないのだが。

人は環境が変わると変わってしまう事も有る。

だから、飽く迄も、そう為らない様に、釘を刺す。


俺達としても、そういう後味の悪い事は御免だ。

出来る事なら助けた以上は寿命を全うして欲しい。

その為にも、謙虚で誠実な人間性を養って貰いたいというのが、彼等への要望でも有る。

…俺達も親に成る以上、他人事ではないしね。



「そして、最後に鳳協、孫娘の鳳統は俺が貰う

それが今回の件での鳳統と交わした報酬だ

既に成立している以上、悪いが異論は認めない」


「…そうですか…判りました

本人が自ら決めた事です、異論は御座いません

まだまだ未熟ですが…

どうか、宜しく御願い致します」


「ああ、判っている、任せろ

五年以内には曾孫を抱かせてやるから、孫娘の為、曾孫の為、民の為、しっかりと頑張ってくれ」


「ホホォ…それはそれは…否も無しですな」


「…へうぅっ…」



俺と鳳協が意味深な笑みを浮かべれば、それを見て鳳統は顔を、耳を、首筋から鎖骨までも真っ赤にし恥ずかしさから俯いてしまった。

尚、其処は「あわわ…」じゃないんだな。

まあ、驚いたり慌てたりしてる訳じゃないしな。


それは置いておくとして。

白蓮達と同様、鳳統の俺への嫁入りは規定路線。

漁陽郡の──穏健派の中で一番高い立場に有るのが他ならぬ鳳家であり、今回の殊勲者は鳳統だ。

──となれば、下手な婚姻関係を結ばれるよりも、俺が妻として娶った方が色々と都合が良い。

……と言うのが、俺の強がりだ。

有能な宅の愛妹が鳳統と知らない内に報酬としての嫁入りを締結させていましたからね。


しかも、鳳統に「そうですよね…私など…」という悲し気な翳りのある笑みを浮かべられてみろ。

断るなんて選択肢は世界から消え去る。

“うっかりして書き忘れた事を誤魔化しただけ”の可能性の有るナポレオンの辞書とは違うんだ。


…まあ、鳳統は可愛いし、意外と着痩せするタイプである事を俺は知っている。

見た目には原作と同じ感じだが、原作よりは有る。

つまり、まだ成長途上だという事だ。

そう、期待が出来るのは良い事だ。






「──で、あっさりと二郡を手中にした、と…

“禍転じて福と成す”って所?」


「んー…“結果オーライ”だろうな、今回は」


「あー…まあ、そうかもしれないわね

それで、どうだったの?、今回は」


「全く関係無し、だな

まあ、啄郡の騒動の影響を受けてはいるんだから、そういう意味でなら無関係じゃないが…」


「“歪み”の痕跡は無し、と…

う~ん…それは良い事なんだけど…

何だが…こう…モヤッとするわね…」


咲夜も(・・・)って事は、油断は禁物だろうな…」


「まあ、取り敢えずは漁陽郡の統治よね

春蘭が張り切っていたけど…賊徒の討伐?」


「ああ、此方は少なくないからな」


「私も出て良いのよね?」


「構わないが…怪我しない様に程々にな」


「了解」



漁陽郡の統治の為に仕事を始める俺達。

啄郡と違い、一斉に遣るから勝手が違う。

徐々にって、大事だわ。














         とある義妹の

         義兄観察日記(えいゆうたん)

          Vol.18

















 

 曹操side──




▼月△△日。

啄郡の統治を盤石に──と考えていた時に漁陽郡に動きが有り、何だかんだで漁陽郡を手中に。

ええ、流石は御兄様です。

こういった絶好機を呼び込むのも強運の賜物。

まあ、御兄様と、ゆっくりとしたくは有りますが。

その辺りは仕方が有りません。


それはそれとして。

鳳統──雛里の加入は私達にとって大きいわ。

即戦力の雛里の加入で、一つ下の亞莎を育てる為の時間を作る事が出来るもの。


私を含め、文武両道な者が多いのは確かね。

けれど、軍将は軍将、軍師は軍師で専任させたい。

それは私だけではなく、御兄様も同じ御考え。

だから軍師としての資質の有る雛里は貴重。

今暫くは穏に負担は掛けられないしね。

白蓮も、璃々も資質的には軍将。

そういう意味でも軍師は数が少ないもの。

…まあ、今は私一人でも問題は無いけれど。

人数が居た方が良いのは間違い無いわ。




啄郡の事を白蓮達に任せ、御兄様は私達と漁陽郡の統治の為に暫くの間、漁陽郡に拠点を移します。

どの道、妊娠組は当分、夜伽も出来無いしね。

ふふっ、暫くは私達が御兄様を独占出来るわね。



「……ふぅ………やっと終わったか…」


「御疲れ様でした、御兄様」


「有難うな、華琳」



残った漁陽郡の官吏──穏健派の関係者との面談を一通り終えた御兄様に御茶と御菓子を出す。

こういう時、きちんと感謝の言葉を下さる御兄様。

それだけでも私達にとっては大きな意味が有る。

世の中の男性は大抵が言いませんから。

寧ろ、そうする事が女の当然の義務みたいに考えて自分の愚痴ばかり言っている者が多いもの。

………まあ、私の場合は聞いた話だけれど。

だって、私は御兄様以外にはしないもの。


それは兎も角として。

御兄様が面談をする事は、とても重要です。

隠密衆が下調べをしてはいても必要な事。

実際に御兄様を目の前にすれば下心を覗かせる者も少なからず居るでしょう。

今までは不遇故に真面目でも、好機と見れば野心を燃やして蠢動する事は珍しくないもの。

そういった見えない部分を見抜き、潰す事も必要。

その辺りは御兄様は本当に厳しく見抜かれます。


一息吐いてから、御兄様が視線を向けられたのは、部屋に居る私と愛紗・秋蘭。

私達も立ち会っていましたから。



「…で、どうだった?」


「率直に言えば軍部で使えそうな者は居ません

ただ、治安維持の為の新部署──“警務部”になら向いていると思った者が……此方と…此方です」


「文官としては問題有りませんが、宣戦刃の抜けた県令の後任を務められそうな者は居ません

穏健派の方は現職の後任ですから取れませんから…やはり啄郡からに為りますね」


「…慢性的な人材不足だな

これは底上げ(・・・)政策が必須か…」



そう溜め息を吐かれる御兄様ですが、既に頭の中で検討を始められている事でしょう。

御兄様ですから。



──side out



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